第十六話.復活!太陽神大勝利!
第十六話.復活!太陽神大勝利!
何も見えない。
ここまで運ばれてきたので、ここが洞穴の最奥部であるということはわかる。一条の陽も射さない、完全なる暗闇の奥深。大きな岩で蓋をされた天然の蔵だ。
どれくらいの時間が経っただろうか、数時間?数日?何も感じない。時折、ほんの時折身体を束縛するイバラが、みしりと音を立てるのみである。
(はぁ、こんなことなら民を奴隷に出したら良かったのか。五百人と言っても、作物さえ増えればじきにそれくらいの人数も増えるだろうし……)
ぼんやりと考える。あの、豊穣の女神の提案を聞いた時のことを思い出してのことだ。
(いや、民の気持ちを考えろ。もし親や兄弟を生贄にしろと言われたらどう思う。民の命を数字にするな。どんなやつだろうと、俺を信じると言ってくれたやつらだろう)
あまりはっきりしない頭で、いろんなことを考えた。地球で働いていたときにも、後輩なんかは案外慕ってくれたものだ。ほら、他人の気持ちのわかる神様って評判良さそうじゃん。
(そもそもここから出れないと、評判もクソもないんだけどな。あぁ、あの前の神様は心配してくれているかな。ヘテプフェルの民も、俺を心配してくれているだろうか)
しんと静まり返った暗闇の中。
遠くから、何か声が聞こえてきた。
「……!…………!!」
はっきりとは聞こえない。
「……!……!」
ごとり。
大きな音がする。
「にいちゃん!ここであってるのかな?」
「ああ、間違いないぞ。神様を探すんだ」
聞き覚えのある声だ。例の三馬鹿豚兄弟の声だった。
(……こっちだ)
念じてみる。
「神様の声がする!頭の中に直接するよ!にいちゃん怖い!」
「ああ、怖いな!暗いし怖いな!」
「にいちゃん、神様はなんで捕まったのかな?」
「どうせ女神様の美しさに、鼻の下でも伸ばしてたんだろう。すけべそうな顔してたし」
「アクセサリーの趣味も悪かったしね」
聞こえていないと思っているのだろう。失礼なことを言いながら声が近づいてくる。
(こっちだ、はやくこい。おしゃべりはやめろ)
もう一度念じる。
「また声がするよ!にいちゃん!怖い!」
「うん。でもあの神様を信じるって決めたんだ、怖いけど最後まで頑張ろう!」
「うん!」
(……)
コツコツと、足音が聞こえ始めた。それと同時に、大人数の叫び声。
「おい!こっちだ!あの裏切り者ども!」
「いけっ!ぶっ殺せ!!」
ちょっとやばい感じがする。あいつら追われてるのか!?どうしたものかと思っていると、ついに松明を握りしめた三馬鹿兄弟が目の前に現れた。
「見つけた!」
「でもやばいよ!にいちゃん追っ手がきたよ!」
「わ、わかってる!神様を見つけたから早く封印を解こう!」
「封印っていうか、死んでないこれ!?神様死んでない!?」
「テレパシー送ってくるくらいだから大丈夫だろ!急げ!イバラを外すんだ!」
ぶちぶちと、俺の身体に絡まったイバラを、三兄弟が素手で引きちぎっていく。しばらくして、やっと頭部の束縛が解かれた。
「うええ、にいちゃん。怖いよ。この生首」
「いいから、早く胴体の上に乗せよう」
「うええ、いやだなあ」
汚いものを触るように、おずおずと俺の頭を掴んで、いまだにイバラに縛られたままの胴体にくっつけた。何も意識するまもなく、ぴたりと首と身体がくっついた。
「ごぼ、ごほっ。お、くっついた。声も……出るな……」
声がでた。何も問題はなさそうだ、指一本動かせない事以外は無問題だ。
「おい、早いとここの胴体のイバラも剥がしてくれ」
「神様ぁー!声が出た!生きてたんだね」
「ああ、急げよ。追われてるんだろ?」
「そうだった!」
ぶちぶちと、再び俺の身体を覆うイバラの除去作業に戻る。彼らの手のひらは、イバラの棘で血だらけになっている。しかし、そんなことは気にもしていないようで必死に作業を続けている。
この分だと……間に合わない!
