よし、プレゼント贈ろう
2週間が過ぎた。
雇われ社長のメリッサは、運送業をうまく展開してくれた。
まず旅客運送だが、街の外、街道のみを往来する。街の中は車両の通行に適した法整備や、バス停などの設備が整っていないため、歩行者天国に車で乗り込むような有様になってしまう。ダイヤが大幅に乱れること必至だ。だから街の中では走らない。
街の出入り口をバス停に見立てて、バスは1台が1つの街道を往復し続ける。運賃は乗車するときに前払いするシステムだ。普通のバスなら降車口(運転席近く)に支払機を備えているが、車輌変造スキルで乗車口の外に支払機を設置した。運賃を支払わないと乗車口のドアが開かない仕組みだ。
バスには通信機も備えてあり、オペレーターと会話ができるように準備が整っている。オペレーターは人を雇って訓練した。過積載スキルを加えた司令車が、オペレーターの仕事場になっている。
貨物運送を使いたい客は、バスの通信装置によってオペレーターに注文できる。オペレーターは、トラックのカーナビを遠隔操作して、目的地を設定する。トラックはそれに従って目的地へ向かう。カーナビは世界地図スキルと連動しているため、GPS用の人工衛星が必要ない。もちろん貨物運送も料金は前払いだ。
こうしたシステムを作る事で、少ない従業員で陸運の全国展開が可能になった。とはいえ、客足がそうにわかに伸びるものではない。
「どうしたものかな?」
「信用度が低いのが問題です。
討伐部門の車輌で宣伝しているので、知名度はあるはずですが、実績がないので信用されず、使ってみようという人がなかなか出てこないのだと思います。」
討伐部門というのは、俺が前からやっている装甲車の派遣だ。街道筋の魔物を討伐している。バスやトラックが安全に通行できるのも、装甲車が戦っているおかげだ。魔物の死体はトラックを派遣して回収し、冒険者ギルドに売っている。俺とメリッサは、これらをまとめて「討伐部門」と呼んでいる。
これに対して、運送業のほうは「運送部門」とか「陸運部門」とか呼んでいる。あえて「陸運」と呼ぶのは、海運や空輸との対比だ。船や飛行機を召喚できないので、海運や空輸については今後の課題である。とはいえ、陸運さえ注文が来ないのだから、この課題は解決する必要がまだない。
まずは陸運の注文を増やさないと……と思っているところへ、冒険者ギルドを通して、俺に指名依頼が来た。
「準備ができたから、王都GHQで荷物を受け取ってほしい。」
ゲルハルト国王陛下からの依頼だった。
イーストン王国への支援物資を運ぶ。そういう話になっていたのが、ようやくその物資が用意できたらしい。
「ちょっとお願いがあるのですが。」
「なんだ?」
「荷物の輸送にはトラックを使います。
そのトラックに、王家の紋章を表示してもいいでしょうか? イーストン王国の国民感情を考えると、今後の両国の関係を良好なものにするための、いい宣伝になると思います。」
「なるほど。
そして運送業の宣伝にもなるというわけか。」
バレている。
「構わん。やりたまえ。
運送業が発達してくれれば、国力が増すだろう。」
そこもバレている。
実物を見て知っている俺と違って、未知のものをそこまで理解できるというのは、さすが国王だ。いつも国を富ませる事を考えているせいだろうか。役に立つものに気づくのが早い。
ともかく、了解が取れたので、遠慮なく紋章を使わせて貰おう。王家御用達のイメージを宣伝できるだろう。運送部門の信用度は一気に高まるはずだ。
冒険者ギルドを通しての指名依頼なので、この輸送には俺が立ち合わなくてはならない。それをしないと、冒険者として実績にならない。引き受けた仕事を丸投げしたような形になってしまうからだ。たとえ投げた相手が俺の店だとしても、店は冒険者ギルドに登録していないからダメなのだ。
あ、ちなみに「法人」という概念は存在しないから、実際には店を冒険者として登録するのは無理だ。登録できるのは「自然人」だけである。
アレキサンダー・レッドは、レッド王国がイーストン王国へ支援物資を送るという情報を得て、これはチャンスだと思った。
2週間前、ルナシー王女がグレード2のスキルに目覚めて貴族たちの話題になった。剣術スキルは政治には使えないから、珍しさや軽蔑感情が手伝って、よけいに話題になったのだ。剣術スキルなんか鍛えてないで、政治の手腕を磨いたらどうなんだ、と。
ところが、さらに驚くべき事態が起きた。ルナシー王女は、それからわずか2日後にグレード3のスキルに目覚めたのだ。そして、それから6日後には、グレード4のスキルに目覚めた。いったい何をどうすればそんな事ができるのか? と、別の意味でルナシー王女は話題になった。
聞いてみれば方法は簡単だった。スキルは使用回数が一定を超えるとレベルアップする。だから短時間に繰り返し使用して、回数を稼ぐのだ。特に動作を必要とせず、任意にオン・オフを切り替えられるスキルだと、1秒間に5回も使える。なるほど、短時間にスキルを鍛えられる道理だ。
多くの兵士がルナシー王女の訓練法を真似するようになった。アレキサンダー・レッドも同様だ。呪詛スキルはこの訓練法には適している。むやみやたらに多重付与しまくればいいのだから。そうして目覚めたのが、グレード5「感染」というスキルだ。
今までの呪詛スキルは、呪詛を付与したアイテムに触れた者を呪うという効果だった。ところが、感染スキルを使うと、呪われた者の近くで一定時間を過ごした者にも呪いが広がっていく。まさに感染だ。
これをどう使うか、という事で、支援物資の話に戻る。
イーストン王国へ支援物資を送ったのだから、イーストン王国から返礼品があっても不思議ではない。返礼品に偽装して呪詛スキルを付与したアイテムを王宮へ送り込めば、感染スキルで呪詛が一気に広がっていく。
ルナシー王女ばかりか、ゲルハルト国王まで呪詛スキルで一気に排除できる可能性がある。アレキサンダー・レッドにとって、王位を奪うチャンスだ。
「ふふふふふ……!」
アレキサンダー・レッドは野心に燃えて笑う。
しかし、アレキサンダー・レッドは気づかなかった。
ちょっと冷静に考えれば、これはおかしい事だと気づくはずだ。「負傷」「病気」「昏倒」「変異」どれをとっても「感染」でばらまけば王宮の機能は麻痺する。王位を奪っても、国家の首脳部が倒れてしまっていては、国家の運営はままならない。そんな王位に何の意味があるのか。
アレキサンダー・レッドは、この計画を自分で考えて自分で決断したものだと信じていた。
従来の兵士たちの訓練法は、スキル+動作=1回でした。
それは、単にスキルを鍛えるためだけではなく、動作と同時に無意識にスキルを使えるようにするためでもあります。
それが、いつの間にか理由だけ忘れられて、「訓練とはそういうもの」という理解をされていたので、ジャックのデタラメな訓練法が「すごい! 効率的だ!」と評価されたわけです。
今までの訓練法をある程度こなしてきた兵士たちは、ジャック式訓練法に切り替えても問題ないでしょう。しかし、今後ジャック式訓練法しかやらない兵士が現れたら、咄嗟のときにスキルを使い忘れて体だけ動かす、なんて事になって死ぬかもしれません。
軍上層部がこの問題に気づいて訓練法を「最初だけでも従来の方法で」と改めるのは、犠牲者がそれなりの数になってからでしょう。




