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変な汗が出る。大型トラックって難しい。(ある意味、修行回)

「車輌召喚。」


 輸送部隊が待っている街へ間もなく到着という地点になって、俺は着地して、大型トラックを召喚した。

 大型トラックの操縦は、普通自動車とは違ってかなり独特らしいとは聞いた事がある。排気ブレーキなる独自のブレキーシステムがあるとも聞いている。まずそのあたりの操作に慣れなくてはならない。練習あるのみだ。


「てか、排気ブレーキって、どうやって使うんだ?」


 まずそれが分からない。スイッチなのか、レバーなのか、ペダルなのか……足下を確認したが、アクセルペダルとブレキーペダルしかない。おっと、もう1つあった。サイドブレーキペダルだ。ちなみにこの大型トラックはAT車なので、クラッチペダルはない。

 ATといっても、シフトレバーを見ると「P/R/N/D/2/L」ではなく「P/R/N/D+/D-」である。「D+」はシフトアップ、「D-」はシフトダウンだ。大型トラックを運転するのは初めてだが、同様のセミオートマは一部の乗用車にも搭載されているから操作は知っている。

 次に座席の左右を確認する。サイドブレーキレバーみたいな感じでレバーがあるのだろうか、と探してみるが、見当たらない。タクシーで後部座席のドアが勝手に開くのは、運転手が座席側面のレバーで動かしているからだというのは、昔テレビで見た事がある。だが、それとは違うようだ。

 さて、そうするとハンドル周辺のいろいろあるボタンのどれかだろうか。1つ1つ絵柄を見ながら意味を考えていく。フォグランプやオートクルーズのボタンは分かる。意味が分からないボタンも多い。ASRとか書いてあるボタンがまた付いているが、本当に何だろう、これは? あとランプ系のボタンがやたら多いようだ。どのボタンがどこのランプなのか分からない。

 それよりブレーキだ。自分で踏ん張ってくれる人員輸送と違って、今度は貨物輸送。荷物は自分で踏ん張ってくれないから、急ブレーキになってしまったら荷崩れを起こす。ブレーキペダルを踏むだけでは、どんなにそーっと踏んでも急ブレーキになってしまう事は分かった。荷物を積めばエンジンブレーキはそれほどアテにならないだろう。排気ブレーキの使い方を見つけないと……。


「……うわ。雨かよ。」


 まごまごしている間に、雨が降ってきた。とりあえずワイパーを動かそうとして、動かない事に気づく。そんなバカな。スキルで召喚した車輌に故障なんてあるわけない。……ん? 待て。このレバーに表示されたマークの描き方は……回すのか? おお、動いた。レバーのくせに、つまんで回すのが正解とか、嫌がらせか。乗用車ならリアワイパーが動くところだ。


「……お?」


 気づけば変な警告灯が点灯している。これは、下り坂を進む車体の後ろにパラシュート? ブレキーがかかるという意味か? 走って確かめてみよう。

 まずレバーを元に戻し、普通に走って、普通にブレーキペダルを踏む。急ブレーキになってしまう。この感じは大型バスを運転するときにも味わったな。……もしかして大型バスにも排気ブレーキがあるのか?

 次に、再び走って、ワイパー側レバーを動かす。シフトダウンした時のように、体全体が後ろへ引っ張られる感覚が起きた。どうやら正解だ。しかし、排気ブレーキ特有の「プシュー」って音がしないな。なぜだろう?

 まあ、なんでもいい。とにかく排気ブレーキらしきものが見つかったんだ。少し練習して、仕入れ先へ向かおう。

 ……リターダーって単語が頭に浮かんだが、何だろう? 聞いた事がない言葉だ。


「……っと。その前に。」


 荷台の開け閉めの方法を見つけておかないと。コンビニに納品しているトラック運転手の作業を見た事があるから、そっちはだいたい検討がつくが……。いや、全く違う操作方法という可能性も……操作ボタンが同じ所に付いているといいな……と願いながら、トラックの後ろへ回り込む。

 で、後ろに回り込んで気づいた。扉がない。なぜ? 開閉スイッチは見つけたが、押しても反応がない。なぜ? どこぞにメインスイッチみたいなのがあるのか? 電源ボタン的な。どこだ、どこだ、どこだ……ヾ(◎o◎,,;)ノ

 (゜-゜;)オロオロ(;゜-゜)

 オロオロ(゜ロ゜;))((;゜ロ゜)オロオロ

 オロ(;゜Д゜)ノヽ(д゜;)ノヽ(゜ )ノヽ( ゜)ノヽ(;゜д)ノヽ(゜Д゜;)オロ


「……こ……これか……! マジかよ……こんな所に……ッ!」


 ……運転席にあるとは……(꒪ཫ꒪; )

 スイッチを入れて、開閉ボタンを押す。


「……マジかよ……。」


 ……動かない……なぜだ……。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 エンジン切らないと動かないのかよっ! 面倒くせぇ!

