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「あの……失礼ですが、アトウッド伯爵令嬢は魔獣をご覧になったことがありますか?」
「いえ、ご存知かは分かりませんが、幸いアトウッド領では魔獣が出たことがありませんので見たことはありません。
あの魔王復活のさいも魔獣が出なかった位、田舎でのどかな領なのです」
「そ、そうですか……その、アトウッド様が連れていらした馬とウサギは、伯爵領では普通なのですか?」
「ええ、馬と言えばシンディの様な馬しかいませんし、ペットに飼うウサギはこの子と同じラッキーラビットが一般的です。
もっと小さな野うさぎも森にはいますけど、ペットにするのはだいたいラッキーラビットとハッピーウルフ、ホーリーホークですね」
「その……どれも聞いたことが無い種類なのですが、ラッキーラビットと同じで肉食なんですか?」
「ええ、ペットや馬は普通肉食ですよね?
野うさぎや鹿など草を食べている動物もいますが、もっぱらうちの領では食用です。……何かおかしいですか?」
「い、いえ、初めて聞いた生き物ばかりでしたので参考までに聞いただけです。その……ペット達のおでこの毛の下に魔核等……ありませんよね?」
「魔核ですか?毛の下は嫌がるので触ってはいけないので分かりませんが、無いと思いますよ?
と言うか魔核って魔獣についていると言う宝石ですよね?もしかしてまだ魔獣だと疑っているのですか?
魔獣がこんなに大人しいわけ無いでしょう?失礼過ぎです!」
“いや、絶対魔獣だって!魔獣が出ない領じゃなくて、魔獣を普通にペットにする領と言う事なのか?”
「し、失礼しました!その……見たことが無い動物だったので念のための確認でした!
女子寮はこちらの建物です!アトウッド様は伯爵家なので2階の一番手前の部屋です。部屋に浴室とトイレはついていますが、清掃は週に1回専門の従業員が行います。
週に1回ですので、出来れば普段からご自分で掃除されると綺麗に保てると思います。
服やシーツ等の洗濯はあちらにお出しください。シーツの替えは部屋にありますので、ご自分でなさってください。
ペットのトイレはお持ちですか?ペットのトイレのお世話は飼い主の義務となっておりますので、よろしくお願いします。
学用品で足りない物があれば、学園の1階に購買がありますのでそちらでお願いします。
学園の外に行くさいは、外出許可証を寮母に提出してください。何かご質問はありますか?無ければ部屋へご案内します……」
「ありがとうございます。さぁ、キャシー行きましょう。久しぶりにベッドで寝れるから嬉しいわ!」
“ええええ!久しぶりのベッドって……ここに来るまでにいったいどんな所に泊まったんだ?伯爵令嬢だろう?高級な宿じゃないのか?ああ、気になる……”
周囲に数々の疑問を残し、美しい伯爵令嬢は首に赤いリボンを巻いた足の短いゴールデンレトリバーにしか見えないウサギを連れて、女子寮へと去って行った……
「なぁ……あれ絶対魔獣だよな?」