おっと、新しいスキルが目覚めた
今日の食事のために買い出しに行こう。
そのために資金が必要だ。兵士時代の給料もあるが、街に来たついでだし魔物の死体を冒険者ギルドに売ろう。
冒険者ギルドに立ち寄るついでに、登録もしておこう。
という3つが今回の目的だ。拠点として召喚したキャンピングカーを出て、最寄りの街へ向かう。移動スキルでひとっ飛びだ。
……と、その途中で「移動」のスキルレベルが10に上がった。
同時に新しいスキルが3つ目覚めた。
「転移」SLV1 グレード5 射程距離:SLV×1000km
瞬間移動する。移動能力系統に伸びてきていたスキルが、とうとう瞬間移動に目覚めた。SLV10まで鍛えれば射程距離は1万km。この世界で重力が強いという印象は受けないので、星の直径は地球と同じぐらいだろう。地上の様子がそんなに大きく違わないから、密度も地球と同じぐらいのはずだ。つまり1万kmもあったら、ほとんど星の裏側まで飛べる。1秒かからずに世界中のどこにでも行ける事になる。
「点検不要」SLV- グレード5
本人・車輌・積載物に対して、復元魔法をかける。復元魔法は回復系スキルの中でも最上位のもので、神聖魔法スキルに存在するといわれている幻の魔法だ。聖女さえ目覚めていない。失ったものを全て元通りにするという強力な効果があり、手足が欠損しようが猛毒にやられようが、確実に治る。バラバラに壊れた物を新品に戻し、燃え尽きた炭を生木に戻す。つまり、召喚車輌を修理できるし、搭載された銃弾や医療資機材や上水が無限になるということだ。
積載物に対しても効果があるということは、救急車を使わなくても車に乗せれば傷病者は治る。死体を乗せても生き返ることはないが、死体についた傷は治るし、浴びせた毒は取り除かれる。つまり、装甲車の機銃攻撃でバラバラに吹っ飛ばした死体でも、車に乗せれば無傷で仕留めた状態になる。高値で売れそうだ。
救急車は即座にスキルを解除して消した。復元魔法を安売りするのはマズイ。今まで回復系スキルで生計を立てていた人たちや、聖女みたいにそれで権威付けをしていた個人・組織にとっては天敵になる。元々そういう事で混乱を起こさないように1日でスキルを解除する予定だったが、これで予定が早まった。
そして車輌とは別枠で本人にも効果がある。つまり俺は車に乗っていなくても効果を受ける。即死しなければ、どんな病気や怪我やバッドステータスからも回復するという事だ。ほとんど不死身になってしまった。どうも、だんだん人間やめてるなぁ。
「車輌変造」SLV- グレード6
召喚車輌をカスタムできる。追加装備・内装変更などが可能になり、戦車の装甲を増やしたり、乗用車にモニターやカーナビを追加したりできる。まあ、モニターやカーナビなんてこの世界では無意味だが、これでキャンピングカーの40インチテレビにゲーム機を追加できそうだ。
そういえば、光学迷彩を実装した車があったな。いつだったか、動画で見た覚えがある。右側面にカメラを搭載して、左側面がモニターになっている車だ。軍用車ではなく、どっかの企業だか、改造趣味の個人だかが、技術力アピールのつもりか知らないが、街頭にぽんと置いてみたのを、街ゆく人々が面白がっている、というような動画だった。
転移スキルを試して王都へ。
情報収集車をベースに、車輌変造スキルでカスタム。光学迷彩、高解像度カメラ、指向性マイクなどを搭載して、移動スキルで上空へ浮かべる。複数で取り囲むように配置して、レーザー盗聴器で窓ガラスを狙う。
レーザー盗聴器というのは、レーザー光線を窓ガラスに当てる盗聴器だ。室内の会話でわずかに窓ガラスが震えるので、レーザーを当てると反射光も震える。この震えを観測することで、元の音を再現できるという仕組みらしい。忍び込んで盗聴器を仕掛けてこなくても盗聴できるという優れ物である。
さて、配置を完了。これでアレキサンダー・レッドの動向や、ルナシー王女殿下の周辺を警戒できる。覗きや盗聴みたいで、ちょっと後ろめたいが。……みたいっていうか、そのものか。しかし命と引き替えにはできない。
さて、うまく監視できるか確認してみよう。
「若様。どうやら監視が付けられたようです。」
「監視?」
