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「え!?赤ちゃん拐われたの!何て事を……犯人は?赤ちゃんが顔を見たの?ああ、臭いもベッタリね……あれ?何処かで見たことあるような……女もいるのね!……え?」
ディアナはおでこを離し、微弱聖女に話しかけた。
「貴女が赤ちゃんを拐うように指示したのね……それで?赤ちゃんは今何処なの?」
「な、何言ってるのか全然わかんない!誰か助けて……あの女が魔獣を使って私を殺そうとしてるのよ!」
微弱聖女は助けを求めて回りを見たが、みんな睨み付けてくるだけで誰も助けてはくれなかった。
「何でよ!何で誰も信じないのよ!何なのよこの世界!私がヒロインなのに!早く助けなさいよ!」
「ねえ……早く白状しないと、貴女大変なことになるわよ?ヤッホーベアーの赤ちゃんは滅多に生まれないの……だから群れで一丸となって子育てするのよ?その子供を拐ったとなると……」
「うぎゃー!」
「助けてくれー!」
「ぎゃー!何で俺だけ!?」
「ああ、やっぱり来たわね……仲間に殺さないように言ってくれる?
あのね、ヤッホーベアーはとても頭がいいのよ?だから子供を拐った人間にしか危害を加えないわ。この子の狙いも貴女だけよ?
もう一度聞くわね、赤ちゃんはどこ?これ以上はもう私では抑えるのは無理よ?」
“がるるるるるる”
ガサガサ!10頭はいるかと思われるヤッホーベアーが草を掻き分けて集まって来た。
中には口元や爪に血が付いている者もいる。そのどれもが、微弱聖女に今にも襲いかからんとしていた。
「いやー!助けて!何でも話すから殺さないで!倉庫よ!学園の裏庭にある倉庫にいるわ!怪我なんてさせてないから!だからお願い、助けて!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな微弱聖女を置いて、ディアナが赤ちゃんの元へ走り出すと、アランも続いた。
ウィルは伯爵子息とオーガストに微弱聖女の拘束を指示してからすぐに後を追った。駆け出す直前、視界に水色の影が写ったので、おそらくジークフリードが駆けつけたのだろう。ユリアとサブリナはジークフリードに任せておけば安心だ。
なんとかウィルが追い付いた時、2人はヤッホーベアーの背中に乗る途中だった。ヤッホーベアー達が、人間の足が遅いと痺れを切らしたのだろう。
すぐ目の前のヤッホーベアーにウィルも乗るように促され、ヤッホーベアーの背に乗って学園の裏庭へと急いだ。
倉庫の鍵は閉まっていたが、ヤッホーベアーの一撃であっさりドアごと破壊された。
中からみゅーみゅーと赤ちゃん熊が飛び出してきて、母親に抱きついた。微弱聖女の言っていた通り、怪我も無さそうで一行は安心した。
その後駆けつけた騎士団と一悶着起こりそうになったが、王妃様が現れて場を納めてくれた。
誰の指示かはわからないが、微弱聖女は縛られたままヤッホーベアーの群れの真ん中に置かれて、よっぽど怖かったのか失禁と共に全て自白した。
そして今回ヤッホーベアーに襲われた面々は微弱聖女の取り巻きで、赤ちゃんベアーを拐った実行犯だったので、怪我をしたのは自業自得な上、王族殺害未遂で罪に問われることとなった。
ヤッホーベアー達は子供を拐った者以外には手を出さず、子供が手元に戻った後は大人しくなったので、特に咎められることも無く騎士団に付き添われアトウッド領へと戻って行った。
「は~、もふもふベアーちゃん達も可愛かったわ~」