7話 引きこもり生活
「この一週間は私の人生で一番最高の瞬間だったよ」
そう言ったミカエラは俺に抱きついてきた。
そのまま彼女は一筋の涙を流しながら俺の腕の中で息を引きとった。
俺は冷たくなったミカエラを抱きしめながら静かに泣いた。
一瞬話せただけでも奇跡なのだ。
口から魔力を流すと効果が激増するという話をミカエラから聞いておいて良かったと思った。
俺がキスをしながらヒールを最大限使ったとき彼女の身体が光った。
他の人は奇跡が起こって彼女が助かったと思ったのだろう。
でもそれは一時的なものだと俺にはすぐに分かった。
なぜなら彼女の体は徐々に冷たくなっていたから。
「アレックス。そなたにこのような思いをさせてしまって。本当にすまなかった。しかし、世界を救うためにはどうしても必要な事だったのだ」
イルジートさんが声をかけてくる。
「大丈夫ですよ。分かってますから」
そう言いながら俺は彼女の体をベッドに寝かせる。
気づけば俺の紳士スキルは最大レベルまで上がっていた…………
ーーーーその日の午後ーーーー
イルジートさん達とミカエラの葬儀をする。
ミカエラの葬儀の間俺は何も考えられずにぼーっとしていた。
まさかまたこの感情になるとは思ってもいなかった。
心が押しつぶされそうだ。
あ、また泣いてるのか俺。
もう俺何でこんなとこにいるんだろう。
葬儀が終わった。
すると誰かに突然後ろから抱きつかれた。
後ろを振り向くとそこにはラウラがいた。
「アレックスさん。大丈夫ですか? 何か私にできる事があれば何でも言ってください!」
「ありがとう。でも今は大丈夫だよ。今日はもう疲れたから寝るよ」
そう言って彼女の腕を振りほどき、自分の部屋に戻ろうとする。
部屋にもどろうと情けなくフラフラ歩き始めるアレックスの後ろ姿をラウラは泣きそうになりながら見つめていた。
「アレックスさん…………」
〜〜〜〜〜
はあ、朝か。窓から入ってくる太陽の光がうざい。
カーテン閉めよ。
何もしたくないな。
毛布被ってもう一回寝るか。
どれくらいかするとまた目が覚める。
ああ、今何時なんだろう。
腹減ったな。
そう思った俺はベッドから出て部屋の扉を開ける。
俺の部屋の前には誰かが作ったご飯が置いてあった。
これは多分俺のために作ってあるんだよな。
俺は部屋の前にあったご飯を食べて部屋の前に空の皿を戻した。
また寝るか。
俺はそんな生活を繰り返していた。
今が何日ぐらいたって何時なのかも分からない。そんな事を考えるのも諦めた。
はあ、もう疲れた寝よう。
〜〜〜〜〜
はあ、また腹減ったな。
ドン! ドン!
あっ誰か来た。寝てるふりしよ。うるさいな。
ドン! ドン! ドガーン!
ん!? 何だ今の音。
「おい! 起きてるか?」
「なんですかエリザさん。うるさいですよ」
俺はベッドから起き上がりながら返答する。
「なんだ起きてるのか。ラウラ様から飯だけは食べていると聞いていたがそれは本当らしいな」
「俺の生存確認が終わったら出ていってもらっていいですか?」
俺は冷たく返事をする。
「いや、私がきた理由はお前の生存確認ではない。お前を今の状況から抜け出させるためにきたのだ」
「そんな事しなくていいですよ。それにそんな事頼んでませってうわぁ!」
突然俺の体が浮いた。そして気づいた時にはエリザさんの肩に担がれていた。
「うるさい! お前が寝込んでからもう一週間以上経ってるんだぞ。一回ぐらい外に出て外の空気を吸え!」
俺を担ぎながら部屋を出てお城の廊下を歩き始めるエリザさん。
「わ、わかりましたから。俺をおろしてください。自分で歩けますって」
「ダメだ」
「いや、あの〜エリザさん。さっきからすれちがうお城の人達の視線が痛いんですけど。てかこんな人通りの多い廊下知らないんですけど? もしかしてわざとやってます?」
「我慢しろ。私がどんな思いで長い間お前が部屋から出てくるのを待っていたと思う? せっかくミカエラにお前の教育係を命じられたというのに。これではミカエラをガッカリさせてしまうじゃないか。それに…………」
突然声が小さくなって黙る。
「それに?」
俺は気になったので質問する。
「それに、その、よく軽口を叩くお前が飯の時にいないと寂しいし楽しくない………………」
え? いつも食べてる途中にいじると飯の時間を邪魔するなとか言ってキレてたあのエリザさんが?
もしかしてエリザさんってツンデレなの?
なんだろう俺の中でのエリザさんの好感度が上がった気がした。
「それは大変嬉しいことです。エリザさんがこの僕と話す事を楽しんでいてくださったとは」
とワザと丁寧にお礼をする。
「な! お前何故こんな時だけ凄く丁寧な喋り方をするんだ!」
そう言って少し照れるエリザさん。
やっぱりこの人をいじるの楽しいな。
「さあ、もう外に出るぞ」
「あっそうですね」
「そろそろ下ろすぞ」
「ありがとうございます」
あー久しぶりの外の空気美味しいな。
こころなしか気分が楽になった気がした。
「そうだ、今日の予定はないだろう?」
「はい、いつも通り何も予定はないです」
「なら外の空気を吸ってリフレッシュしたら今日は私の一日に付き合ってもらおうか」
「えーなんか凄いハードな気がするんですけど。まあ、いいですよ」
俺は渋々許可をする。
「お前はまたそうやって余計な一言を。素直にはいとは言えないのか」
「素直に返事をしたらつまらないでしょう? エリザさんは軽口を叩く俺が好きみたいですしね!」
そう言って満面の笑みで振り返る。そして俺は急いで走り出す。
「な! お前!」
そう言って顔を真っ赤にさせたエリザさんは俺の事を追いかけてきた。
しかし毎日訓練をしているエリザさんに勝てるはずもなく、俺はすぐに捕まるのだった。
エリザさんとふざけながら俺は突然空を見上げて『ミカエラ、この世界で俺はもう少し頑張ってみるよ。』とそんな事を思った。
少し遊んだ後エリザさんと話しながら部屋に戻ると俺の部屋のドアが粉々に吹き飛んでいた。
あーあの凄い音は扉が粉々になる音だったのか。
俺がエリザさんの方を向くと彼女は俺から目を逸らした。
その後二人一緒にイルジートさんにしっかり怒られました。
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