8.冒険者ギルド
「じゃぁ、剣の代金は、余った金属とあとは迷惑料だ!」
「いいのか?」
「かまわねぇよ!それより俺の打った剣がもろいなんて噂でも流されちゃかなわん」
ロゥトの町へ着いた俺は、一人で以前の剣を調達した武器屋へ来ていた。
そこで、新しい剣を購入しようと思っていたのだが、オーガが持っていたボロボロの大剣がそこそこいい素材を使った物だったようで、それをそのまま素材にして、俺の使いやすい長さの剣を打ってもらえる事になった。
俺は専門ではないので、よくわからなかったが、どうやらミスリルと鉄の合金製だったらしく、ミスリルはそんなに多く採掘される事がないので、そこそこ珍しいようだった。
武器屋の店主は、人間なのにドワーフと変わらないほどの丸太のような太い腕を組み、来ている肌着はくっきりと胸板の厚さを示すような皺が寄っていた。
「しかし、そんな魔物の集団と戦って生きてるなんて・・・おめぇさん見かけによらずなかなかやるな!」
「たまたまだよ・・・普通生きてるわけない。」
「ガハハハハッ!まぁ強いやつが、俺の剣を使ってくれるのはいいことだ!・・・剣は4日はかかる!まっててくれ!」
「そりゃどうも、じゃあ4日後にとりにくるから。」
「おう!迷惑かけてわるかったな!」
俺は後ろ手に、手を振り武器屋から出た。
結構前に買った気がするが、俺の使っていた剣が戦闘中に刃が欠けたり、思いっきり投擲したら折れた話をしたら、店主が代わりに剣を打ってくれるというので、今回はお願いすることにした。
普通の剣として使う分には、前の剣も扱いやすかったし切れ味もよく、気に入ってたのでこっちとしても助かる。
これで俺の持っている普通の武器は、今はなくなってしまったがロゥトの町周辺は、魔素も薄く安全な為問題にはならないだろう。
完全に武器が無いわけではない。
爺さんから貰った魔法剣の柄がある。魔法剣では刀身が必要ない。
自分の魔力を剣として形を作り、それで切りつけるのが魔法剣という剣だ。
正直柄も必要かといわれると微妙なのだが、あった方が形をイメージしやすく、重さが少しあった方が剣として振りやすかったりするので、俺は柄を使うことにしている。
まぁ魔眼と同じく人前でつかったら即刻連行されて、死刑かよくて拷問の末に解剖だろう。
この世界の人間は、基本的に魔法を使えない。
それは前世の日本と同じだが、世界に魔法が存在しないわけでは無い。
人間と友好的な関係を築いているエルフはもちろん使えるし、ドワーフだって鉄鉱石の採掘や鍛冶をする際に、魔法を使う。
魔物でも魔法を使えるやつがいると聞いたことがある。
つまり、この世界で魔法を使えないのは人間だけだ。
だが魔法を目指して研究されている技術はいくつか存在する。
魔術や呪術、錬金術などは、人間が魔法を目指し同様の効果を発揮するものを作り出そうと、日夜研究しているらしい。
ではなぜ、魔法を使える人間が、それだけで迫害されるのか。
理由は大昔の魔族による人間の弾圧が関係している。
大昔の戦争の前、人間、エルフ、ドワーフは魔族によって管理され支配されていたようで、特に魔法の使えない人間の利用価値が薄かったのか、ひどい扱いを受け続けていたらしい。
あまりにもひどかったので、虐げられた者たちが結託し、戦争が起こり英雄が生まれたのだ。
魔族と、人間の身体的な特徴は酷似している事も原因とされている。
見かけは、ほとんど人間と変わらないのに魔法を使い、寿命が長い彼らは、今は魔大陸に引きこもっているものの、再度世界の覇権を握るため戦争を仕掛けるというのが、人間側の共通認識だ。
要は、大昔の戦争で作られた連合の仮想敵が魔族だ。
そして、見た目が人間と変わらないが魔法を使う者は、魔族認定をされても仕方がない。
敵を見つけたら何かする前に殺してしまえ。というのがこの世界の人々なのだ。
