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見よ、この2本の足を。これこそ、あらゆる地形を踏破できる究極の移動手段だ。

 じいを追って研究所へ。

 人間に戻った近衛騎士団が、追跡に同行するという。戦力としては期待していいだろう。

 車に乗せて移動スキルで現地へ向かう。

 研究所があるのは、山の中腹、そこにある洞窟の中だ。上空から探しても、生い茂る木々が邪魔で洞窟の入り口は見つからない。世界地図スキルで洞窟を探すと、地下に空洞は見つかったが、出入り口が分からない。何らかの物体で出入り口をふさいでいるのだろう。扉だったら自動検知スキルで見つかるはずだが、それも反応なし。つまり、出入りするたびに魔法で壁を崩したり作ったりしているとか、そういう事だ。出入り口として使われている場所に、本物の壁が存在するために、どちらのスキルでも反応がないのである。


「……ぶっ壊すか。」


 内部の空洞がどこにあるかは、分かっている。ならば壁を壊して入ればいい。


「車輌召喚。」


 戦車を出した。

 装甲車の機銃では、壊せたとしても崩れた土砂で入り口がふさがれてしまうかもしれない。


「撃て。」


 けたたましい砲声とともに、山肌が吹き飛んで、土砂が飛び散った。

 派手に飛び散ったおかげで、入り口がふさがれる事もなく、壁が壊れた。余計に崩落していた可能性もあるが、その場合はうまくいくまで繰り返すだけだ。空洞の場所が分かっているからできる。


「突入だ!」


 ルナシー王女殿下が指揮を執って、近衛騎士たちが突入していく。

 洞窟内は意外と広く、騎士2人が並んで歩けるほどだった。騎士団は先頭の2人が盾を構え、その後ろの2人が剣を構え、さらに3列目の2人が槍を構えて進む。4列目に俺とルナシー王女殿下が歩き、その後ろに後方を警戒するべくさらに3列の近衛騎士団が続く。

 しばらく進むと魔物の群が現れた。近衛騎士団が魔物と戦闘を開始する。

 王城警備隊の戦い振りを見た事がある俺からしても、近衛騎士団の戦い振りは凄かった。キャラクターレベルが高いのか、身体能力が高いようである。しかも連携する訓練をみっちり積んでいるので、それはもうテキパキと魔物を倒していく。戦闘というよりは駆除といったほうが正しい。


「……ちょっと強すぎるのでは? 何か強化系のスキルを使っていますか?」

「分かるか。

 『指揮』というスキルを使っている。範囲内の味方を強化するスキルだ。

 それに『自動回復』のスキルも使っているから、負傷してもすぐ治るぞ。」


 ちょっと見ない間に、ルナシー王女殿下のスキルが凄い事になっていた。


「頑張って鍛えたのですね。」

「うむ。良い方法を教えてもらったからな。非常にはかどったぞ。」







 それからどれほど進んだのか、俺たちは急に開けた場所へ出た。


「あれは!?」

「ドラゴン……!」


 近衛騎士団が騒ぐ。

 見れば1頭のドラゴンがこちらをにらみつけていた。


「グオオオオオオ!」


 ちょっと耳がおかしくなりそうな大声で、ドラゴンは吠えた。まるでスタングレネードだ。

 近衛騎士たちが大声にひるんでいる間に、ドラゴンが突進してくる。


「ぐわあっ!」

「ぎゃあっ!」


 前方の近衛騎士たちが吹っ飛ばされた。

 俺は即座に移動スキルで回避。ルナシー王女殿下を一緒につれていくのも忘れない。だが、あまりに急激に加速すると無事では済まないので、後方の近衛騎士たちは見捨てるしかなかった。

