side ユリア 上
幼い頃、私はとてもお転婆だった。王女らしくないと怒られてしまうが、泥遊びが大好きだったし、虫や蛙など生き物を見るのもとても好きだった。
さわろうとしたら母に可哀想だから生き物で遊んではいけませんと怒られてしまったので、我慢して見るだけにしていた。
花も大好きで、いつも庭師のベンにくっついて回って、今思えばかなり仕事の邪魔をしてしまっていたと思う……
弟のウィルをいつもつれ回して、ジャイアンとスネ夫みたいね……と母がよく言っていた。どういう意味だったのか今度聞いてみよう。
5歳になったある日、私は天使と出会った。熱を出したウィルの代わりに、急遽会うことになった侯爵子息だった。
あまりの綺麗さに一目惚れして、大好きなものを全部見せたくて泥だらけになるのも構わず連れ回してしまった。
ジークも楽しいと言ってついてきてくれるので、つい調子に乗ってしまったのだ。
泥だらけで戻った私達を見て、母にこっぴどく怒られてしまったのは、いい思い出だ。
それからもジークはお城によく遊びに来てくれて、年々かっこよく成長するジークに、地味な自分はあまりにも釣り合わなくて、不安を覚えるようになっていた。
10歳になってお茶会に出るようになって美しい貴族子女達を見ると、きっと地味な自分からジークは離れていってしまう……そう思うと辛くて、よそ見せずに将来結婚しようと無理矢理ずるい約束をさせてしまった。
その時、優しく美しいジークは、誓いのキスをしてくれて……まるで夢の中にいるようだった。
10歳になり、お茶会に出るようになった。王女と言うこともあり、地味な私でも大人子供関係なく色々な貴族の人達に声をかけられるようになった。
ジークは最初は側にいてくれるが、気付けばいつもどこかへ行ってしまうようになった。もしかしたらどこかの貴族子女と逢い引きしているのかもしれない……
不安に思っていたが、あの日の誓いを信じようと必死に自分に言い聞かせていた。でも、ジークはどんどんよそよそしくなっていってしまった……
ある日、お茶会の途中でお手洗いに行きたくなり、ドアを開けようとした時、中から話し声が聞こえてきた。
恐らく声からして伯爵令嬢と子爵令嬢コンビだろう。苦手なのでドアを開けるか悩んでいたら、信じられない会話が聞こえてきた。
「ねえ見た?ローリング家の次男、今日も池に落とされてたわよ。ふふふ
穢れた血でユリア殿下の側にいようとするなんて、本当何考えてるのかしらね?」
「見た見た!池に落ちて少しは穢れも取れたかしら?ふふふ、いつまで持つのか見ものよね?
それにしても、親子で子作りするなんておぞましいわよね。いくらお母様が王妃様の覚えがめでたいからって、穢れた血の分際で調子に乗りすぎよね」
え?ジークが嫌がらせをされている?私のせいで?え?私が側にいるせいでジークが?
事実を確認したくてジークを探したが、その日は見つけることが出来なかった。後日侯爵家へ会いに行ったが、何度訪ねても会いたくないと断られてしまったのだ……
きっと私のせいで嫌がらせされて、私の事を恨んでいるんだ……私の側にさえいなければ、こんなことにはならなかったのに……
結局事実を確認することも謝る事もさせてもらえず、学園に入るまで数年間、避けられ続けた……
学園に入る頃にはもう、全てがどうでもよく思え、ジークに嫌がらせした貴族社会を、自分自身を恨むようになっていた。
学園に入ると、ジークを毎日見ることが出来て嬉しくもあり……そこにいるのに声も聞けずに悲しく、苦しい日々だった。
ジークへの嫌がらせはだいぶ止んだようだが、誰もジークに近付こうとする者はいなかった……
ダンス練習の授業の時など、パートナーになった女子達は皆、体調不良と言って彼に触れることさえしなかった……あんなにダンスが上手で踊ることが好きなのに……
その頃の私は少しおかしかったんだと思う。誰もジークに近付かないことを嬉しく思ってしまっていたのだ。
彼はまだ自分の物なんだと……自分以外彼に触れる者はいないんだと……そう安心していたのに、美しい少女が現れた。
入学するなり、美しく気品がある彼女はとても目立っていた。そんな彼女がジークと踊っていたのだ……いったいいつ?何処で2人は出会ったの?
これは私への罰なの?嫌!嫌よ!どうしてそんな優しい瞳で彼女を見るの?やめて!そこは私の場所なのに!そんなに見つめ合って踊らないで!いやー!!
胸の奥底から醜い物がこぽりと溢れ出した……その日どうやって寮まで戻ったのか覚えていない。気付けば朝になっていた。パーティードレスのまま、私は冷たい床に座っていた……