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無刀の剣聖  作者: ところてん
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64.嗤う魔眼の男

「貴様には協力してもらう・・・悪いがこれは強制だ。」

「・・・協力? どうやら自分が何をしたのかもわかっていない阿呆らしいな。」


ただ真っ暗な空間で、二人の男が相対している。


一方は、その両の目を碧く輝かせ、もう一方は涙の如く血を流す。


「その阿呆に、身体を奪われている間抜けは、なんと呼べばいいのかな?」

「・・・貴様っ!」


碧い目を光らせる男は、拳を握り胸の前で構える。

戦の準備ならとうにできていると、その姿勢で示した。


「まぁ、そう急くな・・・俺に協力するだけで、お前は欲しかった物を手に入れる。」

「戯言をっ・・・。」

「剣聖・・・なりたいのだろう?」


目を潰し、血の涙を流しながらも、不敵な笑みを作るその男の言葉は、自信に満ち。

不遜ともとれる態度が、それが事実だと言っているようだった。


「貴様程度の魔法使いに剣聖は無理だ・・・荷が重い。 だが、俺は違う・・・何せ過去の大戦の際に、こちらを助け剣聖となったのは、この俺だ。」


言うと男は、右手を宙に向け突き出した。

そこには、黄緑色の曲剣が現れる。


刀身は、薄く幅広。

反りがあり、所々が針のように突き出し、その外形が獰猛な獣を連想させる。


「・・・そもそも柄なしで剣すら作れぬ半端者に、剣聖を名乗る資格など無い。」

「はっ!・・・光を失った男に、俺が負けるとでも?」

「貴様程度の魔眼では、俺は止められんよ・・・たとへ魔眼が無くてもな。」


碧い目を光らせた男は、相対する男に向かう。

両の拳は、蒼い光を放ち、殺気と共に敵を潰せと放たれる。


クキャァァアアアン!!


光を放つ右拳は、その腕の肘が伸びきる前に、宙を舞う。

獣のような刀身が、噛みちぎった断面は荒く、ぼたぼたと獲物の血肉を貪った。


「・・・これで片腕。」

「ぐあぁおぉあああ!」


叫ぶ男の顔は歪み、両の膝を地につける。

真上の暗闇を光る目で見つめるが、助けの手など見当たらない。


「・・・あの小僧は、全身を奪っても耐えてみせたぞ?」


コツコツと音を立て、光を失った男がゆっくりと近づく。


「欲の深いものほど、心は弱いものだ・・・。」

「・・・。」


碧い目を光らせ、歪む景色の中、やっと見えた男は、口元を悪魔のように歪ませた。


「さて・・・調教を始めようか。」


その言葉と共に、今度は、左腕を突き刺す。

刀身は、簡単に腕を貫通し、伸びる針がその周辺にいくつも突き刺さった。


「ぐあぁおぉあああ!」

「喚くなっ!」


腕に剣を突き刺したまま、今度は左から側頭部を蹴りつける。


グゥシャッ!


「・・・・アアォアアアォア!」


碧い目をした男は、地面に突っ伏し、獣のような呻きを上げた。


「・・・ずいぶんと、折れるのが早いな・・・芝居か?」


目は潰れていても見えるのか、容赦なく左踝、右踝、左膝、右膝・・・。

長い時間を掛け、下半身から順に突き刺さる剣が、碧い目の男の心を徐々に砕いていった。


身体を襲う激痛と、薄れる意識。

景色は歪み、考えられる事など、少なくなっていく。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

「・・・やめて欲しいか?」


己を突き刺し、達磨にした張本人は、耳元で優しく囁いた。


「・・・やめてっ、やめてっ、やめてっ、やめてっ、やめてっ!」

「五月蠅い。」


目のない男は、立ち上がり、今度は空いた腹に剣を突き刺した。


「ああああああぉぉぉあああぁぁぁっぁあぁぁ!」

「・・・ほら、ちゃんとお願いするんだ。」


突き刺した、剣をぐりぐりと捻りながら、目から血を流す男が言う。


「お願いできれば・・・治してやろう。」

「お願いっ・・お願いします、やめてっ・・・やめてください。 治してっ・・・お願いします。」


その言葉を聞き、懇願するしかなかった。

声をからし、涙を流し、痛みから逃れるには、それしかないと思われた。


「・・・いい子だ・・・だが、残念なことに、魔眼がなくてはな。」

「・・・魔眼っ? ある・・・俺のがあるからっ・・・治してっ!」


目の前にいる、目の無い男こそが、自身を救う神であるかのように羨望の眼差しを向けながら、碧い目の男は言った。

その言葉を聞き、目の無い男は、口角を吊り上げた。


「よろしい・・・ならば治そう。」

「はいっ! お願いしますっ!」


目のない男は、ゆっくりと、その右手を碧い光を放つ眼球に近づけていく。


「安心しろ・・・痛みなど一瞬だ。」

「はいっ!」


瞼を指で押し開き、眼球を露出させ、端から器用に指を入れていく。


「あぁっ! ああああ!」

「震えるなっ! 手元が狂う。」


眼軸ごと引かれ、強烈な痛みと共に、碧い目の男は、喜びを覚えた。


目の無かった男は、引き抜いたそれを、自身の身体に入れていく。

先程まで何も無かった右目には、新たに碧い光を放つ魔眼があった。


「・・・さぁ、もう一つもだ。」


片目を失い、倒れる男を抱え起こすと、今度は、残った目を取り出し始めた。


「これっ・・・これでっ・・・俺はっ!」


痛みから解放されるのかと、希望に満ちた目を光らせ、男が笑う。


「ああ・・・」


歪んだ笑みで、その表情を見る男は、一気に引き抜いた目をまだ空いている左目に入れた。


「・・・悪いが、お前はもう必要ない。」


嗤う男に、収まった碧い目が、徐々に蒼くその色を変色させていく。


「・・・えっ?」


口を開け、目をなくした男が赤黒い涙を流した。


「ついでに、他の全ても貰っておこうか。」

「嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ!」


叫ぶ男の頭を掴み、奪う男は嗤った。


「・・・お前程度では・・・あの小僧すら殺せんよ。」


頭を片手で潰し、騒ぐ男を黙らせる。


「・・・ああ、いい気分だ。」


虚空を見つめ、一度目を瞑る。





「「しかし・・・この身体・・・渇く」」


全てを手に入れ、一度は、満足したものの、すぐにまだ満たされていない事を知る。


「「・・・成程・・・一つの身体に2人の欲が詰まっている、か。」」


落ち着き払った様子で、顎をさすり、自身の状況を整理する。


「「・・・あの男・・弱い割には、欲だけは深いようだ。」」


湧きあがる熱は、自身の欲なのか、奪った身体の本能か。

目の前に、横たわる人形のような女を見ると、身体の熱は膨れ上がる。


「「・・・厄介だが・・・魔力が戻るまでの信望か。」」


身体の中で混ざり合う欲求をただ、目の前の人形にぶつける男は、嗤っていた。

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