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頭の上に「?」が浮かぶ。イーストン王国復興支援計画

 ルナシー王女の回復と、その後の調査への協力。聖女の働きに対して、ゲルハルト国王は報酬を与えなくてはならない。平民が相手なら、お礼の言葉1つでも報酬になりえる。実際には功績の大きさを鑑みていくらかの金品を渡すことになるだろう。しかし相手がイーストン王国の王女だから、「大義であった」「報奨金を与えよう」では済まされない。イーストン王国に利益のある国際条約を、という話になる。

 レッド王国は今、ゲルハルト国王に子供が1人しかいない。ルナシー王女だけだ。だからそのルナシー王女を失えば、王家として存続できるのは今代までという事になる。そのあとは公爵――王族の分家たちが、我こそはと次の王位を巡って争うことになるだろう。悪くすれば内乱に発展し、その隙を突いて他国から侵略され、レッド王国そのものが消滅してしまうという可能性すらある。

 つまり聖女の働きは亡国の危機を救ったことになる。かなり不利な国際条約でも受け入れないと、次に何かあったときには助けて貰えない。しかもルナシー王女が受けた呪いは、本当にすべて解除されたのかどうか分からない状態だ。


 シーラ姫も、この絶好の機会に、できるだけ多くの報酬を得ようと考えていた。何しろイーストン王国は今、未曾有の危機に瀕している。魔族に荒らされた国内は、どこも復旧・復興を待ち望んでいるが、物資も人員もまるで足りない。食糧や日用品さえ不足して、多くの民が不健康・不衛生になって病気になってしまうような環境だ。

 十分な支援物資と人員を望むなら、それだけでレッド王国が傾くほどになるだろう。だから十分な支援は望めない。あとは、どこまで無理をして貰えるか、だ。公式発表ではイーストン王国の国王は体調不良という事になっているが、実際にはもう死んでいる。シーラ姫は公式には「王女」だが実際には「女王」なので、この交渉についてイーストン王国としての全権を持っていると同時に、イーストン王国の舵取りをする責任も背負っている。なんとしても、できるだけ多くの支援を受けたかった。


 初手から両者が望む「報酬」には大きな差があった。

 交渉は難航すると思われたが、そうはならなかった。


「それならば、ジャック殿をしばらく借り受けたく思います。」


 現実的かつ最小限で最大の効果を得られるのは、ジャックを派遣することだ。全国規模の治療、街道警備、都市防衛、1人で全部こなしてしまう。普通にやったら、どれだけの人員と物資と出費が必要になるか。

 しかも、救急車や装甲車に荷物を運ばせれば、大量輸送もできる。そういえば、どちらでもない形の馬なし馬車(トラック)が走っていたが、あれは何だろうか?







「意見具申よろしいでしょうか?」


 と、俺は声を上げた。


「発言を許そう。」

「ありがとうございます。

 まず情報共有をしなければなりません。陛下と殿下が、どちらもご存じない情報があります。」

「ふむ? 何だ?」

「すでにご存じのことと思いますが、街道を埋め尽くしております車輌、あれは私のスキルで出したものです。車輌には3種類ございまして、1つめは傷病者を治療する救急車、2つめは敵を殲滅する装甲車、3つめは魔物の死体を回収するトラックです。

 国境付近から半径1000kmの範囲内に、おおむね放射状に展開しておりまして、現在まだその途中ですが、最終的には両国の国土全域にわたって、街と街道の周辺から魔物や盗賊を狩り尽くす予定です。そうしますと回収できる魔物の死体というのが、かなりの量になるかと思います。

 任務外で得たものですから、魔物の死体は私の個人資産です。冒険者ギルドに売り払おうと思っていますが、量が多すぎて1度に全部は買い取って貰えないでしょう。小出しにして、時間を掛けて売ることになります。」


 魔物の死体は、食肉や日用品・武具などの素材として流通している。


「……つまり、こちらで買い取って、支援物資にしろという事か。」


 ゲルハルト国王陛下は、なるほどとうなずいたが、同時に厳しい表情もしていた。いくら支払うことになるのか、と考えているのだろう。俺はそのために「任務外で得た個人資産」と強調したのだ。


