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ここはランドル王国の端にあるアトウッド伯爵領だ。
森に囲まれ人よりも家畜の方が多いと言うのどかな田舎の領で、あまり知られてはいないが、魔王復活の際は何故かここだけは魔獣の大量発生が無かったと言うくらい、本当にのどかで平和な領である。
基本的に自給自足で生活しているため、領主も領民も伯爵領の中でのみ生活し、隣の領でさえもほぼ交流の無い謎の領としても有名……では無く、ほぼ忘れられた土地となっていた。
そんなアトウッド領の領主である伯爵は、例に漏れずちょうど良い結婚相手を探す事に乗り遅れ、一応上位貴族の端くれだが幼馴染みの平民の女性と遅い結婚をした。
二人は恋愛なんて甘い物もなく、今でも友人同士のような関係だった。
そんな二人の間には、娘が1人いる。遅い結婚だったためか子供は娘1人だけだが、魔王復活の影響で法律が変わり、女性でも爵位を継げることになったので彼女が次期伯爵となる。
そう言う家も少なくは無く、学園で貴族の次男三男を婿養子として探すのだ。
さて、この伯爵家の娘、名はディアナと言う。14歳でこの春から学園へ通うことになっている。
アトウッド領はランドル王国の最北端に位置するため、外にいることが多いわりに肌は白く、緩く波打つ黒い髪に夜明け前の空のような深い碧眼の美しい少女である。
弓を得意とし、愛馬にまたがり狩りをするのが趣味な為、しなやかで引き締まった筋肉がついていて猫のような少女だった。
少女は今、森で愛馬とペットのウサギに愚痴っていた。
「は~、もうどうして学園なんて出来たのかしら……別に作るのはいいけど、貴族は強制的に通わなきゃとか横暴過ぎるわ!
あんな遠い土地で2年も過ごさなきゃなんて……それに私、貴族と言ってもお母様は平民だし、礼儀作法だっていつもおばあ様に注意されて……とてもじゃないけどやっていける気がしないわ。
おばあ様の話じゃ王都には森もあまり無いみたいだし、どこで狩りをしたらいいのかしら?
え?狩りはしちゃだめだって?確かにおばあ様はそう言ってたけど……
あなた達のご飯だって調達しなきゃだし……確かに学園では馬1頭とペットも1匹までは連れて来て良くて、餌も出してくれるって書いてあったけど……森があまり無いんじゃきっと新鮮じゃないわよ?
新鮮な餌の方がよくない?え?我慢するからディアナも我慢しろって?2年よ2年!無理に決まってるじゃない!
ううう、こんなに遠くなければ長期休暇で帰って来られるのに……片道10日は遠過ぎるわよね……
しかも2年の間に結婚相手を見つけなきゃ、見つかるまで帰って来られ無いなんて……ううう、絶対無理よ。
どんな人を選べばいいのか分からないわ。え?そうよね、あなた達を可愛がってくれる人じゃなきゃ論外よね。でも、馬とウサギを可愛がってくれる人なんて、きっとたくさんいるわ。
一緒に狩りをしてくれるような人もいいわよね。あ、礼儀作法にうるさくない人がいいわ!そうなると平民の方がいいんじゃないかしら?そうね、平民狙いでいきましょう!」