 今度こそ。スイッチを入れて、開閉ボタンを押して……バキバキッ! ……え? ……あ。変形した。これ、ウィング車だったのか。フックを外し忘れてウィングが変形してしまった。てか、ウィングの開閉装置って、すごいパワーあるんだな……。

 だが、再召喚すれば新品になる。車輌召喚スキルのここが便利なところだ。雨天でウロウロしている間に、俺はずぶ濡れになってしまったが。……今度、服の予備を買っておこう。無限収納に入れておけば邪魔にならない。






「すげえ!」

「なんだ、このデカい馬車は!?」

「馬がないぞ!? どうして走るんだ!?」


「おいおい、どんだけ入るんだよ!?」

「荷車6台分が全部入るとか、どんな馬車だよ!」

「馬車が……馬車が丸ごと4台入るだと……!?」


 輸送部隊と合流して、荷車や馬車もろとも積み込む。荷車はフォークリフトで積み込んだが、馬は輸送部隊の兵士たちに手伝ってもらってスロープを作った。馬車の車体のほうはフォークリフトだ。輸送中に車体が馬を傷つけてもいけないので、馬と車体は分離して積む。

 輸送部隊の兵士たちには、助手席に乗ってもらう。大型トラックの助手席には2人乗れるスペースがあるが、俺のスキル「過積載」で200人が乗れるようになっている。輸送部隊は100人ほどだ。余裕で乗れる。しかし、外から見た車体サイズが変わらないのだから不思議なものだ。空間を拡張する魔法効果という事だろう。

 大型トラックの高い視界と、滑らかな乗り心地。初めての体験に、兵士たちがはしゃぐ。荷車も馬車もサスペンションなんてないから、未舗装道路をガタガタ揺れながら走る。そんなのに慣れている人たちには、さぞかし乗り心地がいいだろう。はしゃぐのも分かる。しかし、魔物と戦う討伐部隊が見えてくると、彼らの表情は引き締まっていった。


「降ろしてくれ。俺たちもここで参戦する。」


 と言うので、停車した。

 輸送部隊は、魔物に足止めされている間に街で食糧などを購入しており、荷物さえ俺に預けてしまえば戦闘する余裕がある。さらに実際は、車輌まで俺に預けているので操縦要員も不要になり、全員が戦闘に参加できる。

 任務の途中でよけいな事に首を突っ込んでいる、などと問題になる心配もない。元々の任務が輸送なので、その途中で魔物が邪魔になれば討伐するのが普通だ。戦力的に不利だったから荷物を守るために戦わず、足止めされていただけである。

 この申し出に、討伐部隊は喜んだ。200人の討伐部隊に100人ほどの戦力が加わるのだから、討伐にかかる時間はほとんど半減する。物資も余るし、戦闘に余裕も持てる。それに、討伐部隊はもともと討伐作戦のために出撃したから、輸送部隊が通過しても討伐が終わるまで帰れない。協力の申し出は嬉しくて当然だ。

 俺も蹴りで参戦した。ゴブリン将軍やゴブリン王ほど強力な魔物はいない。蹴り1発で直線上の魔物をまとめて粉砕できる。1匹1匹からの経験値はそれほど多くないが、数が多くてそれなりの量になる。ちょうど、スキルレベルも1つ上がった。

 間もなく周辺の魔物はすっかり討伐された。


「いやぁ、助かった!」

「こっちこそ。討伐に来てくれてありがとう!」

「ジャック。あんたもだ。運んできてくれてありがとう!」

「ああ、あんたのおかげだ。本当にありがとう!」


 喜ぶ兵士たちに、俺は苦笑する。


「喜んでいるところ、すみませんが……せっかく討伐したんだから、死体を回収していきましょう。

 積み込んでください。冒険者ギルドに運んで売れば、飲み代ぐらいにはなるでしょう。」


 戦闘で疲れ、やれやれ終わったと思ったタイミングで「追加で働け」と言われるのは、精神的に非常に苦しいものがある。訓練中にはわざとそれをやられた事もある。教官を恨んだものだ。

 だが、このときの兵士たちは喜々として積み込み作業を始めた。


「飲み代にしちゃ、いい稼ぎになりそうだ!」

「盛大にやろうぜ!」

「浴びるほど飲むぞぉ!」


 元気な……いや、現金な奴らだ。

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