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無刀の剣聖  作者: ところてん
70/72

70.魔眼の力

ジェニムの街を出てからだいたい、3日。

出て少ししたところで、一回意識を飛ばして、気が付いてからすでに3日経っている。


それでもできる限り急いで移動して、たどり着いたダルトの町は、異常というか異様だった。

昼に着いたのに、町の出入り口の扉は、締め切られ、扉の前で行商人が立ち往生していた事に始まる。

扉の隙間に魔法剣を突き入れ、閂を斬って中にはいると、明らかにおかしい光景が広がっていた。


服を脱ぎ棄て、走りまわる者。

ただ虚空を見つめて、ぶつぶつとつぶやいている者。


座り込み、がくがくと頭を揺らしている者。

歩きすぎて、足から血を流しながら、まだ歩いている者。


四つん這いになり、獣のように動いている者。

明らかに曲がってはいけない方向に腕を曲げ、戻す行為を続ける者。


すべての住民が、その両目に淡い緑の光を灯し、狂ったように動き回っていた。

それを見て、行商人は、慌てた様子でどこかへ行ってしまった。


・・・まぁ、そうなっても不思議じゃないな。

俺も普通に魔法剣使ってるし・・・。


一度目を閉じ、ゆっくりと瞼を上げる。

魔眼を発動させて、警戒しながら町の中心へと進んでいく。


広場に近づく程、人口密度が大きくなり、奇怪な行動をする人々が邪魔になって来た。

少し押しのけながら進んでも、俺に文句を言ってくる人などいない。


広場の中央辺りに、見覚えの無い木の柱が立っているのが見え、気になった。

肩が触れ合う程、近く迫ってくる奴らをどかし、どうにか進む。


人垣を抜けると、そこには、見たくもない光景が広がっている。

素っ裸の男達が、中央の柱を支えるように取り囲み、人力で土台になっている。


人が集まり過ぎていて、下の方は重さで潰されていたが、それでもかまわず、今もなお集まっているようだ。

足元には、血が溜まり、それに折り重なるように、何人もの人が殺到している。


「「どうだ? 小僧・・・俺の庭は、愉快だろう?」」


木の柱の奥にある大きな建物、その方向から声が聞こえた。

そちらを見ると、見覚えのある男が、こちらを見下ろすように立っていた。


「・・・気色が悪い。」

「「この芸術をわからんとは・・・」」


俺と木の柱の間に黒い液体のようなものが広がった。

そこから、ウィルの頭部がゆっくり出てくる。


「チェシーはどこだ?」

「「・・・チェシー? あの女か?」」


全身が現れた男は、ゆっくりと後ろを指さした。


「「それの下だ。」」


ガキンッ!


言い終わりに我慢ができず、斬りかかった。

俺の出せる最速だっただろう一撃は、俺の中で戦った男の剣に阻まれた。


一度見れば忘れない、その禍々しさ。

何よりも、俺を助け、育てた男と同じ色の刀身。


「「そう慌てるな。」」


独特の音を鳴らし、斬り払われ、その勢いも使って後方に飛んだ。

一歩分、自分の間合いから離れた位置に距離を置いた、その時だった。


「「魔族だ! 魔族がいるぞ!」」


ウィルの顔をした男が、俺に切っ先を向けて叫んだ。

その号令に、周囲にいた目を光らせる人々が、それまでの勝手気ままな行動を止め、こちらを一斉に振り向く。


「・・・糞がっ!」

「「お前の中とは言え、一度敗北しているのは事実・・・ならば、それなりに歓迎してやらんとな。」」


再度、距離を詰め魔法剣で一閃する。

しかし、手ごたえなど無く、空を斬った。


「「まぁ・・・俺の庭を楽しめよ。」」


大きな柱の上から俺を見下ろし立つ男は、不敵な笑みを浮かべ、パチンと指を鳴らす。

すると、周囲の目を光らせた人々が、俺に向かって殺到してくる。


「知るか・・・。」


進路にいる邪魔な者を、踏みつけて跳ぶ。

怒りに任せた渾身の一撃を気合と共に、男の頭上へ振り下ろした。


竜種をも両断する一撃は、流石に受け止めきれなかったのか、禍々しい獣のような刀身で受けられたが、男は後方にいる人々を巻き込みながら吹き飛ばされた。

建物に突っ込み、その道には煙が経ち上がる。


先程まで、ウィルの顔をした男が立っていた場所に着地し、その様子を見下ろすと、煙の中で光る刀身が見えた。

足に魔力を溜め、そこへ向かって、思いっきり踏み出すと、人が支えていた柱は、後方へと大きな音を立てながら倒れた。


砂煙の中、轟音を鳴らしながら、魔法剣の打ち合いが続く。

何人かは、巻き込んでしまったが、なるべく住民達は斬りたくなかった。


「「この目を使っても、これほどか・・・」」


何度目かの鍔迫り合いの際に、男は歯ぎしりしながらつぶやいた。

俺の後方から、何人かが襲ってくるのが分かったが、あまり気にしていなかった。


俺の周りには、すでに仲間達の武器が姿を現している。

ただ、俺を守るように。

俺の周囲をくるくると回りながら、自動的に防いでくれた。


砂ぼこりが収まると、周りが見えた。

建物は、教会だったようだ。

並べられた長椅子をも蹴散らしながら続く戦闘のせいで、徐々に廃墟となっていく。


この戦闘は、俺にとって不思議だった。

魔眼を使って視ると、相手の動きが予測できる。


それは、最初からできていたことだし、慣れると感覚が伸びたり、自分の好きなように調整したりしていた。

ウィルに前回斬られた時は、彼の魔眼の力だったのか、動作予測と俺の身に起こった事象がずれていた。


それが、事象改変という力を目の当たりにした時の印象だ。

しかし、今回はあまりそれが無い。


というより、改変された事象すらも予測として、目に映る。

そして、その事象と言う物も、見えていれば避けるのも、受けるのも容易かった。


例えば、この突き。

今、まさに繰り出された突きだが、一歩右に避ければ、その避けたという事実を改変され、腹に大穴を開けられる。


なら、逆方向に行けばいい。

すると、予測通りに、ウィルの身体は動き、俺の避けようとした方向の空気が突かれ、砂を散らす。


ここまで見切れるのであれば、後は容易い。

全力で魔力を纏めた剣があればいい。


止められる事が解っている攻撃を繰り出し、止められても勢いで吹き飛ばす。

こちらも魔力を消費するが、吹っ飛ばされて、何かに衝突する分、相手の方がダメージがある。


どう斬っても改変されて止められるならば、それで殺す事を諦めて、吹き飛ばして何かに衝突させればいい。

町中での戦闘という障害物、建物の多い地形だからこその戦い方とも言えた。


「「・・・ぐぅっ。」」


全身から血を滴らせながら、男の顔は嗤っていた。


「「素晴らしい! 最高の魔眼じゃないか! この俺にこそふさわしい!」」


醜く顔を歪ませ、嗤う。


「「お前の心を折るのが楽しみだ。」」


嗤う男が、空いている手を俺に伸ばした。

魔眼の予測が、その手から伸びてくる青白い腕が見える。


直観したのは、これがこの男の魔法である事。

同時に悪寒を感じ、その伸びてくる青白い手を避る。


「「いいのか?」」


その言葉を聞き、俺は後方を見た。

その手の伸びた先には、教会の祭壇。


その場所には、見覚えのない金髪の女に捕らえられた、チェシーが意識なく立たされていた。

更新遅くてごめんなさい。

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