今更の登録テンプレ~罵声・衝撃・腹部が熱い。嵐が来た~
「お待たせしました。」
受付嬢が戻ってきて、ネックレスを差し出した。
チェーンに金属板が1枚ついているだけのシンプルなものだ。金属板には、名前と連絡先が……って、これ、ドッグタグじゃないか。なるほど、死んだ冒険者から回収できれば形見にも死亡確認にもなるというわけか。
そのあと、お決まりの説明を受けた。弱い冒険者に危険な仕事を任せても無駄死にするだけだから、冒険者と仕事を8段階のランクに分けている。冒険者のランクは実績に応じて変動し、上から順にS、A、B、C……と順にGランクまである。仮登録で一番下のGランクを受注できるが、本登録しても最初はGランクから。これは「実績に応じてランクが変動する」というシステムの都合上、たとえ世界一の剣士として名を馳せた人物だろうと、最初はGランクからのスタートになる。
ただ、それでは強い冒険者が実力に見合わない仕事ばかりしなければならない。そういう批判が出てきたので、仕事をこなす以外にも、試験を受けて合格すればランクが上がるというシステムを追加した。そういうわけで、最初はGランクだが、自信があるなら試験を受けてランクアップを狙ってもいい。
ここまでは事前に知っていた。
ついでに言うと、試験内容は単純に強ければいいというものではないらしい。
だから先に登録を済ませたのだ。
一旦表に出て、魔物の死体を積んだトラックに乗る。そして冒険者ギルドの素材買い取り窓口へ入り直す。こっちの窓口の受付係は、むさいおっさんだった。だいぶ筋骨隆々である。
「おいおい、なんだ、こりゃ!? 街道を走ってるアレか?」
と驚くおっさんに、トラックから魔物の死体を次々と取り出してみせた。
明らかにトラックに積みきれない量の死体が出てくる。過積載スキルの効果だ。
「買い取りをお願いします。」
「なんて量だ……。」
おっさんは辟易した様子で仕事に取りかかった。
街や街道周辺の魔物だから、そう強い魔物はいない。そういう意味では目立たない成果だ。しかし量が多い上に、死体に傷がない。おっさんは量に辟易したあと、すぐに傷がないことに気づいて真剣な顔つきに変わった。
弱い魔物しかいない。誰でも討伐できる。となれば、駆け出し冒険者が大量に討伐してくる。しかも要領が悪くて傷だらけにしてしまうことが多い。そうなると売り物にならない部分も多く出る。せっかく解体・加工しても徒労に終わる率が高いのだ。だから、きれいな死体というのは珍しいだけでなく、解体するにも加工するにも腕が鳴る。
「1回でこんだけ稼いだ奴は初めてだよ。」
おっさんが代金を差し出した。
数えてみると、1500万円ぐらいあった。死体は300体ぐらいだったから、1体5万円ぐらいか。
1カ所で処理できる量としては、こんなものだろう。つまり、1カ所で稼げる金額も、こんなものだ。
「おいおい。なんだ? 随分稼いでるじゃねえか。」
「さっきのはブラフか、てめえ?」
「ここは改めて財布出してもらわなきゃなぁ。」
さっき絡んできたチンピラ3人組が、また現れた。
本当に残念な奴らだ。主に頭が。
300体も売る、つまり狩猟してきたという事は、キャラクターレベルがどれだけ上がっているか、想像できないのだろうか。
「今度は空っぽじゃないんだから、出すわけないだろう。」
「馬鹿にしやがって。」
事実を述べただけで馬鹿にしたつもりはなかったが、彼らは逆上して臨戦態勢に。
殴りかかってくるので、大きく迂回して背後へ回った。
「……は?」
「え?」
「どこいった!?」
移動スキルはSLV×100km/h。そこに走行スキルが加わって、最高速度は10万km/h。これは秒速2.7km以上だ。人間の目は、個人差はあるが0.1~0.05秒よりも短い時間を見分ける事ができない。たとえばテレビは1秒に30回の静止画を表示することで、動画のように見せている。1枚の静止画を表示している時間は0.03秒程度だ。1秒に2.7kmも移動する速度となると、0.05秒で135mも移動できる。チンピラ3人組には、俺が消えたように見えたはずだ。
「こっちだ。」
振り向いたチンピラ3人組に、焦りの色が浮かぶ。
さすがに戦力差を理解し始めたか。
「車輌召喚。」
その場に装甲車を召喚した。
さすがに窮屈だが、むしろこの圧迫感が好都合。
「街道筋の魔物みたいに、バラバラに吹っ飛んでみるか?」
そう言うと、チンピラ3人組は逃げ出した。
俺から攻撃すると、ゴブリン将軍みたいに殺してしまう。うまく手加減する自信はない。
殺さないように気をつけるなら、装甲車なんか出してもブラフにしか使えないが、ちょうどいい道具ではある。
「さて。」
用が済んだので、装甲車もトラックも消す。
そして1500万円を受け取って、冒険者ギルドを出た。
その足で、再び登録したほうの窓口へ。
「実績の確認をお願いします。」
弱い魔物ばかりとはいえ、300体も売ればそれなりの実績になるだろう。
登録前に売ってしまうと実績に加算されない。だから先に登録を済ませたのだ。
少々お待ち下さいと言って、受付嬢が奥へ引っ込むと、奥の事務室から「えっ!?」と声が聞こえてきた。続けて何やら慌てた様子が伝わってくる。
ややあって、戻ってきた受付嬢は、俺を別室へ案内した。
