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あくまでも、俺の発言は「知りたい」だけだ

 王都GHQの配送センターへ到着し、荷物と馬車と荷車を降ろす。

 残った物資を、大型トラックから軽トラック(幌付き)に移して、世話になった駐屯地へ向かう。過積載スキルがあれば軽トラックでも最大積載量が足りるし、大型トラックに比べて運転しやすい。まあ慣れていけば大型トラックでも困らないだろうが……まだ時間が必要だ。






 駐屯地では大量の物資が喜ばれ、兵士たちが荷下ろしを手伝ってくれた。物資を待ちわびていた彼らにしてみれば、手伝おうとするのは単なる善意というより、欲望に近い。空腹で飯屋へ飛び込むようなものだ。

 しかし、手伝ってくれたのは事実。お礼は欠かせない。


「ありがとうございます。助かります。」


 荷下ろしの作業が軽減するという事以上に、俺は感謝している。手伝ってくれるおかげで無限収納スキルを隠したまま行動できるからだ。1人で荷下ろしをやれと言われたら、無限収納スキルで一旦収納していたかもしれない。1人でせっせと運ぶには量が多すぎる。


「いやいや、助かるのはこっちだよ。よくこれだけの量を1人で運べたものだ。凄いスキルだな。

 ところで、これだけ大量に運べるなら、君に運んで欲しいものがあるんだが……。」


 と案内された先には、整列した兵士たちと、無数に並んだ棺があった。ゴブリンの森から逃げ帰った兵士たちと、駐屯地が派遣してくれた捜索部隊によって回収された死体だ。


「残念ながら手足などを欠損した者が多い。

 どの腕が誰のものか分からないケースも多く、申し訳ないがこちらで先に合同火葬させてもらった。棺の中に納めたのは、顔が分かる者や、特徴的な傷などがある者だ。」

「お手数をおかけしました。忙しい中、手厚く弔っていただき、ありがとうございます。」

「いや、なに……このぐらいの事しかできなかった我々を許してくれ。」


 もはや返す言葉もない。俺は敬礼した。

 整列していた兵士たちが、俺に続いて敬礼する。

 駐屯地の兵士たちが、一斉に答礼した。

 正直、新兵部隊の兵士たちには、あまりいい感情を持っていない。「役立たず」なんてあだ名をつけられ、バカにされてきたのだから。しかし、駐屯地の兵士たちの心遣いには、感謝しかない。捜索部隊を出してくれて、そのせいで駐屯地の人員が減ったのに通常業務の合間を縫って死体の仕分けや火葬までしてくれたのだから、その労力を思うだけで感謝でいっぱいだ。

 分かりやすい部分だけ納棺し、分かりにくい部分は火葬するという判断も素晴らしい。遺族が見ればすぐに誰だか判別できるし、ちぎれた手足を返す相手を間違える事故も防げる上に、「全部回収」からの「手足を持ち主に返す仕分け作業」という労力を回避できた。遺族に対しても、軍に対しても、兵士に対しても、しっかり配慮されている。ここまでやってくれたのに「このぐらいの事しかできなかった」「許してくれ」とは、どこまでも心遣いに溢れている。

 軽トラックは消して、王都への帰り道は中型バスにした。例によって過積載スキルで定員を増やせる。棺はトランクルームに収納だ。







 王都GHQで生還者と死体を降ろし、上官に報告する。

 それからGHQを辞して王城へ。

 呪いを調査するために調査団を派遣する。その調査団と護衛部隊を、俺が輸送する。目的地は、指揮官がゴブリン王になった野営地の跡地だ。専門外だから俺は知らないが、指揮官がゴブリン王になった場所を調べて、何か分かるのだろうか? それともゴブリン王に変異して死んだ指揮官の死体を調べると何か分かるとか?

 調査結果を教えてくれるとは限らないので、あれこれと想像してしまう。俺は兵士としては下っ端の新兵にすぎないのだから、そういう情報は貰えない可能性が高いだろう。教えてくれる可能性があるとしたら、ルナシー王女殿下か。

 調査団とその護衛部隊を野営地の跡地へ送り届けると、調査団はさっそくゴブリン王の死体を調べ始めた。護衛は護衛部隊に任せて、待っている間に、俺は「伝意の鏡」でルナシー王女殿下に連絡を取る。


「ジャックか。どうした?」

「調査団をゴブリンの森へ送り届けました。現在、調査中です。」

「うむ。ご苦労。」

「ところで、殿下。私は平民ですので、王族の家系図をあまりよく知らないのですが……。」

「ふむ……? 何を知りたいのだ?」

「王位継承権2位は、どなたでしょうか?」

「……なるほど……私を殺すために呪いを仕掛けたというのか。

 ……それで得をする者。つまり、王位継承権2位の者が犯人では、という事か。」


 王族を疑うというのは、恐れ多い事だ。不敬罪に問われるかもしれない。だから「そうです」とは言えない。

 俺の発言はあくまで、王族の家系図を知らず、王位継承権2位が誰なのか知りたいという事だけだ。


「……アレキサンダー・レッド。現在のレッド家の家長だ。」


 レッド家……レッド王国の初代国王から続く王族の宗家だ。あるとき跡継ぎに恵まれず、王位がバーニングリット家に移った。それ以来、バーニングリット家が王位を継承している。レッド家が王位を取り戻そうとしている可能性は、あるかもしれない。

