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無刀の剣聖  作者: ところてん
57/72

57.微力な抵抗

「・・・ふむ・・・確かに小僧には、手に負えんか・・・」


ウィルと打ち合いながら、青白い目の男は、そう漏らした。

ガリガリと魔法剣を軋ませながら、交差するとウィルは、目の前の人物を睨みつける。


「まるで俺に斬られたのは、自分では無いような口ぶりだな・・・。」

「・・・これだけ打ち合っても解らんとは・・・よほど剣技は苦手かな?」


言って笑うと、青白い目の男は、斬り払う。

軋んでいたウィルの魔法剣は、何とか形を保ったものの、ガリガリと魔力を削られていく。


ウィルにとっては、この男との斬り合いは、危険だった。

その一撃は、常に急所を狙っており、魔眼による事象改変を細かく行っているからこそ、打ち合えている。


それでも、相手の速さがあまりにも早く、防御をするだけで精一杯だった。

ウィルの魔眼は、視認した事象を改変し自分の有利な状況を作り出す。

魔眼の認識した事象が正確でも、行われた事象をどのように改変するのかは、ウィル自身で決める必要がある。


その思考が間に合わなければ、そもそも事象を改変する事などできない。

せいぜい反射に任せた防御を間に合わせる事が精いっぱいと言った状況だった。


「・・・余計なっ!」


ウィルは怒りに任せて、力を溜める。

防御に回れば、後手になり不利だ。

しかし、当たろうが当たるまいが、事象を改変できるのであれば攻めればいいだけ。


「お世話だっ!!」


相手は、間合いよりも遠くにいて、その口ぶりからも油断している事がわかる。

思い切り振られた上段からの一撃は、当然空を斬ったように見える。


ザシュッ!!