「はい。それらしい人物が、屋敷の周辺に配置されました。」
「やれやれ……。
屋敷に入り込む気配は?」
「今のところ、ございません。ですが今後は分かりませんので――」
「分かった。敷地内に呪詛スキルを付与しておこう。」
「無関係の出入り業者や味方を巻き込まないように『限定』もお願いします。」
「分かっている。」
感度良好だ。
監視がついたというのは、国王陛下の指示だろうか。あるいは敵対的関係にある別の貴族による仕業という事もあるかもしれない。だがすぐにバレてしまうとは、監視員の練度が足りないのか、探知系スキルに優れた奴が居るのか……。
いずれにせよ、俺の監視には気づいていないようだ。
ずっとここに居るわけにもいかないから、ここの情報収集車と通信できる車輌をもう1台召喚して、国境付近の拠点から監視できるようにしよう。ゲーム機をつなぐ予定だったテレビに、監視映像を流すことになりそうだ。
それにしても、呪詛スキルとは。これで「怪しい」から「凄く怪しい」に格上げだな。証拠がないから確定できないが。
ルナシー王女殿下のほうも同様に王城を監視する。壁が多くて分厚い王城だが、自然採光とかデザインとかの都合で、窓ガラスは多い。情報収集車を配置してカメラの映像を拡大してみると、窓ガラスの向こう側がどんな部屋なのか見えてくる。謁見の間、執務室、食堂、書斎、寝室まで、多かれ少なかれ窓ガラスが存在するようだ。
万一の場合には、転移スキルで駆けつけて車に乗せてしまおう。死んでいなければ、復元魔法の効果で治るはずだ。自動車を召喚できるだけのスペースがない可能性もあるが、王城は広いから、たいていの場合は大丈夫だろう。どうしてもなら、荷車召喚スキルを使えばいい。
そういえば、荷車召喚スキルはずっと死蔵していたが、車輌変造スキルと合わせれば機銃を乗せるぐらいの事はできそうだ。エンジンはないが補助動力SLV10でパワーアシスト100%だし、自動運転スキルが使えるかもしれない。
よし、確認しよう。まずは人の居ない場所へ行かないと。
「転移。」
流れ弾に当たって負傷されては気分が悪い。人が居ない場所を求めて、草原にやってきた。
遠くで装甲車が魔物を攻撃する音が聞こえる。これからやる実験もけたたましい銃声が響くことになるが、装甲車の銃撃に紛れて目立たないだろう。
「荷車召喚。」
久しぶりの荷車召喚。積載量100kgの人力荷車が現れるのだが、そのままだと出てくるのは大八車だ。
これに車輌変造スキルを使って、ボールベアリングとか金属素材とかを盛り込んでいくと、最終的には台車になった。宅急便の業者とかが使うアレだ。大八車と比べるとかなり小型化できたので、取り回しやすい。
ここに、さらに車輌変造スキルを使って、機銃を搭載する。反動で後ろへ吹っ飛びそうなので、台車の車輪をタイヤに変更してグリップ力を上げ、ディスクブレーキを追加した。
「撃て。」
ドドドドド……!
けたたましい音とともに、的にした車輌が破壊されていく。
問題は台車のほうだ。ブレーキはしっかり掛けておいた。それでも反動で少しずつ後ろへ滑っていく。地面が土むきだしなので、ブレーキやタイヤがしっかりグリップしていても滑ったりめり込んだりするようだ。
自動操縦スキルで、後ろへ滑る分だけ前へ出るようにしてやったら、この問題は解決した。移動スキルでその場に固定する手もあったか。
いずれにせよ、必要十分だと分かった。それに、荷車召喚スキルで出した荷車でも、自動運転スキルの対象になるという事も分かった。これで屋内でも銃撃が可能になった。
的にした車輌には、荷車召喚スキルで出した荷車に、車輌変造スキルで装甲を取り付けた。過積載スキルがなければ重量オーバーだったかもしれない。補助動力スキルがなければ動かすのも大変だっただろう。実際には自動運転スキルのおかげで、手も触れずに動かせる。
防弾仕様の装甲だけに、銃弾を浴びても貫通はしない。変形するから、そのまま銃撃を浴び続けるといつか破壊されてしまうが、ここで点検不要スキルが作動し、変形したはしから元通りに直っていく。攻撃側の荷車も点検不要スキルのおかげで弾丸が無限だし、オーバーヒートもしないので、いくらでも撃ち続けられる。
要するに、実験は大成功だ。




