side ジークフリード 上
私は侯爵家の次男として生まれました。父はおらず、母は女侯爵として1人で私たち兄弟を育ててくれた。
幼い頃は、2歳年上の兄といつも一緒に遊んだり勉強したりして過ごしていたが、5歳になったある日、母の親友である王妃様の息子達と会うことになった。将来の側近候補だそうだ。
顔合わせの日、残念ながら1つ下のウィリアム殿下は熱を出してしまい、せっかくなので遊び相手にと同じ年のユリア殿下を紹介される事になった。
正直男同士遊びたかった私は、王女様と聞いて少々がっかりしたものだ。
その時、さらさらのダークブラウンの髪に大きな黒い瞳の少女が花の間から飛び出してきて、天使が舞い降りたのかと驚いた!
そう、まるで天使のような少女がユリアだった。私は一目惚れしてしまい、ユリアも私の事が好きだと言ってくれ、すっかり舞い上がってしまった。
ユリアは天使の容姿とはかけ離れた性格で、私は色んな所に連れ回され、綺麗なドレスを着たユリアと2人泥だらけになって遊んだ。
すっかり仲良くなった私達は、それからも時々遊ぶようになった。しばらくすると貴族の嗜みとしてダンスのレッスンが始まり、私とユリアはパートナーとして一緒に練習することになった。
ユリアは年々美しくなり私はますます夢中になったが、性格は相変わらず強引で活発で……ふふ、いつも振り回されていましたね。
もうすぐ10歳になろうとしていたある日
「10歳になったらお茶会に出るようになって他の人とも仲良するようになる。ジークが他のご令嬢を好きになってしまわないか心配だわ」
等と可愛らしいことをユリアが言い出して、心臓が止まるかと思った。
そんなことあるはず無いのに……それを言うならユリアの方が心配だ。そこで私達は、お互い絶対よそ見をせずに将来結婚しようと、城の庭園の東屋でこっそり誓いのキスをした。
あの日は、まるで夢を見ているようで……あの頃の思い出は、とても眩しくて最近までは思い出すのも辛いものでした……
10歳になり、茶会に行くようになると悪夢が始まった。私達兄弟の出生の秘密は、幼い頃より母から聞かされていた。
その都度あなた達は何も悪いことはしていないのだから、堂々としていなさいと言われ続けていた。
なので、茶会に出るようになるまではさほど気にしていなかったのだ。
茶会に出るようになり、ユリアと仲良くしているとすぐに他の貴族子息達からの嫌がらせが始まった。
穢れた血の癖に王女様と仲良くするなと、数人で囲まれて殴る蹴るの暴行を受けたことも少なく無い……
茶をかけられたり池に落とされるのは日常茶飯事で、貴族子女達にはまるで汚い物を見るような目で笑われ、避けられ、触れれば自分も穢れてしまうとさえ思われていたようだ。まぁ、それは今でも同じですね。
ユリアは変わらず接してくれたが、ボロボロの姿を見せたくなくて、自然と避けるようになってしまった。
その頃には子供だけでは無く、大人達にも穢れた血だと色々言われるようになっていた。
それでも、あの日の誓いを胸に堂々と胸を張って頑張ろうと思っていた。
ある侯爵家での茶会で、私はいつものように数人に囲まれてユリアから離れろと言われ殴る蹴るの暴行を受けていた。
その時、茶会の主催者である侯爵が「何をしているんだ!」と止めに入ってほっとしたのも束の間、殴られているのが私だとわかると、侯爵は嘲笑うかのように私を見て言った。
「君もいい加減ユリア殿下から離れたらどうだ?そんな穢れた血で側にいていい相手じゃないと、君もわかっているだろう?
それに、君がいつまでも側にいることで、ユリア殿下も他の貴族達に笑われているんだよ?」
その時私は衝撃を受けた!あの天使のようなユリアが、私といることでみんなに笑われている?
ユリアは王女としてみんなに慕われ愛されるべき存在だ。それをこの私が原因で後ろ指を指されるなんて、許せなかった。
あんなに自分の存在が疎ましく思えたことは初めてだ!
それからはユリアが何と言ってこようと完全に拒絶して、彼女の側にけっして近寄らないようにした。
あの日の思い出を胸に、生涯独身でユリアの幸せを遠くから見守ろう、そう固く胸に誓ったのだった。