2話 残酷な現実
俺とエリザさんはミカエラの部屋の前に来る。
「ミカエラ様失礼します」
「うん、入って」
この声はやっぱりミカエラの本人だ。でもなんか声が大人びている気がする。なんか凄く緊張してきた。
部屋の扉が開く。そこには俺の知ってるミカエラはいなかった……
それもそうだこっちの世界でもう六年経っているんだから。今の俺達は簡単に言うと三歳差だ。
そりゃあ俺より大人びていて当然だな。
「ミカエラ様、アレックスさんをお連れしました」
「てことは儀式は成功したのね?」
「はい、それはもう完璧に」
「そう、じゃあこれから大事な話があるから私とエリザとアレックスの三人だけにしてくれるかしら?」
「「かしこまりました」」
と言って二人の女性が出て行った。
ミカエラは俺の事を見て優しく笑いかけてきた。
「さあ、何からはなそうかな。とりあえずアレックス、久しぶり! また会えて嬉しいよ! こんな情けない格好でごめんね」
あっやっぱり俺の知ってるミカエラだ。相変わらず大人っぽくて美人だな。
いや、大人っぽいっていうか実際俺より三歳年上になってるしな。まさかこんな形で再開できるなんて思ってもみなかった。
嬉しい、凄く嬉しい。今までの気持ちや考えが全部吹っ飛んでミカエラにまた会えた事に対する喜びだけになる。
「久しぶり。また会えて凄く嬉しいよ。三年ぶりだね、ミカエラからしたら六年ぶりか」
今までの思いが込み上げてきて泣きそうになる。俺はこんな時になんて言ったら良いのか分からなくなって無理に笑ってみせた。
「アレックス…………何も言わなくていいよ。泣いてもいい、無理して笑わないで。今まで辛かったでしょ。本当にごめんね。ほら、こっちにきて」
そんな優しい事をミカエラが言ってくる。その言葉を聞いて俺の目から涙が溢れた。俺は泣きながらミカエラが寝ているベッドの脇に行ってミカエラに抱きついた。
この感じとても懐かしい。この優しさ。彼女の全てが今の俺にとっては懐かしいものだった。
今はこのままで。ずっと一緒にいたい。もう失いたくない。彼女を愛している。
そんな事を思いながら俺はミカエラに抱きつきながら沢山泣いた。
本当に俺って子供だなと思いながら、召喚初日から色々な事があった疲れからかミカエラの腕の中でゆっくりと眠りについた。
そんな俺を見て
「ミカエラ様」
とエリザが困った顔をしながら尋ねる。
「今日はそっとしておいて。やっと感動の再開ができたのだから。話をするのは明日でもいいでしょう? もう夜も遅いし」
「ですが、時間が」
「分かってる。でもまだ一週間は時間がある。その間にしっかり私のするべき事をするわ」
「分かりました。それでは今日は失礼します。おやすみなさい」
そう言ってエリザは部屋から去って行った。
アレックスとエリザの二人だけになった部屋。そこで今までの落ち着いた様子と違いミカエラは静かに泣き出した。
「アレックスごめんね。また、あなたに会えたのに。私はまた、あなたを傷つける。またあなたを一人にしてしまう………………」
ミカエラは幸せそうに眠るアレックスの頭を抱きしめながら静かに泣き続けた。
ーーーー次の日の朝ーーーー
ドン、ドン、ドン! ドン、ドン、ドン!
うるさいな…………
あーまた頭痛がする。こっちの世界に頭痛薬あるのかな。
ドン、ドン、ドン! ドン、ドン、ドン!
あの音、頭に響く。
そうだ、スキルって頭痛に効くのかな。
『ヒール!』
そう念じてみると多少頭の痛みが引いた。
お? これ効くぞ!
『ヒール!ヒール!ヒール!』
凄い! 完全に頭痛が消えた! これは素晴らしいスキルだ。今度また頭痛になったらヒールを使おう。
そうだ誰か来てたの忘れてた。昨日泣きながら寝ちゃったのか。てか、ここの部屋は?見たことない部屋だ。
「知らない天井だ」
このセリフ言ってみたかったんだよね。
ドン! ドン! ドン!
