side ジークフリード 下
それから学園へ入学するまでユリアに会うことは無かった。母に何を言われても、ユリアの為だと言って拒否したのだ。
だが、学園に入学する時、これからは毎日ユリアに会えると思うと嬉しくもあり、彼女の恋を近くで見ることになるかと思うと、胸がしめ付けられるように苦しくもあった。
入学式で久しぶりに会ったユリアは、すっかり覇気が無くなり、地味で目立たないようにわざとしているようだった。
地味な王女に目を向ける者は少なく、1年の間は男子生徒とは誰とも仲良くしていないようで安心した。
2年になり、変わった少女が入学してきた。私にお婿さんになってくれと真っ直ぐに目を見て言ってくる不思議な子だった。
穢れた出生の事を話しても、それが何か?と全く気にする様子も無く、普通に私に触れて来た。
女子生徒はみんな穢れると言ってダンスの授業ですら触れようとしないのに……
お婿さんお婿さんと言ってついて回る様子は、まるで昔のユリアを見ているようで、ついつい目元が緩んでしまうこともあった。
久しぶりに人の温もりを思い出させてくれた少女と、このまま一緒に噂も届かない様な田舎へ行ったら、ユリアへの気持ちもきっぱり諦めがつくだろうか?
パーティーで初めて踊れたことが楽しく、その後も数年ぶりに人の目を気にせず楽しい時間を過ごすことが出来た。
夢のような時間に、またお婿さんと言われたら受けようと気持ちが傾いていたが、意外なことにその日は何も言ってこなかった。
それでも、次お婿さんと言って来たら断らずに受けようと決意して登校した月曜日、淫乱女が現れた。
驚くほど短いスカートを穿き、ベタベタと触ろうとして来たり、私だけは味方です等と訳のわからないことを言って追いかけてきて……正直吐きそうだった。
そんな淫乱女から逃げること1週間……その日たまたま逃げ込んだ図書室に、ユリアが泣きながら駆け込んできた。
何とか落ち着かせて話を聞くと、あのロドリゲス王国の王子が、ユリアと婚約するだの妄言を触れ回っていたと言うのだ!しかもユリアを地味な女だと嘲笑っていたとか……
どうやって殺してやろうかと思ったのも束の間、ユリアが私のハンカチを握りしめて、顔を赤くし、1番好きな人と結婚したいと私の目を見て言ってくれた……
思わず抱き締めたくなるほど嬉しかったが、それは許され無い!私なんかが触れていい人では無いのだ!
だが、あの王子は危険なのでユリアを守ると言う名目で、未練がましくもユリアの近くにいることにした。
さっそく、くそ王子に穢れた血の者が王女の側にいるのは等と言われたが、何とその場でユリアが言い返したのだ。
とても嬉しかったが、くそ王子の言うことは正論なので……と言うと、ディアナ嬢にしつこいと怒られてしまった。
それからのユリアは昔のように強引で、私が穢れた血と言うとディアナ嬢を真似てしつこいと怒られるようになってしまった。
そして昔のように振り回されている自分が、嬉しくもあり……このままでいいはずが無いと苦しくもあった。
オリエンテーリングでは、ユリアと同じ班になれなくて不安もあったが、くそ王子は違う班だし、ウィリアム殿下やディアナ嬢が同じ班だからと安心していた。
だが、事件が起こった!目の前に魔獣が現れて同じ班の1人の男子生徒に襲いかかったのだ。
そこかしこで叫び声が聞こえ、自分の班には目もくれずにユリアの班がいそうな場所へと急いだ。
魔獣の群れが近くを通り過ぎ、何故かディアナ嬢とウィリアム殿下も走って行った。そしてユリアの無事を確認して、思わず勢いで抱き締めてしまった。
抱き締めたままユリアに話を聞くと、淫乱聖女が仕組んだことだったそうだ。いったい何を考えているのやら……
でも、おかげで吹っ切れることが出来た。魔獣に襲われたりして、自分の知らないところでユリアに何かあるかもしれないと言う恐怖に襲われるくらいなら、側にいて守りたいと思ったからだ。
吹っ切れてしまえばユリアの隣にいても誰にも文句を言わせないように、誰よりも優秀になろうと決意出来た。
まずは卒業まで1位を守り続け、貴族で初の首席卒業と言う偉業を成し遂げたいと思う!
それにしても、今日も私のユリアはまさに天使の様な美しさですね……
やっと手に入れたこの美しい天使を、私はもう2度と離せそうにありません……私のユリア、これからはずっと一緒にいましょうね。