 結局、近衛騎士団は一撃で吹き飛ばされ、気絶する。自動回復スキルで傷が治っても、気絶は治らないようだ。


「はあっ!」


 気合いとともにルナシー王女殿下が飛び掛かる。

 ドラゴンに向けて剣を振る。

 バカな、と俺は思った。ドラゴンの鱗は鋼鉄より頑丈で、人間レベルの攻撃では剣も魔法も通じないという話だ。そんな相手に剣で斬りつけてどうする。

 だが俺の予想に反して、ドラゴンは切断された。


「えええええ!?」

「ふっふっふっ。」


 驚く俺に、ルナシー王女殿下は自慢げな顔で笑う。


「目覚めたばかりの『代表』というスキルを使った。

 部下の戦闘能力を自分に上乗せできるというスキルだ。」


 なるほど。指揮スキルで強化された戦闘能力を、代表スキルで自分へ上乗せ。無駄のないコンボだ。それに、たしか身体強化スキルもあったはず。それで最終的な戦闘能力が倍増しているのなら、ドラゴンを切断できるのも納得だ。むしろ、その負荷に耐えられる剣の頑丈さに驚くべきだろう。

 気絶した近衛騎士たちを起こして、俺たちは先へ進んだ。






 途中でマグマに満たされた場所があったり、深い溝によって通路が途切れていたりしたが、荷車に乗って荷車ごと移動スキルで空を飛べば問題なかった。自動車を出すスペースがないのは、ちょっと不便だ。

 ともかく、やがて俺たちは最奥に到達したようだ。


「やれやれ、面倒な……ここまで来たか。」


 黒い異形――じいが待ち構えていた。

 面倒だと言う割には、しっかり迎撃の準備が整っている。開けた場所に無数の魔物。数で押し潰すつもりのようだ。


「荷車召喚。」


 出せるだけの荷車を出して、機銃の掃射で魔物を薙ぎ倒す。

 だが討ち漏らしが荷車を超えて突撃してくる。

 近衛騎士たちは、およそ半数が盾を構えて魔物の突撃を食い止め、残りが盾の後ろから剣や槍で攻撃した。ルナシー王女殿下も、攻撃に参加している。


「ジャック! 奴を討て!」


 ルナシー王女殿下が叫ぶ。

 同時に、俺は転移スキルでじいの背後に飛んでいた。


「車輌召喚。」


 新たに機銃つき荷車を召喚して、一斉に銃撃する。

 だが銃弾は、じいを傷つける事ができなかった。金属にでも当たったような高い音を立てて、すべてが跳弾し、地面や壁にめりこんだ。


「無駄だよ。この『闇の鎧』は影が実体化したもの。

 いかなる攻撃も、影を破壊することはできない。」


 なるほど。影にいくら銃撃を浴びせても、影は影。影を作っている物体を壊さないと、影は消えない。だが、その「影を作っている物体」は、闇の鎧の中にいる。鉄壁の防御だ。たとえ戦車の主砲でもダメージが通らないだろう。

 だが、攻撃手段のアテは、まだある。

 絶対に切断する矛と、絶対に防ぐ盾。ぶつけたら、どうなるか? 矛盾という言葉の成り立ちになった話だ。


「テストショット!」


 久しぶりの蹴りだ。

 俺の足には、歩行スキルの副次効果で金属質のブーツが現れる。このブーツは、外から加わる力をすべて遮断する。だからどんなに加速して蹴っても、蹴りの反動で俺の足が壊れることはない。

 絶対に壊れない鎧と、絶対に壊れないブーツ。ぶつけたら、どうなるか?


