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「え?シンディが珍しいのですか……?うちの領では普通ですよ?」
ディアナが首をかしげると、先程の男子生徒が呟いた。
「いや、それどう見ても魔獣だから……」
「は?シンディのどこが魔獣だって言うのよ?魔獣って人を襲う狂暴な生き物でしょう?こんなに大人しくてお利口なシンディを魔獣と間違えるなんて……ああ、貴方馬を見たのが初めてなのね!」
“ええ!いや、どこからどう見ても魔獣……”
その場にいた誰もがそう思ったのだが、もしかしたらアトウッド領特産の馬なのか?と確信が持てずにいた。
「いや、俺の馬はあれだ……」
男子生徒の指差す先には立派な白馬がいた。
「まぁ、ポニーなのね!初めて見たわ!小さくて可愛いわ!」
「いや、それは軍馬といって……ごにょごにょごにょ……」
「ポニーじゃなくてグンバって言う種類なのね!可愛らしい馬ね~。」
“いや、むしろ普通の馬よりでかいから!”
「あ、あの、とりあえず馬は厩舎で預かりますので、お荷物を……」
おずおずと馬丁が言った。
「あら、ありがとう。シンディ、よく頑張ったわね。え?魔獣って言われて怒ってるの?ふふ、でも色々めんどくさいから学園の生徒や関係者には手を出しちゃダメよ?
はいはい、言われなくても分かってるわよね。ふふふ」
“ちょ……手を出しちゃダメってどう言う意味なんだ!?やっぱり危険なのか?”
ディアナは手際よく荷物とキャシーの籠を下ろし、鞍を外した。
「あ、そちらはペットですか?……こちらの用紙に記入してください。」
入寮手続きをしていた職員に声をかけられた。気付けば先程まで並んでいた生徒はいなくなったようだ。
実はみんなシンディに怯えて逃げているだけなのだが……
「えっと、ペットの種類はウサギっと……名前はキャシー。毛の色はキャラメルブラウンで瞳は赤。餌は……生肉。はい、これでいいかしら?」
“どええええええー!いや待て!最後、最後ちょっとおかしくなかったか?そこは人参だろ!?”
「え……?な、生肉ですか?ウサギですよね?ちょっと見せていただいてもいいですか……?」
「?ええ、いいですよ?キャシー、おいで。」
なんとウサギ?の入った籠が中から開けられて、巨大なウサギが自ら出てきた。
そしてディアナの元へ駆けよった……
“ちょっと待て!ウサギってそんな動きだったか?今完全に犬だったよな?いや、でも耳もあるしウサギか?って騙されるな!ウサギってあんなサイズじゃないから!
ゴールデンレトリバーじゃないのか?いや、でも耳があるし……でも足の短いレトリバーにしか……あれもアトウッド特産なのか?
いや待てよ、餌は生肉って……やっぱり馬もあれも魔獣じゃないのか?”
まわりの心の葛藤など露知らず、キャシーはディアナの足元に黙ってお座りして耳をくるくる動かしていた。