あっやばい扉の向こうの人は待たされてかなりお怒りの様だ。今にも扉が吹っ飛びそうなので急いで返事をしないと。
「はい! はい! 起きてますよ〜! どちら様ですか?」
「アレックスさん、エリザです。もうお目覚めでしたか。洋服を着替えたら出てきてください。皆と一緒にお昼ご飯を食べましょう」
いや、俺の事を起こしたのはあのうるさいノックだよ! とツッコミそうになるのをグッと抑える。
てかもう昼なのか。そりゃあエリザさんの機嫌が悪くて当然だ。あとで謝らないと。
「はい! ちょっと待っててください。今すぐ行くので!」
そういえば着替えってどこだ?
あっこれか。うわ! 何この服…………
そこにはかなりセンスの悪い服が置いてあった。
このローブなんだよ! 緑色だと? ダサすぎるじゃねーか。
何これ着たくね〜。てか俺はこの世界で魔法使い扱いなのか?
「あのーエリザさん? 他の服ってないんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「早くしてください。皆さんがお待ちです」
何も反論できない圧のある返事が帰ってきた。
「あっはい。迷惑かけてすいません」
それしか返答できない。余計な事を言ってこれ以上機嫌を損ねるのはやめようと思った。
俺は嫌々ダサい服に着替えて部屋を出る。
「おはようございますエリザさん。待たせてすいません」
とりあえず頭を下げて謝っておく。
「その服とてもお似合いですね。ぷっ……」
今この人俺の服装見て笑いやがった!
「私が用意して正解でした」
あんたが用意したんかい! 嫌がらせか! 朝起きるのが遅いだけでこんなダサい服着させるなんて。
この時俺はこの人をもう怒らせるのはやめようと思うのだった。
「さあ、エリザさんお昼を食べに行こ。昨日から何も食べて無いからもうお腹がペコペコで」
歩き始めたエリザさんが
「そうですね。私もあなたのおかげでお腹がペコペコです」
そう言って笑いかけてきた。
あれ? なんだろう地雷を踏んだかな? エリザさんは凄い美人で本当は笑顔に見惚れるはずのに、物凄い怖い。なんなら殺意を感じる。
うん。食べ物の恨みって怖いね。
てかエリザさん最初みんなって言ってたな。他にもお昼を食べるのが遅くなってイライラしてる人がいるかもしれないなんて!
あーどうしよう、どうしよう、どうしよう。
よし、紳士スキル使って謝れば許して貰えるだろうから最悪の場合は使おう。
そんな事を考えながらエリザさんの後を追いかけて大きな部屋に入る。
そこには映画で見るような奥に続く細長いテーブルがあった。
一番奥の席に座るイルジートさんと目が合った。
「お、おはようございます」
急いで挨拶をする。
「おはよう。昨日はよく眠れたかな?」
「はい。素晴らしいベッドで眠れたのでもう元気いっぱいです!」
「そうかそれなら良かった。さあ、席に座ってくれ。もうすぐミカエラも来る」
そう言われて俺はイルジートさんに一番近い席に座る。その隣にエリザさんが座ってきた。
怖いってなんで俺の隣に座ってくるのよ。反対側も席あるじゃん。
エリザさんは今怖くて話しかけられないので、何かイルジートさんと話そうかと思って口を開こうとしたら、ミカエラが部屋に入ってきた。
「おはよう。アレックス」
「おはよう。ミカエラ」
ああ、この普通の会話でさえも凄く幸せだ。また会えるなんてな。本当にびっくりだよ。
ミカエラはまだ儀式の後遺症からか少しフラつきながら俺の反対の席に座る。
それと同時にイルジートさんが机の上に置いてあるベルを鳴らした。
すると入ってきた扉とは別の扉が開きメイドさん達がご飯を持ってきた。
おおー! これぞ異世界の醍醐味! 異世界飯とメイド!
これは大興奮間違いなし!でも王様の前だから我慢しないと。
紳士スキル発動!
ふう。よし、だいぶ落ち着いた。
そうこうしている間に目の前に見たことのない料理がズラリと並んだ。それに驚いていた時にはもうメイドさん達はいなくなっていた。
「では、いただくとするか」
そうイルジートさんが言ったので遠慮なくいただく事にする。
てかもうエリザさん食べ始めてるじゃん。そんなにお腹空いてたのか。
なんか本当にごめんなさい。
「ねえ、アレックス。言わなきゃいけない事があるの」
俺が異世界飯を堪能しようとしていると突然ミカエラがそんな事を言い出す。
「ん? どうしたの?」
普通に聞き返す俺に対してミカエラは何か覚悟を決めた顔をしてきた。
少し間が空いた後、
「私ね、今回の召喚の反動であと一週間しか生きられないの」
ミカエラはそう言ってきた。
読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は明日の18時頃を予定しています。