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ふと顔をあげると、向こうの本棚の所に最近よく見る水色の髪が目に入った。まわりを見ると誰もいないようだ……これは、最大のチャンスじゃないのか!?
ああ、でも何て話しかければ……と見つめていると、琥珀色の瞳と目が合ってしまった。
“うわ~、凄く綺麗……”
思わず見とれていると、ジークフリードがおもむろに近付いて来た。
「こんにちは、ディアナ嬢……何かご用ですか?」
「はっ!すすすすすみません!その、あまりの美しさについ……えっと、そうじゃなくて……えっと、ジークフリード様はその……婚約者や恋人はいらっしゃるんでしょうか!?」
いきなりの事態についうっかりどストレートに聞いてしまった。ジークフリードも何を言われたのか理解するのに数秒かかったようで、固まっていた。
「は?え?美しいって俺が……?いや、婚約者なんているわけ無いだろう?は?からかってるのか?」
「ええ?いえ、本気なんですけど……その、次男ですよね?婿入りなどする気はありませんか?」
「いや、俺……私を婿になど求める家等存在しませんので……」
「え?どうしてですか?成績優秀で侯爵家の次男ですよね?しかも眉目秀麗で……引く手あまたでしょう?」
「ああなるほど、ディアナ嬢は貴族社会にあまり明るく無いのですね。
私は確かに侯爵家の次男ですが私も兄も、母と母の実の父親の間に生まれたのです」
「はぁ……そうなんですね……それで……えっと?」
「いや、えっとじゃ無くて!気持ち悪いと思わないのか?」
「……そうなんですか?でもあの時代はそう言う時代でしたし。実の兄弟の間に生まれた子もいるでしょう?うちのように平民と結婚した貴族も多いですし、何か問題があるのですか?」
ディアナには何がいけないのかよくわからず、本気でキョトンとしてしまった。跡継ぎを残すためにみんな必死だったのだ。それの何がいけないんだろう?と……
ジークフリードは固まったまま動かなくなってしまった。
「あの、大丈夫ですか?ジークフリード様?……それで、その……よかったら私と結婚してアトウッド伯爵領に来ていただけたりは……?あ、でもその前に私のペット達とも仲良くやれるか確認しなきゃなんでした!」
「ええ?け、結婚!?い、いや、私は生涯独身を貫こうかと……ペット?ああ、そう言えばディアナ嬢はちょっとした有名人でしたね。
シンディの飼い主だとか。シンディの隣が私の馬なんです。大きいし肉食と聞いたが、利口な馬で私の馬とも仲良くやってるようですよ」
“まぁ、何かあったら大変なので、普通ならもっと下位貴族の馬の隣なんですけどね……何処かのバカが馬丁を脅して、嫌がらせで俺の馬を隣に置いたんだろう”
「まぁ、あの可愛い茶色のグンバの飼い主さんだったんですね!こちらの馬達はみんな小さくて可愛いですよね!しかもお野菜を食べるのだとか……初めて見たときは虐待かとビックリしましたのよ。ふふふ」
「虐待……っく、くくくく
いや~、ここまでとは……アトウッド伯爵領は本当謎だらけですね。ディアナ嬢も、みんなの想像とはずいぶん違うようで驚きました」
「そうですか?アトウッド伯爵領は恥ずかしいくらい田舎の領ですが、みんないい人ばかりだし、動物達も可愛いし、自然が豊かで魔獣が出ない穏やかな領ですよ!ぜひお婿さんに来てください!」