片道300km、急ぎに急いで13分2秒。
昼食をとっていると、武装集団が現れた。
といっても、盗賊の類ではない。立派な鎧に身を包んだ騎士団だ。
その中心には、美女がいた。高貴な雰囲気をまとい、上位の僧侶みたいな服装をしている。
「あなたが馬なし馬車を送り出している張本人ですね?」
そう言うと、彼女はその場に跪いた。
「姫様……!」
と周囲の騎士たちが慌てる。
姫ということは、見た目通りに高貴な身分なのだろう。簡単に跪くのはよろしくない。
だが姫様と呼ばれた美女は、騎士たちを手で制して、跪いたままの姿勢を維持する。
「あなた様の献身に、厚くお礼申し上げます。
非常に多くの民が、あなた様のおかげで、落としかけた命を拾っています。
正直、私だけでは間に合わない民も多く……。」
私だけでは間に合わない……? つまり、各地で回復してまわっているという事か。
やっている事が聖女と同じ。そして高貴な雰囲気。つまり、大当たりか?
俺は彼女の前へ跪いた。お互いに跪くという奇妙な光景だ。
「そうであれば幸いです。
私はレッド王国の兵士で、ジャックと申します。
そちらは名のあるお方とお見受けします。間違っておりましたら失礼ですが、聖女シーラ・イーストン様ではございませんでしょうか?」
「これは申し遅れました。
確かに私がシーラ・イーストンです。
レッド王国の兵士の方が、私にどのような御用向きでしょうか?」
「国王ゲルハルト・バーニングリット陛下の命を受けて、聖女様にレッド王国の王城へお越し願いたく、お願いに参上つかまつりました。」
「なるほど……それで、私の役目を代わりに果たせば、その分、時間がとれるのでは……という事なのですね?」
聖女が少し困ったような顔をして、騎士たちも「うっ……」と声を漏らす者までいた。
助かりましたと明言し、跪いてみせた上で、「代わりに助けてくれ」というのを断るのは難しい。俺にとっては棚ぼたの状況だ。
ならば、さらに押してみよう。
「半径1000kmの範囲内にいる傷病者は、すべて適切に治療しています。」
聖女と騎士たちは馬に乗っているが、それだと1日に移動できるのは急いでも50~60kmだ。
1000kmを移動するのに17~20日かかる。しかもこれは「半径」での計算だ。実際にはその数倍は移動しないと、同じ範囲をまわれないだろう。
ちなみに、レッド王国とイーストン王国は似たような面積であり、東西の端から端までの距離は600~700kmぐらい、南北では700~800kmである。で、俺は今、国境付近にいる。つまり、両国の傷病者すべてに救急車を派遣し、国中の魔物を狩り尽くすほどの装甲車を送り込んだことになる。
装甲車が倒した魔物の経験値が入ってくるから、キャラクターレベルとスキルレベルがちょいちょい上がっていく。すでにトラックを召喚して、死体を回収させている。冷凍機能付きのトラックなら、死体が腐るような心配もない。素材として売り払って資金にしてもいいし、食材などに使うのもいい。量が多すぎていっぺんには買い取って貰えないだろうから、無限収納スキルが役立つ。
「1000km!?」
「そんな広範囲を……!?」
「バカな……!」
信じられないと騒ぐ騎士たち。
一方、聖女は冷静だった。
「確かに、ダール村で見た馬なし馬車は、もっと遠くを目指して移動していました。
ダール村からここまで50km。少なくとも、それ以上の範囲に馬なし馬車を派遣しているという事でしょう。しかも馬より遙かに速い速度でした。
少なくとも、数日分の時間は稼げました。あなた様は、その数日でレッド王国の王城とここを往復できるのですか?」
片道およそ300km。
飛行スキルと走行スキルなら最高速度1万km/hだが、風圧で骨折とかするので300km/hぐらいが限界だ。それでもヘルメットがないと呼吸しづらい。ヘルメットありで、体もそれ用に鍛えれば、500km/hぐらい行けるかもしれない。
移動スキルと走行スキルなら、今は移動スキルがSLV4なので最高速度は4万km/h。車も移動スキルの対象になり、空気抵抗や摩擦・断熱圧縮などは無視できる。車に乗っていれば、同様の保護効果を得られるから、聖女を運んでいくらでも加速できる。
ただし聖女は移動スキルの対象にならない。急加速すると強いGがかかってしまうので、普通に自動車並の加速・減速で移動すると、最高速度は2760km/h、片道13分2秒だ。
「お任せ下さい。」
「「あわわわ……。」」
「素敵な体験でしたわ。」
予定通り13分2秒で王城に到着。
騎士たちは見た事もない高度と速度に腰を抜かし、聖女シーラ姫は楽しそうにはしゃいでいた。
「ジャックです。国王陛下のご命令に従い、聖女シーラ・イーストン様をお連れしました。」
城門で門番に告げると、敬礼とともに門番が返答した。
「おつとめご苦労様です。
遠目に見えておりましたので、今、陛下に報告に向かっています。しばらくお待ち下さい。」
やけに丁寧な対応だ。
ルナシー王女殿下がらみの案件だからだろうか?
……いや? この顔、どこかで……。
「あ! 討伐部隊の!?」
王都GHQの配送センターが物資不足になったときに運んだ討伐部隊の1人だ。
「バレましたか。」
「出世しましたか。おめでとうございます。」
「いや、実は元々こっちの所属なのです。
あのときは一般兵に偽装していただけで。」
「なんと……。」
趣味でやるわけない。そういう命令だったのだろう。つまり、その理由や目的については軍事機密というわけだ。これ以上は聞き出せない。
「あのときは、お世話になりました。
宴会の日程は調整中です。決まったら連絡しますので。」
と、酒を飲む仕草をする門番。
討伐した魔物を冒険者ギルドに売った代金で飲もうという話になっていたが、討伐部隊が王城警備隊ということは、輸送部隊は一般兵、俺は新兵、それぞれ所属が違って日程調整が大変そうだ。
「楽しみにしています。」
と答えたところで、ちょうど城内から門番が出てきた。
「どうぞ、お通り下さい。陛下がお待ちです。」
「シーラ・イーストンと申します。
このたびはお招きに預かり、光栄に存じますわ。」
「ゲルハルト・バーニングリットだ。
忙しい中、急な呼び立てをして申し訳ない。しかし、事は急を要するのだ。」
「はい、道中で聞いております。
ルナシー王女殿下が、お倒れになったとか。」
聖女シーラ姫と、ゲルハルト国王陛下が挨拶を交わし、情報交換を済ませる。
それから国王陛下は、俺に目を向けた。
「ジャック、ご苦労だった。
褒美は後で与えるが、まずは娘が心配だ。すまぬが、先に聖女殿に娘を見て貰うゆえ、しばし待つがよい。」
そうして国王陛下と聖女が退出し、俺は控え室に案内された。
あとはもう、聖女のスキルがルナシー王女殿下に効くのを祈るしかない。
心配だが、できる事もなくて暇なので、移動スキルを鍛えておこう。