「おっしゃる通りです。

 ただし、今のイーストン王国では、素材を加工する人員が足りないでしょう。そこで、大半はレッド王国で加工し、イーストン王国に送るというのがよろしいかと思います。

 そのようにしますと、レッド王国にも大量に仕事が発生します。経済が活性化しますので、税収が増えて、素材買い取りの代金も回収できるでしょう。」

「おお……! なるほど。」


 喜ぶゲルハルト国王陛下。反対に聖女シーラ姫は、険しい表情になった。


「民間業者を通すのであれば、代金を支払わなくてはなりませんわ。レッド王国で加工する分は、イーストン王国には負担になりますわね。

 ですが残念ながら、こちらには支払うだけの余裕がありませんわ。」


 俺は1つうなずいて、


「そこで策がございます。」

「どのような策でしょうか?」

「まず私は辞職します。」


 ゲルハルト国王陛下と聖女シーラ姫の頭の上に「?」が浮かぶ。

 もともと俺の夢は「冒険者として活躍したい」という事だ。兵士としてではない。なぜ兵士ではダメなのかといえば、実際にはあまり戦わないからだ。前世が日本人だった記憶がある俺は、剣や魔法で派手に戦ってみたいという憧れがある。だが兵士の日常は、移動、移動、移動。あまり戦わないし、戦っても集団で数の暴力に訴えてしまうので、活躍している感じがしない。まあ、このところの俺は個人プレーが目立っているが、これは本来の兵士の姿ではない。

 それに対して冒険者は、日常的に戦う。それも個人とか、あるいはせいぜい数人のパーティーで。俺がやりたいのは、まさにそういう事なのだ。だから冒険者でなければならない。

 全国規模で魔物を殲滅できるのに何を言っているのかと思われるかもしれないが、現代兵器無双は俺がやりたかった事ではない。装甲車が入り込めない森や山岳地帯などの地形では、魔物がまだ生き残っているから、冒険者として活動するなら、そういう地形で戦うことになる。空を飛んで魔物を蹴る。なかなか面白そうだ。

 まあ、辞職はいつでもできる。だが、あえて今辞めるべき理由もある。


「なぜだ?」


 ゲルハルト国王が少し焦った様子で尋ねた。

 このところ俺に頼る場面が続いたから、俺の利用価値を高く見ているのかもしれない。


「私の立場を、独立性の高いものにするためです。」


 そう答えると、またゲルハルト国王陛下と聖女シーラ姫の頭に「?」が浮かんだ。


「結論から申し上げますと、策というのは借金なのです。

 私への支払いを3年ないし5年待って、それから分割払いで支払って頂く。3年後には復旧もほとんど終わり、5年後には復興も果たしているでしょう。」


 大震災のときにそうだった。

 毎年その日になると「あれから*年、未だ仮設住宅」みたいな新聞記事が出る。まだ戻れない人がいるのかと驚いて読んでみると、ほとんどの人はすでに元の暮らしに戻っている事がちょっぴり書かれていたりする。

 辞職して独立性を高めておくのは、借金を踏み倒されることへの対策だ。金額が大きくなるから、現金払いではなく貴族に取り立てて領地を与えるとかの方法を提案されると、雇われ兵士の立場では断ることさえ難しい。日本でも会社で従業員が転属・転勤の命令を「正当な理由なく拒否できない」と定められているが、それと同じだ。いや、それより少し強い。現金払いのほうがいいからという理由では拒否できないのだ。なにしろ貴族に取り立てて領地を与えるというのは、領地からの収入を半永久的に得られるという事であり、金銭に換算すると無限大になってしまう。

 ただし、与えられる領地がまともな場所とは限らないし、まともに運営できるとも限らないという罠がついてくる。だから俺は現金払いのほうがいい。しかも領主なんかになってしまったら、領地運営に忙しくて冒険者として活動できなくなってしまう。


「なるほど。それで業者へ支払う余裕ができるというわけだな。」


 加工前の材料の代金と、加工後の商品の代金という差があるから、それだけでまかなえるわけではないだろうが、かなりの余裕ができるのは事実だ。

 物資の加工には時間がかかる。いくら素材を大量に与えても、加工業者の処理能力に限界がある。だから出来上がる製品の量は限られるので、俺ではなく冒険者に輸送させればちょうどいい。


「魔物の死体以外を素材とする日用品や、野菜、穀物、魚などの食糧を支援しなければならないでしょう。壊された建物や施設の修復・再建、人員の補充なども必要かと思います。

 私が派遣している車輌で街や街道の安全は保障されますので、レッド王国では冒険者があまり気味になり、イーストン王国では冒険者や兵士の人員不足がかなり解消されるはずです。従って、あまった冒険者に物資の輸送を発注し、そのままイーストン王国で働いてもらう、場合によっては転職を促すというのが有効ではないかと思います。」

「なるほど、なるほど。

 冒険者に移動や移住を求めるのは難しいが、輸送や護衛の依頼として移動させるのであれば可能か。

 そしてイーストン王国内でも、依頼として人員不足の現場へ派遣すれば解決すると。」

「我が国としては、民間業者に冒険者の利用を促す告知をするだけで足りますわね。

 そして、転職と移住に補助金を出すなり税制優遇をするなりすれば、依頼がそのまま雇用に変わっていくと。」


 話はそういう方向で進み、具体的な金額について決めて行くことになった。

 おおむね市場相場に従うが、支援物資という名目なので割引を利かせないといけない。

 全ての話が決着しようかというところまで来たときだった。


「ところで、辞職する必要はないのではないか?」


 ゲルハルト国王が蒸し返した。

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