爺さんと、いろいろ訓練しながら旅をしていた時期に、運悪く魔法剣の訓練を通りがかった冒険者に見られてしまい、それから3か月ほど巻くために雪山の中で生活したのが懐かしい。
もう絶対したくない。死ぬから・・・。
そんな事を思い出しつつ、先に今回のココット村の剣をギルドに報告しにいっているロイに合流しようと、俺はロゥトの町中を冒険者ギルド方面へ歩いている。
ロゥトの町に着いたとき、俺達はそれぞれで別行動をとっていた。
生き残りのおじさんと子供を連れた、ロイがギルドに報告へ行き、クリストフとミフィーは、町の宿を探しに行った。ガッツは今回の旅で消費した旅の消耗品や、保存のある程度効く食料の買い出し。
クリストフも武器を失っていたので、誘いはしたが、今のあいつはミフィーと一緒にいる事を優先したいらしい。
とりあえず、用事が終わったらギルド前集合といっていたので、向かうことにしたのだ。
普通の武器を持っていないというのも落ち着かないもので、冒険者生活をしているとみんなそうらしいが、自分の武器がないというのは心細い。
自然と普段どおり魔法剣の柄が自分の腰に刺さっている事を手で確認した。
他の人からは見えないように外套で隠している。
少し正面から視線をはずしてしまった隙に、誰かとぶつかってしまった。
「すまない。」
「・・・・。」
ぶつかったのは少年で、この町の子だろうか。
少年は何も言わずにそのまま走り去ってしまった。
どこかに急いでいるのだろうか?・・・。
俺は気にしない事にして、冒険者ギルドの方へ再度向き直った。
「しかし、魔物の集団をたった4人でねぇ・・・」
「本当なんです、現に私たちはつかまってしまい、彼らがいなかったら死んでいた!」
「・・・」
冒険者ギルドでは、ロイが村のおじさんとギルド職員とで話あっていた。
子供は飽きてしまったようで、ギルドの中をふらふら探検している。
本来は、ミフィーを連れてくれば話が早いとも思うのだが、ギルドの経営している酒場でギルド職員として働いていたというだけで、こちらの町のギルドに特につてもなく、職員であったことを証明するものも酒場と一緒に燃えてしまったので、いた所であまり意味はない為、クリストフに連れていかれた。
「君達のチームは4人だけ・・・なのにオーガが指揮する魔物の集団を死ぬこともなく、追い払ったなど・・・いくら名声が欲しいからと言って・・・」
「・・・つまり俺達の戦いは嘘で、ギルドはココット村へ調査も行わないと?」
「そんな・・・村の再建もないなら、俺はどうやって生活すれば・・・」
「嘘とまでは、言わんさ・・・だが常識的に考えてにわかに信じがたい事だというだけだ。ココット村は近いのでな、近いうちに調査団を編成しよう。」
「・・・よかった。」
おじさんは安堵したようだ。
「俺達も変な噂でも流されたら困る、調査した結果嘘でない事がわかるでしょうから、その時に謝罪してください。」
「それは、すまなかった。・・・生き残りを助けたのだ。結果が出たら特別褒賞に色を付けよう。」
「くれぐれもお願いしますね。」
ロイ達の話し合いが終わった後、俺達はおじさんと子供とミフィーをクリストフが見つけた宿に案内して、ギルドの経営する酒場に来てロイに話し合いの内容を聞いていた。
「・・・しかし嘘とは。・・・まぁ生きてたのが不思議なのはわかるが。」
「正式に調査されればわかる事さ。」
「何はともあれ、金がでそうでよかったのである。」
「ミフィーちゃんかわいい・・・」
「クリストフ・・・お前・・・」
「・・・少しは反省しろ!」
ロイは、言いつつクリストフの頭を小突いた。
「・・・こいつ聞いてないな。」
クリストフのにやけっぷりに俺は呆れてしまった。
なぜなら彼女は、ロイといるときの方がうれしそうなのだから・・・。