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その日の放課後、ディアナは図書室へ急いだ。とにかく早くジークフリードに会いたかったのだ。
図書室は2学年の教室と近いため、ディアナがついた頃にはすでにジークフリードは本を読んでいた。
急いでかけより、手を引っ張って有無を言わさず誰も近寄らない外国語コーナーへ連れて来た。
勢いで連れて来たが、何を話せばいいかディアナは迷っていた。
「どうしたんですか?もしかしてダンスの授業で私の陰口でも聞きましたか?あれが一般的な反応だと、貴女もそろそろ気付きましたか?」
あんなのが普通だなんて……きっと幼い頃からまわりはあんな反応だったんだろう……諦めとも怒りともつかない表情を見て、ディアナは悲しくなってしまった。
「同情でもしましたか?そんなものは要らないので、王子様の元へでも行ったらどうですか?嫌いだと言っていたわりに、ずいぶん楽しそうに踊っていたではありませんか」
「あれは、初日の謝罪をしていただいていただけで、特に何も……」
「もう私の事は放っておいて頂けませんか?」
そう言って、その場を離れようとするジークフリードの腕をつかんで引き止めた。きっと今まで色々ディアナが想像出来無い位、辛い経験をしたのだろう……
そう思うと、涙が出てきてしまった。「え?いや……ええ?」等と予想外だったのか暫く狼狽えていたジークフリードだったが、大人しくその場に留まることにしたようだ。
ディアナは少し落ち着いたところで顔を上げると、ハンカチを差し出してくれた。
ありがたく使わせてもらい、涙と鼻水を拭いた。ジークフリードは少し引きつっていたようだが、綺麗に洗って返せば問題無いよね?
「ジークフリード様、踊りませんか?」
「え?ここでですか?音楽も無いし、さすがに本棚の間では狭すぎると思うのですが……」
「確かに……そうですね。では、今度のパーティーで踊ってください!お誘いに行くので、絶対断らないでくださいよ?」
「いえ、パーティー等と目立つ場所で私と踊ったら、貴女まで何を言われるか……」
「あんな噂気にしません!それにアトウッド領は噂など届かないような田舎ですから。ここで何を言われても、領に戻ってしまえば気になりません。
ジークフリード様もアトウッド領にお婿さんに来れば陰口を言う人なんていなくて快適な生活ができますよ?うふふ」
「またそれですか……何度も言っていますが、私は誰とも結婚する気はありませんので。他を探してください。では、私はこれで……」
何だか開きかけたシャッターがまた閉まってしまった気がする……お婿さんお婿さん言い過ぎると良くないようなので、今後控えようとディアナは心に誓った。