そこに、これまた筋骨隆々のおっさんが待ち構えていた。ちなみに買い取り窓口のおっさんとは別人だ。彼はこの冒険者ギルドの支部長で、俺が登録直後に300体の魔物を売った実績を賞賛した。
「本当なら10体でFランクに昇格なんだがね。君は飛び級だよ。Eランクに昇格だ。おめでとう。」
どうやって300体も? とは尋ねないのが、冒険者の流儀だという。それぞれのやり方があり、隠しておきたい事もある。同業者が必ずしも好意的とは限らないので、自衛のためにそうせざるを得ない。過去やスキルや戦闘スタイルなんかは尋ねないのがマナーらしい。
友好的でない同業者には、さっき出会ったばかりだ。非常に納得できる。
「だから方法は聞かないが、今後の活躍には期待しているよ。」
用件はそれだけだというので、俺は冒険者ギルドを出た。
支部長は俺と顔をつないでおきたかったのだろう。俺にとってはどうでもいい相手だが。……貴族が庶民をどうでもいい扱いする気分は、こういうものだろうか。それはちょっと俺の望むところではないな。本当に困ったときには助けてやろう。
さて、残る課題はバーベキューの買い出しだ。
調味料を買って、次に野菜を……というところで、ふと思い出した。そうえいば実家が農家だ。金を出して買わなくても、実家に帰省すれば貰えるかもしれない。ついでに車輌召喚スキルで農機を出せば、実家の手助けにもなるだろう。
移動スキルでも消えるように移動できるが、本当に消える転移スキルは隠しておこうと思うので、まずは人目のない場所へ。
「死ねや!」
いきなりの罵声。突然の衝撃。腹部が熱い。
気づけば、俺の腹から剣が生えていた。
刺された。
理解したとたんに痛みが襲ってくる。
振り向くと、チンピラ3人組が3度目の登場。1人はその手に血まみれの剣を握っていた。
「やれやれ……。」
俺はため息をつく。
すでに痛みはなく、出血も止まって、傷も治っている。点検不要スキルだ。刺されて破れた服まですっかり直っている。
それにしても、人を殺してまで1500万円が欲しかったか。
「俺じゃなかったら死んでるとこだぞ。」
さて、どうしたものか。
攻撃が通用しないことに驚いているが、チンピラ3人組はまだ諦めないようだ。逃げ出さないのがその証拠である。
1回刺されたのだから、この場合は殺しても正当防衛だろう。何度も攻撃しないと殺せないという場合なら、無力化する程度までは正当防衛、それ以上やったら過剰防衛になるが、俺は1発で殺せてしまうから「正当防衛になる範囲」と「過剰防衛になる範囲」が不可分だ。
まあ、こういう考え方自体が日本の法律だ。こっちの世界では、過剰防衛なんて概念はない。殺しても文句は言われない。だが、日本人としての感覚がある以上、過剰防衛の領域に入り込んでしまうのは抵抗がある。
ゲームだったら容赦なく殺してるんだが……。
考えるべき事は2つある。
1つは社会問題として。もう1つは更正の方法だ。
社会問題として、なぜ彼らは1500万円のために殺人までやろうと思ったか? もし彼らが「1500万円のために殺人犯になるのは割に合わない」と思ったなら、こんな事はしなかっただろう。つまり、彼らは殺してでも1500万円が欲しいと思うような環境に生きている。貧困問題だ。
更正の方法としては、教育を与えるのが望ましい。同じ貧困にあえぐ人でも、こいつらのように犯罪行為に走る奴と、走らない奴がいる。走らない奴はどうして我慢できるのかといえば、やられる側の痛みを理解できるからだ。つまり、他人の痛みを理解できない奴が犯罪行為に走る。これはもう、教育してやるしかない。
さて、ここで新たな問題が発生する。貧困問題は俺には解決できないという事だ。そもそも国が取り組むべき問題だ。もう1つの、更正のために教育を与えるというのも、学校制度を整備するとかの方法で国が取り組むべき課題だ。
俺が彼らに対してやるべき事は……よし、目には目を、歯には歯を、と行こうじゃないか。
「刺されると痛いんだからな? お前らも味わってみろ。」
移動スキルと走行スキルを併用して、消えるように移動。
血まみれの剣をひったくって、チンピラ3人組の腹を刺してやった。
「ぎゃあっ!?」
「ぐあっ!?」
「いてぇっ!?」
その場に崩れ落ちるチンピラ3人組。
どくどく大量に血が流れ、あっという間に着ているものが真っ赤になっていく。
しかし彼らは痛みのために満足に動くことができなかった。
「やられる側の痛みが分かったか?」
荷車を召喚して、彼らを乗せてやる。
点検不要スキルの効果で、たちまち3人の傷が治る。
「え……?」
「あれ……?」
「……痛くない?」
ぽかんとしている彼らを、もう1度刺す。
「ぎゃあ!」
「なんで!?」
「いてえ!」
そしてまた荷車に乗せる。
「あ……?」
「い……?」
「う……?」
そしてまた刺す。
「ぎゃあ!」
「ぐああ!」
「げえっ!」
また荷車へ。
「も、もうやめてくれ……!」
「ゆるして……!」
「俺たちが悪かった……!」
十分反省したようだ。
「やられる側の痛みが分かったか?」
尋ねると、チンピラ3人組は首がちぎれるほど勢いよくうなずいた。
「じゃあ、次からは、やられる側の痛みを考えて行動しろ。
自分がやられて嫌なことは、他人にもやるな。」
教育を与えた。
とりあえず、こんなところでいいだろう。




