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そう偉そうに言って現れたのは、第2王子だった。陰口を言っていた少女達は第2王子狙いだったのか「そんな、誤解です」だの「や、違うんです」だの言っていたが、第2王子は彼女達に目をくれること無くディアナの隣に立った。
「13番はディアナ嬢で合っているか?私はウィリアムだ。今日のパートナー、よろしく頼む」
「あ、はい……こちらこそ、よろしくお願いします」
初日以来印象最悪の王子だったが、案外いい人なのかもしれない……ウィリアムがああ言えば、これ以上誰もジークフリードの悪口を言えなくなる。
ジークフリードとは距離があるため、今の会話は聞こえていなかっただろう。だが、いつの間にかそこかしこでひそひそ陰口を言っていた声が止み、ダンスホールは気まずい空気になっていた。
男子生徒も皆くじを引き終わった様で、ダンスの練習が始まった。ウィリアムはさすがに上手かったが、ディアナもダンスは祖母の授業の中で唯一好きな授業だったため、かなりの腕前だった。
領地では父位しかまともに踊る相手がいなかったが、ウィリアムのリードは父とは違いとても踊りやすく、相性がよかった。
「その……ずっと謝りたいと思っていたんだ……初日は嫌な思いをさせて悪かった」
踊っている途中で、まわりには聞こえない様に耳元でささやかれた。正直怒っていたが、先程の事と言い、自分の非を認めて謝れる事と言い、ウィリアムが悪い人じゃないと言うことは十分わかった。
これ以上腹を立てているのも大人げないし、先程ジークフリードに対する陰口を止めさせてくれたことにも感謝しているので、ディアナはウィリアムを許すことにした。
「いえ、もう気にしないでください。先程は陰口を止めてくださり、ありがとうございました」
「いや、人の陰口とは聞いていて気持ちのいいものではないからな。
……許してくれてありがとう。もしよければ、友人になってくれないか?それと、今度馬にも謝らせて欲しいのだが……」
「本当ですか?シンディも喜びます!友人になるかどうかは、シンディ次第ですね。新鮮な生肉を持って行ったら、きっと許すと思いますよ。ふふふ」
「な、なるほど……全力で許して貰えるよう頑張るとしよう」
「近くに狩りが出来る場所などご存じ無いですか?シンディもキャシーも、狩りたての肉が1番好きなんです」
「ああ、それなら王宮の裏手にある森が1番近くだ。小さな小川もあって、野うさぎ等もいるから、狩りの練習に使う森なんだ。
もっと本格的にしたいなら、王都の外になるが鹿なども出る狩りスポットがある。お詫びに今度案内しよう」
「本当ですか?ありがとうございます!ふふ、最初は何て男だと思っていましたが、実はいい人だったんですね」
「そ、そんなことは無いと思うが……まぁ、初日のあれは酷かったからな……許してくれてありがとう」
「いえ、まだシンディが許していませんからね?本当に許すかどうかはシンディ次第ですよ?ふふふ」
思いがけず楽しい一時を過ごす事が出来た。躍っていると、ふと視界の隅に見知った水色が映った。
ジークフリードが無表情で窓にもたれ掛かり、外を眺めていたのだ……ジークフリードを思うと、胸がぎゅっと苦しくなった。