その音は、ウィルの右後方から聞こえた。


「・・・なん・・・で・・・。」


ウィルが振り返ると、そこには、黒いローブごと袈裟斬りにされ、胴が斜めに切り裂かれ、崩れ落ちるニールの姿があった。


「・・・これはっ!」

「やはりな・・・精神系か、認識を奪ってしまえばどうという事はない。」


ウィルが声の方向に向き直ると、青白い目の男は、不敵に笑いながら言った。


「しかし、有用ではある、駒とするのも一興か・・・。」

「貴様っ!」


ウィルが身構えた瞬間、その目に宿っていた碧い光が消える。

そして、そのまま生気の消えた身体は、膝から崩れ落ちた。


「ウィル!」


その様子を見たジェニスが、呼びかける。

しかし、ウィルはピクリとも身体を動かさず、地面に突っ伏したままだ。


「・・・女もいたか・・・ふむ。」


そう言って、青白い目の男は、黒いローブのフードで顔を隠したジェニスに、ゆっくりと歩みを進める。


「・・・くっ。」


ジェニスは、身構えると同時に魔眼を発動した。

彼女の魔眼は、薄い紫色に輝き始めると同時に黒い靄を生み出す。


「・・・ほぅ・・・どうやらこちらも、便利そうだ。」


その男の放つ底知れぬ圧力が、彼女の細い戦意を打ち砕いていく。

最強と信じたウィルは倒れ、ニールはウィルによって斬られた。


ここまで、なるべく隠していた移動系としても使える魔法だが、ここで使わなければ生き残れない。

そう確信し、彼女は魔法を発動する。


「まだ魔法が自由に使えると思うとはな・・・。」


移動したはずの彼女の目の前には、青白い光をその目に宿した男が立っていた。

その男は、乱暴に彼女のフードを掴むと隠していた顔を確認するように引き上げる。

癖の少ないブロンドの髪と、その容姿があらわになった。


「・・・くっ。」

「・・・成程・・・阿保でも慰み者程度にはなるだろう。」


言いながら、青白い目の男が嗤う。

その醜悪な表情からは、チェシーを救い出した男の顔とは思えなかった。


「・・・今は眠れ。」


そして、彼女も目から光を失い膝をついた。

光のない目は、ただ正面を見つめ、身体を震わせる事もなく、その場に座り込む。


自分に抵抗する魔法使いがいなくなると、青白い目の男は、その背後に控えていたエルフの部隊に向き直る。


「さぁ・・・お前たちの大嫌いな魔族が来たぞっ!」


その宣言は、戦場となるその場所に、静かに木霊した。





「・・・ちっ。」


真っ白い世界には、それまで数体程度のゴブリンしか現れなかった。

ここまで何とか倒し、何故か発生した魔素を吸収する事で何とか、普通の魔法剣を作る事ができる。

しかし、竜種を相手にした時のように、大量の魔力を固める事は出来なかった。


前世の姿、そのままである事も災いしていて、魔力で身体の強化をする事は怠れないし、そもそも身体機能が低下しすぎていて、強化もそこまで強くできない。

要求されたのは、無駄のない動きと正確な判断だった。


しかし、急激に魔素が濃くなった場所に今回現れたのは、ゴブリンではない。

赤黒い体表、大柄な体躯、その周りには、大量のゴブリンの集団。


このオーガの特徴など一目見れば思い出す。

片手には、慣れた手つきでボロボロの大剣を持ち、ゴブリン達を統率している。


ココット村で見た、オーガそのものだった。

こちらをじっと見て、一番奥からなにやら支持を出すようにうめき声をあげている。


しかし、今の俺には、頼れる味方も満足に動く身体すらない。

あるのは、ただ一振り分の魔法剣と魔眼だけだった。


・・・生き残る。

まだ・・・俺は恩すら返せていない・・・。


この世界に来て、まず爺さんに助けられた。

その真意など、あまり考えなかった。


そして、冒険者として仲間達と持ちつ持たれつ、生活した。


魔族として捕まると、変な女に助けられた。

おそらく、仲間にも助けられたのだろう。


変な女は、俺を人形にしたが・・・それは、彼女の目標を叶える為だった。

その女は、厄介なことに俺に装備を与えて、協力させる。


最初は、わけがわからなかった。

特別と言われて、何故だか嬉しかったのかもしれない。


魔族と多数に認識されてからは、逆に開き直れた。

魔力のある俺が・・・普通の人間には、できない事をできてしまう俺が、今の俺なのだと。


それでも、状況は最悪だった。

おかげで冒険者仲間は、この手で葬った。


いや、自分でやったのだ。

他人のせいではない。


神と呼ばれた大蛇は、あの変な女と並び立てと言ってきた。

今思えば、それはこの状況を見ていたからなのだろうか。


大した覚悟もなく。

ただ、逃げないと決めただけ。


自分が生き残る事が最優先で。

他人の事など考えていない。


爺さんに片腕を縛られ・・・改めて周りに人がいる事が、重要だと思えたのも事実。


しかし、そう俺を諭してきたのは、あの女のような気もする。

それでも俺の考えたことは、自分の事ばかりなのかもしれない。


ただの人間なんだと。

魔族などと言われたくないと。


それでも、あの女は、俺を特別と言い。

絶対に否定されると思った事に、賛同した。


俺が裏切ったはずの、かつての仲間は、この真っ白い世界で俺に託してくれた。

大丈夫だと。


微力だと言っていたが、俺の魔眼は何故か、前世の身体となった今の俺に宿った。

その力を使い、今もまだ生きている。


身体が自由でなければ、生きているとは言えないか・・・。

だが、この俺の中だという真っ白い世界でも意識を保っている。


それは、事実だ。

今ここで終わってしまえば、俺に力を貸した人たちを見捨てるような気がした。


それだけは、許されない事だと、俺の心は確信していた。


「・・・俺に使える魔法は・・・これだけだ。」


覚悟は、決まった。

俺に残っているのは、少しの魔力と魔眼だけ。


ならば、大量の敵を前にしたところで。

例え、俺が強かろうが、その物量の前にはなすすべなどない事が分かっていたところで。


俺がやる事など決まっている。


その覚悟は、あのコロシアムの時と同じなのだろうか。


しかし、俺の心は、明確に違うモノだと叫んでいた。

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