「ぐはっ!?」


 じいが吹き飛んだ。

 機銃を浴びてもその衝撃力にびくともしなかったのに。


「……バカな! どうなっている!?」


 驚いた様子で飛び起きたじい。元気だ。しかし、いくらかダメージは通ったはず。


「ファーストショット!」


 速度を上げて再び蹴る。

 悲鳴も出せずに、じいが吹き飛ぶ。


「く……くそ! 調子に乗るな!」


 足下の影が変形・実体化して、巨大な針になって背中から突き刺された。ブーツ以外は無防備だ。

 痛い。だが、痛いだけだ。

 転移スキルで針から逃れると、点検不要スキルでたちまち傷が治る。


「セカンドショット!」


 さらに速度を上げて蹴る。

 吹き飛ぶじい。

 だが同時に俺の体がズタズタになった。タイミングを合わせて針を大量に作ってくれたようだ。そこへ突っ込んでしまう形になった。

 転移。点検不要。すぐさま治る。


「おのれぇ~……!」


 じいもまだまだ元気な様子だ。

 お互いに決め手に欠ける。だが、俺はまだ全力を出していない。


「ラストショット!」


 3度目の正直。今度は全力で蹴った。10万km/hだ。蹴った音が、まるで雷鳴のように響いた。

 じいは吹き飛んだ。今度こそ粉々だ。

 胸から上だけになったじいが、地面に落ちてきた。


「アレキ()()ダーを()()抜き、王位を()に入れ()()()野望が……!」


 目から光が消えていく。

 小さく震えるようにつぶやいていた口が動かなくなった。


「死んだか。」


 その瞬間、自動検知スキルがSLV10に達した。

 同時に3つのスキルが目覚める。グレード7だ。


「諦めてなるものかァッ!」


 禍々しい響きで、呪詛のような声が聞こえた。

 ゴーストだ。じいがアンデッドになった。


「なっ!」

「バカな!」


 魔物の討伐を終えたルナシー王女殿下と近衛騎士団が、ちょうど合流してくる。

 ゴーストには物理攻撃が効かない。すり抜けてしまうからだ。試しに蹴ってみたが、ブーツでも触れることができなかった。


「魔法攻撃!」


 ルナシー王女殿下の号令で、近衛騎士団の一部が魔法攻撃系のスキルを使用する。

 色とりどりの魔法が飛んで、ゴーストに命中した。


「諦めぬ! 諦めぬぞォ!」


 ゴーストが無数の針を飛ばす。無差別攻撃だ。

 近衛騎士団は咄嗟に盾を構えたり、背中を向けて背負った盾に隠れたりして防いだ。しかし針は盾を貫通して、近衛騎士たちを貫く。


「「ぐはあっ!」」


 倒れた近衛騎士たち。倒れることで、ちょうど針が体から抜けて、即座に自動回復スキルで傷が治る。

 ルナシー王女殿下も同様だった。攻撃が激しくて、反撃に転じる隙がない。

 俺は、新しく目覚めたスキル「自動回避」で全ての攻撃を避けていた。攻撃に反応して、転移スキルが自動的に発動するようだ。おかげでルナシー王女殿下を庇いに行くこともできない。痛い目をみないで済むのは良いが、庇いに行けないのは欠点だな。


「くそ……! ダメージがないのか!?」

「そのようですね。」

「「申し訳ありません。我らの攻撃力が足りず……!」」

「くそっ……! いったい、どうすれば……!」

「まあ、お任せ下さい。」


 もはや脅威を感じなくなった俺は、散歩に行くような足取りでゴーストに近寄る。たびたび自動回避スキルが発動して、視界がブレまくるのが厄介だ。


「おのれ! おのれ、おのれ、おのれぇ!」


 ゴーストが無闇やたらに針を飛ばしてくる。

 だが俺は自動回避スキルですべてを避けた。

 そして――


「無限収納。」


 ゴーストを収納した。

 無限収納スキルは、生きている生物は収納できない。だが、ゴーストは死んでいる。

 取り出さなければ収納したまま。つまりこれは封印だ。

 ラスボスの第2形態的な根性を見せたのに、終わりはあっけないものだった。







「かんぱァーい!」


 王城のパーティー用の広間で、ちょっと変わったメンバーが酒宴を開いた。

 場所を提供したゲルハルト国王陛下。

 その承認を取り付けたルナシー王女殿下。

 2人に賞賛されて褒美を取らせると言われたから、この会場を要求した俺。

 俺とともに最後の戦闘に参加した近衛騎士団。

 そして、かねてから飲む約束をしていた王城警備隊と、王都GHQの輸送部隊。

 休日が合わないメンバーを、俺への褒美という名目で集めてもらった。


「本当にこんな事でよかったのか?」


 ゲルハルト国王陛下が、ほろ酔いで尋ねてきた。


「もちろんです。」


 地位も名誉も金も必要ない。それらは、その気になれば手に入るものだ。自販機まで歩くという労力だけで手に入る缶コーヒー。俺にとっては、それと同じだ。王様からもらうなら、もっと上等なものがいい。いくら歩いても手に入らないようなものがいい。

 だから、せっかくの機会に、この宴会を要求した。全員の休日が重なる機会なんて、こうでもしないと手に入らないだろう。

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