8話 エリザさんのスパルタ教育
「あ! アレックスさん元気になったんですね!」
「心配かけてごめんな。いつも部屋の前にあったご飯はラウラが用意してくれたんだろ?」
「いや、あの料理はエリじゃなくて、私がメイドさん達に頼んでおいただけですよ」
「そうだったのか。でもありがとうな。作ったメイドさんに凄く美味しかったからまた作って欲しいって伝えといて」
「はい! じゃあそろそろ私は勇者様達の訓練を見にいかなければいけないので失礼しますね!」
「おう! 頑張ってね! 俺はこれからエリザさんの手伝いに行ってくるから」
「え、そうなんですか……アレックスさんも頑張ってくださいね。ど、どうか生きて帰ってきてくださいね?」
そう言ってラウラは去っていった。
ん? なんだ最後の言葉。生きて帰ってこい? なんかもう嫌だな…………
「待たせたな。さあ、行こうか」
「はい…………」
あー嫌だな。行きたくない。
「ん? アレックスどうした?」
「いや! なんでもないです!」
「それなら良いんだが。まず最初はヴァルキリー隊専用の訓練場に行こうか」
「え?」
あははははは。なんで訓練場に行くんだろう。
〜〜〜〜〜
「さあ、アレックス。休むな! 走れ!」
「も、もう無理です」
「何を言っている。お前にはヒールのスキルがあるだろう」
えー鬼かよ。俺には運動なんて無理だって。
「なんだ? その反抗的な目は!」
怖い! 怖すぎる! 今すぐヒールします!
『ヒール!』
急いでヒールを使って俺はもう一度走り出す。
はあ、なんで俺一人で訓練なんだよ。
「いいか! お前の教育係をする上で私はお前の基礎体力を上げなければいけない! そうしなければ私の手伝いはおろかお前と一緒に召喚された奴らと肩を並べて戦うこともできなくなるぞ!」
「は、はい!」
結局俺は訓練場を五十周も走らされた。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「よく走りきったな。ほら、これで汗を拭くと良い」
「ありがとうございます」
「どうだ。腹が減っただろう?」
「はい。そうですね」
「よし、それなら一緒に飯を食べに行こう! いいか? 一緒にだぞ?」
そう言って上機嫌になるエリザさん。
あーこの人やっぱり可愛いな。そんなに一緒にご飯食べる人が欲しいのか。
〜〜〜〜〜
「おー! 今日のご飯はやけに豪華だな!」
「そうですよエリザ。なんてったって今日はアレックスさんの復帰祝いですからね。それにアレックスさんはあの鬼のエリザ隊長の訓練に耐えたんですから」
「そんな復帰だなんて」
「そうですラウラ様。こいつを甘やかしてはいけません!」
「えっエリザさん酷い! ラウラ〜今日はイルジートさんと俺とラウラの三人でご飯食べよ」
「おい、アレックス! それは酷いぞ!」
あっエリザさん怒った。単純だな〜
「冗談ですよ。エリザさんも一緒に食べましょう。寂しがり屋のエリザさんには俺が必要でしょう?」
「お前ってやつは人の事を馬鹿にしないと生きていけないのか?」
「そんな〜酷いですよエリザさん。軽口を叩く俺が好きだって言ったじゃないですか〜」
「お前ってやつはどこまで私を馬鹿にするつもりだ!」
あっやばい照れながら怒ってる。
マズイ、マズイ、これはマズイ。ついにエリザさん剣を抜こうとしてるよ!
やり過ぎた!
逃げなきゃ!
急いで部屋を飛び出した俺を剣を振りながらエリザさんが追いかけてきた。
なんか、こういう生活今までしたことなかったから楽しくて良いな。
ーーーーその日の夕食後ーーーー
今、俺はエリザさんにお城の書庫に連れてこられている。
なんでも三年前に戻らせる前に最低限の知識を与えておきたいそうだ。
それにしてもこの部屋は凄い。天井が高いのに本棚はその天井の高さまである。なのに本棚は本でいっぱいで入らない分が床に何冊も積み上げられている。
「そこに座ってくれ」
エリザさんが指差す方を見る。そこには机が一つと椅子が二つあった。
それを見た俺はこれだけ広い部屋なのに座るスペース狭っ! って思った。
椅子に座ってエリザさんが本を取ってくるのを待つ。
夜ご飯を食べたばかりの俺は眠くなってきた。
「アレックス〜本を持ってきたぞ」
「エリザありがとう」
俺は眠くてぼーっとしていた。いつもならエリザさんって呼ぶのにふとエリザと呼んでしまった。
「今、私の事をなんて呼んだ?」
「ん? エリザって呼んだ」
あーこれ怒られるかもな。
「そうか。なんか良いなその呼ばれ方」
「ん?」
あれ、怒んないんだ。
「私は今までエリザとは仲の良い男に呼ばれたことが無くてな。なんか新鮮でいいな」
「そうなんだ。じゃあ二人だけの時はエリザって呼ぼうかな」
「そうか。アレックス」
そう言って彼女は笑いかけてきた。
その顔をみた俺はおもわず目を逸らしてしまった。
初めて見るエリザさんの純粋な笑顔。それはとても美しくて俺の心をドキドキさせた。
あんなパーフェクトな笑顔セコすぎる。
エリザさんもケインやラウラと同じパーフェクトスマイル持ちなんだと思った。
もう一度エリザさんの方を見るとエリザさんも顔を赤くしていた。
沈黙が俺とエリザさんの間に流れる。
「さ、さあ! 勉強を始めようかアレックス」
「そ、そうですね! 早く勉強しましょう!」
ーーーーーーー
私は今アレックスという男にとても困っている。
あいつは人の事をバカにするのが上手いというか会話をするのが上手いというか。
とにかく私はいつもあいつに舐められてばかりだ。
だから私は今回あいつをヴァルキリー隊専用の訓練場で五十周走らせる事にする。
通常のヴァルキリー隊の訓練でも四十周しかさせないがあいつには痛い目にあってもらおうと思った。
でもあいつはヒールを使いながらクリアしてしまった。
そんな事ならヒールを使えってアドバイスするんじゃなかったな。
そして私は次にラウラ様の前でまたあいつにバカにされた。
しかもラウラ様はそんな私とアレックスのやりとりを見てニコニコと笑っています。
お願いです! 一回あいつを注意してください!
調子に乗ったあいつは恥ずかしい事を言ってくる。もう許せない! 一回懲らしめてやる!
剣を抜きあいつを追いかけるが、何故か本気であいつを捕まえて懲らしめようとは思わなかった。
夜ご飯を食べた後あいつを城の書庫に案内した。
あいつは眠そうにしながら書庫の椅子に座っていた。
いくつか本を取ってきた私はあいつに声をかける。
するとあいつは私の事をエリザと呼び捨てにしてきた。いつもはエリザさんと呼ぶのに突然なんでだろう。
でも何故かそう呼ばれた私は嫌な気持ちにならなかった。むしろそう呼んでもらえて嬉しかって気がする。
あいつはエリザと呼び捨てにするのは二人だけの時にすると言ってきた。二人だけの時にだけ呼んでくれるんだ。じゃあ二人だけの時間を増やさないとな。
その後、あいつと見つめ合った時私は不思議と恥ずかしくなり目を逸らしてしまった。
ああミカエラ、何故こんな奴の教育係を私に任せたんですか?
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