 現在もレッド家が続いているのは、王位がバーニングリット家に移ったあとで世継ぎが生まれたからだ。何百年も前のことで、もう「歴史上の人物」という感覚だが。

 しかし、何百年も前のことを、未だに未練がましく思っているだろうか? 今のレッド家の人間は、生まれた時から公爵である。昔は王位を継承する一族だったと言われても、ピンとこないのではないだろうか。

 とはいえ、それとは関係なく、王位継承権2位なら、1位がいなくなれば自分が王だと野心に燃えてもおかしくない。そして王位を狙ってルナシー王女殿下を暗殺しようと企んでいたのなら、ゴブリンの森に呪いを仕掛けることもあるだろう。

 実際、ルナシー王女殿下はかなり危ない所まで追い詰められた。ゴブリン将軍の攻撃で足を骨折し、動けなくなっていた。ゴブリン将軍は一旦立ち去ったが、俺が来た直後にまた戻ってきた。つまり結局はゴブリン将軍に殺される可能性があった。

 ……ん? 呪いで変異したのは指揮官で、ゴブリン王になったのだ。ゴブリン将軍は関係ない……いや、もしかてゴブリン将軍の出現も呪いのせいなのか?


「殿下。調査するべき対象が増えたようです。」

「うむ。」


 うなずき合って、通話を終了する。

 俺は、ゴブリン将軍の死体も調べるように、調査団へ進言した。

 数時間の調査を経て、ゴブリン王とゴブリン将軍の死体を回収し、俺たちは王城へ戻ることになった。






 城門をくぐって、城壁の内側へ入ると、建物が複数ある。正面にある一番大きい建物には、国王陛下が住んでいて、謁見の間もある。しかし今回は、調査団の案内でそれとは別の建物へ向かった。


「こっちの建物は何ですか?」


 王城から出発するときには、城門のすぐ内側で待っていてくれたから、俺は城門をくぐる事さえなかった。だが帰りはゴブリン王やゴブリン将軍の死体があるから、運んでくれと言われた。


「宮廷魔術師の研究所などが入っている建物だ。研究棟とか研究所とか呼ばれている。」

「では、調査団の皆さんも宮廷魔術師なのですか?」

「いや、私たちは違う。その弟子に過ぎない。

 まあ、弟子の中でも教えを請うだけの連中とは違って、師匠の助手として動ける程度の実力がある。つまり高弟というやつだな。」

「なるほど。凄いんですね。」


 魔術師をいくつかのランク分けしたとき、上から2番目ぐらいのランク……と理解しておけばよさそうだ。高弟という立場を自慢したくもなるのだろう。オリンピック選手だって銀メダルは自慢できることだし、他のどんなスポーツ大会や芸術コンクールだって準優勝はすごいことだ。「ふふん、そうだろう」と自慢げにする彼らに、ちょっとウザいと思いながらもうなずいておく。

 師匠と呼ばれた宮廷魔術師は、呪いの専門家か、調査の専門家といったところだろう。弟子をとっているという事は、たとえば「過去視スキル」とかではなさそうだ。少なくとも「他人にも真似できる方法」で調べるのだろう。現地調査では高弟たちも調査していたのだから。まあ、魔法スキルとかの何か共通するものはあるかもしれないが。

 ともかく、いずれ調査結果が出れば、また何か動きがあるだろう。呪いによる王女暗殺計画が失敗したと知れば、犯人は次にどう動くだろうか。……まあ、王女暗殺計画なんてものがあったとすれば、の話だが。それに、あったとしても、そこに俺が絡めるかどうかは別の問題だ。

 積み荷を降ろして、王城を出る。






 その後、兵舎に戻ってスキルを鍛えていたのだが、俺の懸念は悪い方向に当たってしまった。


「すまないが、すぐに王城に来てくれ。」


 魔道具「伝意の鏡」で連絡してきたのは、ルナシー王女殿下ではなく、その父、ゲルハルト国王陛下だった。ルナシー王女殿下が持っているはずの「伝意の鏡」を、どうしてゲルハルト国王陛下が使っているのだろうか。

 王城へ向かうと、その答えが明らかになった。


「ルナシーが倒れた。神官にも治療できない状況だ。

 より強力な回復スキルが必要なのだが……神官より強力なスキルとなると、聖女シーラ・イーストンぐらいだろう。」


 つまり国王陛下が俺を呼んだのは、聖女を運んでこいという事だった。

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