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それでもジークフリードは固まったまま動かなかった。
「ジークフリード様?ジークフリード様?大丈夫ですか?」
と顔の前で手をヒラヒラしたり、肩を揺すったりしてみると、はっとして握ったままの手を凝視して、あわてて離されてしまった。
「だ、大丈夫だ!問題無い!もう遅いから寮まで送ろう」
そう言ってそそくさと歩き出してしまった。あわてて隣に行き、並んで歩き出すと、何か言いたげにチラチラこちらを見てきた。
「そう言えば、さっきアラン=コリンズ君と話していましたね。楽しそうに話していたようですが、どうでしたか?」
「え?ああ、そうですね。気付いたら友達になっていたみたいです。今度ガッツリ系の食堂を教えてくれるそうです。
ジークフリード様はどこかガッツリ系の食堂をご存知無いですか?王都に来てからおしゃれな食事ばかりで物足りなくて……」
「今日のランチはすごい量を食べていましたよね。あれが普通なんですか?女性はもっと体型を気にして食べないんだと思っていました」
「見てたんですか?もしかして引かれちゃいました……?王都の女の子達はあまり食べないみたいですね……
あ!もしかして男性は少食な女の子の方がお好きなんですか?」
「どうでしょう?私はせっかく一緒に食事をするなら、美味しそうに食べてくれる人が好ましいと思いますよ」
「本当ですか?ジークフリード様がいいって言ってくれるなら、このままでいいですね!うふふ」
「え?いえ、あくまで私の意見なので……コリンズ君にも聞いてみたらどうですか?」
「え?どうしてですか?あまり興味無いのですが……?」
「そ、そうですか……」
どうしてアランの話が出てきたのか謎だったが、いつも無表情のジークフリードが少しだけ優しい表情をしている気がするので、ディアナは嬉しかった。
寮に戻ってさっそくアランとジークフリードの事をドリー達に報告すると、何故かアランをしきりにすすめられた……他の男をすすめられるなんて、絶対脈が無いからと……
う~ん、そんなものなのだろうか?恋って難しい。
それから数日後、放課後はすっかり1人で行動することが多くなったが、行くのは図書室だけだった。
ジークフリードがいたら話しかけに行き、いなければ仕方無いので寮に戻ると言うパターンになっていた。
今日もそうする予定だったが、銀髪の男子に声をかけられた。
「こんにちは、ディアナ嬢。私は2学年のアンソニー=フォックスです。実は絵のモデルになって欲しくて探していたんです」
「ごきげんよう。絵のモデルですか……?……すみません、お断りします。では、急いでいますので失礼します」
何だかよく分からないけど、まわりにいた女子達の殺気を感じて逃げることにした。
ここまで来れば大丈夫かな?と振り返ってみると、アンソニーは数人の女子生徒に囲まれていた。どうやらモテるらしい。
不要な争いは避けたいので、逃げて正解だったようだ。
彼と言うより彼のまわりが危険そうだから、近付かないように気を付けようとディアナは心に誓った。