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大胸筋? いいえ、おっぱいです

お待たせしました。

 マジかよ……上位個体を……ゴブリン将軍(ジェネラル)を……倒せてしまった。

 自分でやった事なのに信じられない。そもそも人体がこれほどのエネルギーを生み出すというのが信じられない光景だ。いくらスキルや魔法の恩恵がある世界とはいえ、これは異常だろう。


「えええええっ!?」


 ほら、負傷兵も驚いている。驚きすぎて痛みを忘れているようだ。


「何ソレ!? えっ……!? どういう……!?」


 こっちが聞きたい。

 いや、速度と重量がこうなのだから、運動エネルギーがこうなるのは当然だ。俺の体重は70kg、速度が200km/hなら、運動エネルギーは10万J(ジュール)を超える。対物ライフルの5倍以上の威力だ。金属のように硬い靴で蹴ったら、筋肉ダルマのゴブリン将軍(ジェネラル)といえどもゼリーに等しい脆弱な物体にすぎない。

 そして速度がこうなのはスキルの恩恵だ。そこまでは「この世界だから」と納得しよう。しかし、蹴った反動で俺の体がバラバラにならない理由は? ……考えられるのは、このブーツか? 外からの力には金属のように硬く、中からの力には布のように柔らかくゴムのように伸び縮みする。蹴る力――中から外への力は伝えるが、その反動である外から中への力は遮断すると? いや、でも、そうすると地面を蹴っても前に進めない。反動を受けなければ進めないのだ。どうなってるんだ?

 ……あ、そうだ。1つ確かめる方法がある。


「とうっ。」


 ジャンプしてみる。垂直跳びだ。記録……58cm!

 普通! めっちゃ普通! 200km/hで走れるのに、垂直方向には全然強化されない。

 これで分かった。やっぱり反動を遮断する靴なのだ。歩いたり走ったりできるのは、反動で進むよりも摩擦で進むほうが影響力が大きいからだろう。走行スキルで強化しているのは、摩擦への反動、もしくは水平方向のみの移動速度という事か。いや、それとも「歩行スキル」への強化だから「ジャンプは歩行じゃない」という扱いなのだろうか?

 まあ、いずれにせよ、これは大きな、そう、重大な発見だ。俺には戦う力がある。剣でも魔法でもなかったが……いや、これはこれで魔法としか言えないのだが……とにかく、戦う力があったのだ。魔法を使ってみたいという憧れは、ちょっと俺が望んでいたのとは違う感じになったが、派手に敵を倒して活躍したいという夢は、これで現実的なものになってきた。


「……んんっ……!?」


 急にジャンプした俺を、訝しそうに見る負傷兵。

 何やってんだ、こいつ? と思っているのが見て取れる。

 だが、メンタルが鋼のように強いのか、すぐに立て直しを図ってきた。


「と、とりあえず、助けてくれた事には礼を言う。おかげで命拾いした。

 私はルナシー・バーニングリットだ。

 そなたの名を聞こう。命の恩人だ。必ずや手厚く遇する。」

「ジャックです。

 ……バーニングリットって……まさか王族の?」


 このレッド王国は、ルイス・レッド初代国王が建国した。以来、レッド家が代々の王族を務めてきたが、あるとき跡継ぎに恵まれず、分家のバーニングリットが王になった。それ以来、バーニングリット家が王族を務め、レッド家は本家なのに没落したような立場になって分家と同格に扱われている。

 つまり、バーニングリットを名乗るこの負傷兵は――


「うむ。王女である。」

「えええええ!?」


 今度は俺が驚く番だった。







 ゴブリン将軍(ジェネラル)は倒したが、いつまでもここに居るわけにはいかない。他のゴブリンに襲われるかもしれないし、まわりは死体だらけで物資がない。ルナシー王女殿下には、折れていると思われる足の治療が必要だ。

 一応、本人に回復系のスキルがないか確認したが、


「私のスキルは剣術だ。回復系のスキルはないな。」


 と言うので、当面の目標は、森の手前に設営した野営地に戻ることになった。そこでポーションを手に入れるのだ。あるいは散り散りに逃げた新兵たちの中に、回復系のスキルを持っている奴が居るかもしれない。彼らも野営地に逃げ帰るはずだ。


「うむ。あの逃げた指揮官も、だな。

 あの者には私が王女である旨、伝えてある。主君の筋に当たる者を見捨てて逃げるとは、兵士の風上にも置けぬ。必ずや処罰してくれる。」


 不快そうに眉間にしわをよせる王女殿下。

 その顔が、パッと晴れて、俺を見る。


「そなたは私の正体を知らぬまま助けようとしたな。まさに兵士の鑑だ。

 先ほども言ったが、必ずや手厚く遇するぞ。」


 うんうんとうなずく王女殿下に、俺は別の話を振らなくてはならない。


「殿下。移動したいのですが、殿下のその御御足(おみあし)は骨折していらっしゃるかと。

 ……それで、背負ってお運び申し上げたいのですが、御身に触れることをお許し願えますでしょうか?」

「差し許す。

 そもそも、添え木をくれたときに、もう触れておるではないか。」

「それは、王女殿下とは存じませんでしたので。」

「ずいぶん胸を見ていたようだが?」

「男だと思っていましたので、ずいぶん発達した大胸筋だな、と感心しておりました。」

「ふむ……この胸が筋肉であれば、我が剣もゴブリン将軍(ジェネラル)を切り裂けたかもしれぬな。」


 ルナシー王女殿下は、残念そうにため息をついた。

 マジかよ……どんだけ勇猛な人物なんだ。

 しかし、困った質問だと思ったが、返ってきたコメントもまた女性としては困ったものだ。どう返していいのか分からない。


「……何をしておる。運べ。」


 両手を差し出し、早く背負えとポーズをとる王女殿下。

 俺はその意外と軽い体を背負って、移動を始めた。


「おっ……!?」

「きゃあああ! お、おい! もっとゆっくり運ばぬか!」


 歩行速度2km/hが走行スキルで10倍になって、20km/hで歩けるはずだった。だが、実際には40km/hぐらい出てしまった。走行スキルがSLV2になったようだ。ゴブリン将軍(ジェネラル)の討伐で経験値が入ったか。魔物の討伐も、スキルレベルを上げる方法の1つだ。

 SLV×1万回の使用でスキルレベルが上がるが、剣術スキルを素振りで鍛えるのと比べて、剣術スキルを討伐で鍛えるのは、それほど効率がいいわけでもない。魔法スキルも同様だ。しかし、それは適正レベルの相手を倒すなら、という条件付き。格上の魔物を討伐できれば大量の経験値が手に入る。


「すみません。スキルレベルが上がったようです。」


 速度を落として野営地へ向かう。

修正前

「ジャイロです」


修正後

「ジャックです」


修正理由

まさか主人公の名前を間違えるとは……orz

「介護士無双」と混じってしまいました。これだから同時連載は苦手です。

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