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ため息が出る。指揮官がクソだ。

 野営地に戻ると、すでにそこそこの人数が集まっていた。しばらく待てば、さらに大勢が逃げ帰ってくるだろう。

 俺たちは、まず医療班のテントへ向かった。ポーションの予備があるはず――と思って行ったのだが、運良く回復魔法を使える兵士が戻ってきていた。ただしテントの中は負傷兵でいっぱい。テントの外にも治療を待つ負傷兵が溢れている有様だった。どうやら重傷者ほどテントに近い位置にいるらしい。おそらくテントの中は瀕死の重傷になっている者だけが集められているのだろう。

 そうしてみると、ルナシー王女殿下の足の骨折なんてのは命に別状のないものだ。この場に居る負傷兵の中では、比較的軽傷といっていい。


「引き返せ。」


 ルナシー王女殿下が、俺の背中で命じる。

 え? と思わず聞き返した。


「私の足は、今すぐ治療が必要なものではない。

 どうせこの部隊はもう戦えない。まずは重傷者の応急処置を済ませ、命に別状のない者はそのままで、最寄りの駐屯地へ向かうべきだ。そうすれば駐屯地には物資も人員もたっぷりある。そこで全員の治療を済ませ、王都に戻る。訓練は中止だ。世話になった駐屯地への物資の補給も指示せねばならんし、訓練中の事故として今回のことを報告もせねばならん。

 今ここで無理に私の治療を優先させて、手当てが遅れた重傷者が死ぬような事があってはならん。」

「なるほど。感心するばかりです。」


 さすがは王女殿下。視点がすでに指揮官レベルだ。何をするべきか見えている。今すぐ指揮を執れと言われても、できてしまうだろう。しかし、王侯貴族が骨折の痛みを我慢して平民を優先するというのは、あまりにも異例の事だ。


「しかし――」

「どうした?」

「殿下はどうして新兵に混じって従軍するのかと……あまりに異例の事です。」


 異例と言えば、そもそも王女が新兵に混じっているのが異例だ。貴族の息子などは、指揮官からスタートする。それは身分をひけらかしているのではなく、個体戦力を鍛えるよりも指揮能力を鍛えた方が、軍(集団戦)としては効率的に強くなれるからだ。


「分からぬか?」

「剣術の派生スキルに指揮能力を強化するものがあるために鍛えていらっしゃるのか、さもなければ殿下が本気で指揮能力を磨くために末端の兵について学んでおこうとお考えになったのでは……と、その程度のことしか思いつきません。」

「ふむ。たいしたものだな。両方正解だ。

 加えるに、立場を超えた友を得るため、という目的もある。王族などやっていると、なかなか気の置けぬ友などできぬからな。寄ってくるのは、みな何かしらの営利目的がある者ばかりだ。しかし王もまた人間なれば、時に心の支えとなる友が必要なのだ。」

「なるほど。立場の高い者は孤独だとは聞き及びます。」

「うむ。それゆえ、そなたも私の身分を漏らさぬようにな。」

「承知しました。」


 では移動しましょう、と医療班のテント前から立ち去ろうとした時だった。


「どけどけ、通せ! ええい、邪魔な奴らめ! 回復兵はおらんか! 俺を治療しろ!」


 騒々しい男がやってきた。

 何事かと見てみると、指揮官が肩口から血を流しながら、ドカドカと負傷兵たちをかき分けていた。

 袖が血に染まっているのは痛々しいが、その傷はどう見てもテントの外の最外周で待つレベルのものだった。自分で水でもかけて洗って、支給される着替えの服でも包帯代わりに巻いておけば十分だろう。現に似たようなレベルの負傷兵たちは、お互いの傷を応急処置し合っている。


「なんという奴だ……!」


 ルナシー王女殿下は憤る。

 だが、俺を含めて兵士たちは誰も騒ぎ立てない。


「殿下、殿下。ご覧下さい。」

「む?」

「誰もそのように怒りに燃えてはおりません。」


 ちょっと嫌そうな顔をしながら、スルーを決め込んでいる。

 中には、眉一つ動かさない者もいた。


「バカな……普通の事だとでも?」

「はい。あの指揮官がああいう男だと、誰もが知っています。

 殿下の前では大人しくしていたかもしれませんが……。」

「今回は私に気づかなかった、と……。」

「まさにこういう事をなくすために、殿下は新兵に混じって学んでおられるのですね。

 あんなのと比べるようで失礼ですが、殿下のお志は大変ご立派でいらっしゃいます。」

「……うむ……。そうか、問題はあやつ1人だけではないかもしれぬという事だな。」

「ご明察です。まだ他の部隊を見ていないのでなんとも言えませんが、ことによると軍の大半があのような指揮官で占められている可能性も……。」

「安易に処罰しては人員不足になってしまうな……。」


 ルナシー王女殿下は、大きなため息をついた。


「なんとかならぬものか……。」

「とりあえず、駐屯地への移動を急げるように努めましょう。」


 医療班のテントから離れて、ルナシー王女殿下をなるべく柔らかそうな場所へ降ろす。草がたっぷり茂った場所を選んでおいた。

 それから、俺は荷車召喚スキルを使った。走行スキルと同じく、こちらもSLV2になっていた。荷車が大きい。だが足りない。もっと大きくしよう。荷車召喚スキルを使用すると荷車が現れ、解除すると荷車が消える。これを繰り返す。出して、消して、出して、消して……2万回くりかえすと、SLV3に到達。荷車がさらに大きくなった。荷車召喚の効果が「最大積載量SLV×10kgの人力荷車を召喚する」なので、SLV10になれば100kgまで積載できる。

 だが俺の予想が正しければ、SLV10まで鍛えると、最大積載量は100kgを大きく超える。一晩寝て、さらに翌日も繰り返し、合計25時間の訓練でSLV10に到達する。そこで新しい派生スキルが目覚めた。

軽微な誤字修正

荷車召喚スキルの訓練時間を修正

SLV2→10 必要な使用回数(2+3+4+5+6+7+8+9)*10000=440000

実際の訓練回数 5回/秒 25時間で45万回

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