ヌル研
サッカー部には、選挙戦早々で脱落したカズツバサがいる。
「ああいう、熱血馬鹿は苦手だ。どっちみち、やつにそんな大それたことができるとは思えない。」
一方、エレンは新たな痕跡を見つけた。
「窓の周囲に光る筋が見えるが。」
「ああ、カタツムリかナメクジでもいたんだろう。部屋の中にも大量にあったぞ。」
ヌルヌメ研究会。通称、ヌル研。これも消えた名簿の連中だ。
「ゼロ。すぐに理科室に行ってくれ。」
エレンのやつ、人使いが荒いな。
「ヌル研はこちらですか?」
なんだか、みなれない生物がいる。
「今、学園しに出すヌタウナギの研究中だ。君はインドの留学生だっけか?」
いや、謎のインド人は選挙のテーマソングで、実際にはインド人じゃない。
「このヌルヌルを塗っておくとだな、蚊避けになるんじゃないかという実験だ。ほかにも、蜂避けやクラゲ避けなんてのもやってる。来年には特許申請して、晴れて部に昇格する計画だ。」
ん~、こいつらに2階の生徒会室の窓から侵入は無理そうだ。
「これで、壁とかよじ登れないかい?」
「滑って無理だよ。壁のぼりと言えば、フリークライミングの連中に今朝怒られたよ。一匹脱走して、あちこちヌルヌルだってね。もし、見つけたら知らせてくれ。」
フリークライム部は生徒会室の窓の脇に専用の壁がある。令和の東京オリンピック以降人気になった競技だ。
「確かにこいつ等なら、窓からの侵入も容易だろうな。」
「土日は大会で、誰も登校してないはずだ。まあ、マネージャーぐらいは荷物をとりにきたかもしないがな。」
部長のクリフが相手をしてくれた。
「君もちょっとやってみるかい。」
いやいや、運動音痴の僕にそんなの無理。一歩進んで、ペタリンコ。壁に張り付いたまま身動きができない。
「そうだ、会長に言っておいてくれないかな。朝きたら、ヌルヌルとカラスの糞がすごかったって。続くようなら対策してくれって。」
生徒会の使いじゃないんだから。
「学園祭か。もちろん、この壁で技を見せたり、体験コースも用意するよ。うちもオリンピック直後は人気だったらしいんだが、いまや同好会に格落ち寸前だしな。幸い、設備は残るけど、来年部員が集まらなかったら、僕らも卒業するし廃部になっちまう。」