第十二話.出発
第十二話.出発
ある日、いいお天気のある日。そんなある日のことだった。俺は突然叫んだ。
「よし決めた!」
(何を決めたにゃん?)
「うおう!?」
(びっくりしすぎだよ。それで、何を決めたにゃん)
決めた!と独り言を言った瞬間に元神様にツッコミを入れられてびっくりした。大きくのけぞってしまった。ちょっと恥ずかしい。
「いや、一度豚頭族の土地に行ってみようと思ってさ。戦うとかじゃなくって、そもそも向こうの神様の顔も見たことないわけだし」
(うんうん)
「とりあえず出向いてって、向こうの国や神様を見てみようって。それであわよくば協力してもらおう。頼んでみて、ダメで元々なんだしな」
(んーいいんじゃない?でも)
「でも、なんだよ」
なんか引っかかる事を言う。
(ヘテプフェルから離れたら私とこうやって話はできないよ)
「そうなのか」
新たな事実。逆に言えばヘテプフェルにいる限り、頭の中の声から逃れる術はない。
(うん。そういうきまり)
「ま、一生帰ってこないわけでもないし」
(そうだね、お土産よろしくにゃん)
「いや渡せないだろ!」
(にゃはははは)
よし。善は急げだ。
荷物持ちにラクダを二頭用意させて、お供には豚頭族の兄弟三人を連れて行くことにした。連れて行くと言うか道案内人なのだ。
死刑になるから勘弁してくれと言ったが、見つからないように変装しろと言って言いくるめた。万一見つかったとしても助けてやるしな。
へテプフェルの戦士が何名かついて行くと名乗り出たが、それは断った。戦いにいくわけではないのだから、戦士は駄目だろう。
ともかく盛大な見送りと共に、俺と三匹の豚は乾燥した荒野に繰り出したのだった。
暑い荒野を歩いていて感じたのだが、俺は神様になってから喉が渇いたとか腹が減ったっていう感覚がない。どうやら飲まず食わずで生きていけるらしい。食べても食べなくとも良いのだ。
「み、水……」
「喉が渇きました!」
だが平気なのは俺だけで、普通の人間は飲み食いしなければ生きていけない。
変装用にメガネをかけた豚頭族の兄弟たちが口々に不平を述べた。ちなみに彼らに名前をつけてやった。コードネームだ。
一番下の弟が豚三。二番目の兄弟が豚次。長男が豚太郎である。
ちなみにメガネは伊達メガネなのだが、普通のデザインのものは二つしか手に入らなかったため、豚太郎のみ鼻眼鏡をつけている、パーティグッズのヒゲのついたやつである。
そうして炎天下の中歩いていると、ラクダはともかく生身の豚兄弟たちはたまったものではない。ことあるごとに休憩だの、水分補給だのを要求してくる。最初はわかったと、水をやり、休憩を取り、いろいろ世話をしてやった。しかしだんだん兄弟たちの態度が悪くなっていった。
「神様ぁ、フルーツが食べたいです」
「神様ぁ、ジュースが飲みたいです。マンゴーのやつ」
「神様!足が疲れたので揉んで欲しいです」
さすがにキレた。
「ばかやろう!お前ら立場を考えろ!荒野の真っ只中でそんなもん手に入るか!」
「ぶーぶー」
「豚かお前は!」
「豚ですぶー」
「ほう……」
へらへらと笑う豚太郎をぎろりと睨んだ。次の瞬間、ぽっと頭のてっぺんにロウソクくらいの火がともる。
「あちちちっ!?」
たまらず太郎は転げ回って頭の火を消そうとするが、砂をかけても叩いてみても消えない。
「うおっーあちちち!?」
「神様!神様!どうか兄者をお助け下さい!」
「……」
ぱちんと指を鳴らすと、太郎の頭の火は消えた。残ったのは頭頂部の10円玉くらいのコゲ跡だけだ。三人兄弟は正座して、「調子に乗ってごめんなさい」と謝ったのだった。