気がつけば、十名ほどの豚頭族の戦士たちが取り囲んでいた。
「おい!お前たち!そこの男から離れろ!」
槍を構えて、それを兄弟に向けたまま戦士は大声でそう告げた。
「にいちゃん!怖いよ!」
「急げ、急げ!」
「おい!やめろと言ってるのがわからないのか!」
ゴン、と鈍い音がしたと思うと、豚兄弟の兄が頭から血を流して倒れた。戦士の一人に槍の柄で思いっきり叩かれたのだ。
「にいちゃーん!」
二人の弟は、鼻水を垂らして泣きながらも俺のイバラを必死になって剥がそうとしている。
「やめろ!」
グサりと、次男の胸に槍が突き立てられた。その場に次男が倒れ込む。あいつらついにやりやがった。
「ああー!にいちゃん!神様、神様、神様!助けてよ!」
すがりつく一番下の弟。そうしたいのは山々だが、指一本も動かせない。動かせるのは口だけだ。首も少しは回りそうだ。
「ああ、そうか。今何時だ?」
そう言った。
「何時って、何時って!六時!だよ六時過ぎ!朝の!」
「黙れ!離れろ!その男から離れろ!」
「神様ー!神様ー!」
「離れろというのがわからんのか!」
「なるほどわかった、なら朝日は出ているな」
ボッと、俺の右の眼玉が青く燃えた。
首を大きく上に向けると、勢いよく右目からレーザービームのような青白い筋が一閃飛び出した。洞穴の天井の一部を一瞬で赤く染めると、そのまま青い筋は硬い岩盤を貫通して、地表にまで達する。
「うおっ!?なんだ!」
「邪神が何か放ったぞ、気をつけろ!」
ばっと離れて一定の距離を保った戦士たちは、鋼の槍を構え直した。ビームを出したあと、力尽きたように俺の首はぐたりと下を向く。
そのままこう着状態で数秒。
戦士らのリーダー格の男が、口を開いた。
「なんだ、あれだけか。大丈夫だ、さっきのが最後の悪あがきのようだ」
「びっくりさせやがって」
「邪教徒も邪神も殺してしまえ!」
やいやいと言い始めるところへ、先程開けた天井の穴、直径三センチほどの小さな穴から、陽の光が差し込んできた。それを、俺は浴びた。
ゆらりと俺の身体の周りの空間が歪んだ。蜃気楼のように歪んだと思うと、身体にまとわりついていたイバラがボッと蒸発して消えた。
「うおお!?なんだ!」
豚どもの悲鳴をよそにゆっくりと立ち上がった。身体の周りを青い炎が包んでいる。一瞥するだけで、取り囲んでいた豚戦士らの槍は融けて消えた。
「槍が!槍が!」
「おい、お前ら。よくもやってくれたな。俺の民によくもここまで……」
劣勢を悟ったか、わっと奴らがばらばらに逃げ出す。逃すか。死んでしまえ。
「きえろ」
ばっと手を振るうと、十名の豚戦士たちは断末魔の声をあげて灰になった。首を回すと、ゴキゴキと音が鳴った。
倒れている兄弟らに手をかざす。薄い光に包まれたかと思うと、彼らの出血は止まり、傷は塞がった。
「か、神様!」
「お前たち、洞窟から出ていろ。後で迎えにいく」
「えっ?神様はどうするんですか」
「いや、俺はよるところがあるからさ」
そう、人をいちご大福にしてくれたアホ女に一発くれてやらないと気が済まない。改めて自分の身体をみると、ずいぶんひどい、半裸の状態だった。あれだけ痛めつけられたらそりゃそうか。
「よろいを」
そう呟くと、身体の周りを纏っていた炎が金色の鎧に姿を変えた。うん、戦えそうだ。
「じゃあ、あとでな」
そう言った瞬間。ぼっ、と身体が稲妻に変化して洞穴の天井を突き破った。そのまま地表を突き抜けて、上空に飛び上がる。雲一つない青い空、太陽の下に全てが輝いている。
「あの女は……」
空中で体勢を変えて、豊穣の女神を探す。神殿の方角、呑気に茶を飲んでいたそれと目があった。
「見つけた!」
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