第十話.太陽の神と呪い
第十話.太陽の神と呪い
「なぁおじさん、豚兄弟の調子はどうだ?」
「はぁ。あれで中々働き者で、神殿の掃除に家畜の世話に、良くやっております」
「おっ!良いじゃん良かったじゃん」
神官長を呼びつけて、この間拾った豚らの状況を聞いてみた。うまくやっていけるか心配だったが、案外器用に暮らしているらしい。
「この調子だったら、どんどん他のところから移住させてさ、ここで面倒見てやったら人手も増えていいんじゃないか?」
そうだ、名案だ。豚頭族でも信仰を持てるなら、ドンドンやつらも受け入れていけば勢力が広がるじゃないか。
「なっ……ダメです。いけません!」
「何でだよ」
「ヘテプフェルは城壁に囲まれた都市。中央のオアシスの水を頼みに農耕を行っているに過ぎません。食料の生産にも限界があるのです、人口にも当然限界があります」
なんだと。街の中はわりと緑が多いので適当にやっても潤沢なんだと思っていたが、そんなに豊かな街ではないらしい。
「じゃあ城壁の外をどんどん開墾していけば良いんじゃないのか?」
「周囲は地面がひび割れるような乾いた大地です。乾燥に強い植物の他は育ちません」
「ウーン」
水がなければ緑もない。当然なんだけど、もっと簡単なものだと思ってたよ。
「じゃあどうすれば良いんだよ」
「慎ましく暮らすか、他より奪うかですね」
「奪うって、戦争を仕掛けて略奪するの?やれそうなのか」
「政治のことは私にはわかりませんので、それは王よりお聞きになれば良いかと存じます」
「あーハイハイ。わかった」
いつまでもこいつの時間を奪ってやるわけにもいかない。適当なところで切り上げて神官長を解放してやった。
適当に彼を見送ると、玉座に腰掛けて貢物のフルーツを頬張った。みずみずしい果物だが、これも民が頑張って用意したのかと思うと、無駄にするのはちょっと気が引ける。結局皮以外は綺麗に食べてしまった。
一息ついたところで、頭の中に直接声が響いた。
(やっほー、調子はどうにゃん?)
「あー、元神じゃん。ぼちぼちだけど」
(こっちは三連勤で疲れちゃったよ。なんか瞬間湯沸かし器みたいな爺さんの客がさあ……)
「ハイハイ」
くだらない話を始めたので、適当に相槌を打っていく。ひとしきり話終わったところで、一つ質問をぶつけてみる。
「ヘテプフェルの人口が増えないのは、水がないから作物を育てるのに限界があるんだって聞いたんだけど」
(あー、うん。そうだね、結構荒地だしねあのへん)
「それで神官長が、他から奪うかなんて物騒な話をしたんだけどさ」
(うん、まぁそうなるよね。あるところから奪うのは普通だよ)
「ウーン。でもなぁ、略奪ってあんまり良い神様じゃないよなあ。ほかになんか良いアイデアない?」
(作物が欲しいなら、水の神か豊穣の神に協力して貰うかだにゃあ)
神様に協力して貰うとな、そんな手があったか。
「豚頭族の神が豊穣の神だったよな、水の神様って?」
(そうそう、豚頭のボスの馬鹿女神が豊穣の神で、水の神はー……蛇頭族の主神だったかにゃ)
「おお!それで協力ってしてもらえそうなのか?」
ちょっと希望の光が見えてきたか。
(ウーン……難しいんじゃない?)
と思ったら落とされた。
「なんで」
(だって、私とあいつら仲悪いし)
「なんで」
質問を繰り返すと、しばらく間を置いてから元神様から返事がきた。
(昔、二百年前くらいかにゃあ。喧嘩になったんだよ、その時は水神と豊穣の神と、あと二柱が仲間になってさ、私と喧嘩したのにゃ)
「四対一ってこと?」
(そうそう。もうゆるせなくって、その時はあいつらの領地の全部を、原始の地球に還して七日間火の海にしてやったんだけど……)
こいつまじか。太陽神どころじゃなくて魔王じゃねえか。原始の地球ってなんだよ。
(それで満足してたんだけど、あいつら日の出ている時と日の沈んだ後には敵わないと悟って、地平線に太陽が重なった瞬間にそうがかりで呪いをかけてきやがってさあ)
「はぁ」
(それで力を封印する呪いと、猫に弱くなる呪いをかけられたわけにゃん)
「ええ……じゃあ弱点が猫なのか?」
(うん、猫に弱いにゃん)
「もしかして俺も?」
(そうだにゃん。呪いが解けない限りはそうだにゃーん)
おいおい、弱点猫ってなんだよ……。そもそも喧嘩するんじゃねえよ!せっかくの計画が頓挫しそうじゃねえか。
「まぁ、そうか。わかった」
(喧嘩したのは私だから、あなただったら相手して貰えるかもね?)
「慰めの言葉をありがとう」
(どういたしましてにゃん)