3話 一週間のタイムリミット 前編
「私ね、今回の召喚の影響であと一週間しか生きられないの」
その言葉を聞いて俺は何も反応出来なかった。
ただ呆然とその場で固まってしまった。
「ごめんね、昨日のうちに言わなくて」
その言葉で我に帰る。
同時に俺は取り乱さないように急いで紳士スキルを発動させる。
でも、スキルレベルが低いからか全く紳士的な振る舞いができない。
どうにか感情が顔に出ないように努力する。
『紳士スキルがLevel 4になりました』
『紳士スキルがLevel 5になりました』
『紳士スキルがLevel 6になりました』
『紳士スキルがLevel 7になりました』
ありえないスピードで紳士スキルのレベルが上がっていく。
だめだいくらレベルが上がっても全然感情がコントロールできない。
俺は諦めてスキルの使用をやめた。
そして俺は震えながらも口を開いた。
「そっか。まあ元の世界で死んだ大切な人とまた生きて出会えただけで幸せだよ」
またミカエラの前で涙を流すわけにはいかない。何故か俺はそう心の中で思った。
彼女にこれ以上心配をかけたく無い。その気持ちがそうさせたんだ。
「でさ、アレックスさえ良かったらこれから一週間一緒にいてくれないかな? 残りの時間を少しも無駄にしたく無いんだ」
「そんなの…………もちろん断るわけないじゃん。俺だって残りの時間ずっと一緒にいたいよ!」
「そう。その返事が聞けて私は嬉しいよ」
そう言って笑う彼女の笑顔はどこか辛そうだった。
ああ、どうしよう。もうご飯食べる気じゃなくなったな。
何も口を通らない。はあ、このご飯はエリザさんにあげよう。
さっとエリザさんの側に皿を動かすと凄い勢いで皿を引ったくって綺麗に一気に食べた。
うわぁ、凄いな。忘れてたけどこれって一応王様の前だよね? エリザさん遠慮ないな。
「今日の午後は王国を観光しない?」
「うん、良いよ。ミカエラの案内楽しみだな」
「ちょうど良いからその時に新しい服を買お! 流石にその服は無いと思うからさ」
ミカエラは俺の服を見ながら言ってくる。
「う、うん。そうだよね。用意したの俺じゃ無いんだけど…………」
そういながらエリザさんを睨んでみる。
ご飯に夢中のエリザさんはそんな俺の視線に気づかなかったようだ。
いつか絶対復讐してやるからな。
〜〜〜〜〜
その日の午後、ミカエラとファーレンの街に出かけた。
俺にとったらこれは久しぶりのデートだ。
まあミカエラがどう思っているかは分からないけど。
「とりあえず最初は洋服見に行く?」
「うん。そうしたいな」
「どんなのが着たい? 鎧? ローブ? でもやっぱりアレックスはスーツかな?」
「え! スーツあるの? じゃあもちろんスーツでお願いします」
「おーやっぱりアレックスはスーツ大好きだね〜分かった! じゃあついて来て〜」
ミカエラに連れられて少し歩き、オシャレなお店に入る。
なんか緊張するな。
「いらっしゃいませー!」
おお、この世界にも接客用語はあるのか。そんなくだらない事で感動する俺。
「どういった物をお探しですか?」
「彼に合うスーツを探してるんだけどある?」
「スーツですね! 少々お持ちください」
そう言って女性の店員さんは奥の部屋から何着か持ってきてくれた。
「今うちにあるのはこんな感じのですね」
「えっこれ地球にあるスーツとほとんど一緒じゃん」
「驚いたでしょ。私も初めて知ったときは本当に驚いたよ。神話に載っている勇者が召喚された時に着ていた服を元に作られたらしいよ」
「てことは神話の勇者はサラリーマン?」
「おそらくそうだよね」
「そんなテンプレみたいな…………」
「さあ試着してみてくれない? 久しぶりにアレックスのスーツ姿が見たい」
「そうだね。着てみよっか」
「じゃあ試着室はこちらになりまーす」
俺は案内された試着室でいくつかあるうちの一番無難なスーツに着替える。
この感じ懐かしい。俺は元々老け顔だったから中学時代からスーツとか凄いに合ってたんだよな。
でもちょっと作りが安い気もするな。そう思いながらも試着室からでてミカエラに見せてみる。
「やっぱり不思議だよね。まだアレックス高校生なのにスーツが最高に似合うなんて」
「それは褒め言葉として受け取るからね?」
俺はニヤッと笑いながら喋る。
「で、それは気にいった?」
「うん。かなりね」
「それなら良かった! じゃあ一応異世界っぽい服も買っておこうか」
「異世界っぽい服ってどんなの?」
「うーん。やっぱり治癒魔法が使えるんだったら魔法使いみたいなのが良いよね〜」
えー絶対この世界の魔法使いの人センス悪いからカッコいい服なんて無いもん。
今日の朝有った服が全てを物語ってる気がする。
「あっそうだ! 私が前にダンジョンの最下層で見つけたのがあるからそれあげる! 絶対気にいるよ!」
「えーもう既に嫌な予感がするんだけど」
「まっ物は試しって事で! 明日見せるね」
「はいはい。楽しみにしてますよー」
「じゃあ今日はそのスーツだけ買って、残りの時間は街をブラブラする?」
「いいね、そうしよう」
その後俺とミカエラは今王国で人気のお菓子屋に行ったりカフェに行ったりした。
途中ミカエラがとあるネックレスを凄く欲しそうに眺めていて店の前から動くまでかなりの時間がかかった。
俺がお金を持ってたら買ってあげられるのにな。でも今の俺には食べ物を買うお金もない。
これは早急になんとかしなきゃいけない問題だな。
途中ミカエラにこの世界のお金の説明を受けた。
この世界には紙幣は存在せず、硬貨のみだそうだ。
銅貨、銀貨、金貨、白銀貨があるそうだ。
ここら辺は普通に異世界もののジャンルが好きな人なら分かるだろう。
この世界では銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨十枚で白銀貨一枚らしい。
その他にこの世界には王族が持つ特別な硬貨があるらしい。それはその王族が治める国や友好のある国のみで使えて、その硬貨をお店などで見せれば料金の請求はその王族にされるらしい。
いいな、その硬貨最高じゃん。何かしら頑張ってイルジートさんから貰えないかな。
そんな感じで今日一日はこの王国の観光やこの世界のちょっとしたことの説明で終わった。
なんだかんだで遅くまで遊んでしまい、お城に帰った時にはエリザさんとイルジートさんの娘さんに怒られてしまった。
そういえばイルジートさんの娘さんは俺より二歳年下でラウラ・ファーレンというらしい。みんな名前かっこよくていいな。
その日の夕飯はエリザさん、ミカエラ、ラウラ、俺の四人で楽しく食べた。
相変わらずエリザさんの食べる量が凄い。
みんなで笑いながら食事を共にして俺は久しぶりに楽しい食事をした。
そんな幸せな時間を過ごしながら俺はこんな時間が一週間以上続いて欲しいと思ってしまうのであった。
タイムリミットまで残り六日
読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は明日の18時頃を予定しています。