56.託された
ロイの言葉が終わると、俺達は強い光に包まれた。
突然、目の前が真っ白になり反射的に目を瞑った。
もう一度、目を空けると、そこに3人の姿はなく、真っ白だった辺りの光景は、黄色に染まっていた。
・・・魔眼?
しかし、昔の身体となっている今、自分の身体に魔力など感じない。
それでも俺の目の前の世界は、魔眼を使っているときのように、黄色く見えている。
「ロイ! ガッツ! クリストフ!」
3人の名前を呼んだが、それに応える者はいなかった。
ただ、広く、真っ白な空間がそこにあった。
少し経つと、正面の少し離れた場所の魔素がだんだんと濃くなっていくのが分かった。
その場所を見ていると、1匹のゴブリンが現れた。
以前に、この場所で魔物を見たときは、何もせずただじっと俺を見ているだけだったが、今回は違う。
辺りを見回し、なにやらギャーギャー騒いでいる。
・・・この身体で、戦える気はしないな・・・。
日本にいた頃の姿では、まともに戦えるかもわからない。
しかし、ここには遮蔽物もなく、俺とゴブリンがいるだけだ。
あいつが俺を見つけるまで、そう時間は掛からなかった。
「・・・ちっ。」
ゴブリンは、俺に向かって走りだした。
身体に魔力は感じないものの、魔眼はしっかりと機能しているようで、ゴブリンの動き、一つ一つがゆっくりと見える。
・・・武器になりそうな物・・・ないよな。
このままでは、一方的に襲われて死ぬ。
そう思った時、気が付いた。
・・・いや・・・魔素がある。
俺は、ゴブリンのいる方向に向かって駆けだした。
華奢で、運動なんて殆どしていなかった身体は、やたらと重い。
上手く走れず、ゆっくり動いて見えるゴブリンの方が、俺に接近する方が早かった。
ギィキャー!!!
少し高い声を上げながら、ゴブリンが飛び掛かって来た。
・・・捕まっても、死ぬっ!
空中でゴブリンが突き出して来た腕を掴み、そのまま腰を回して上半身を半回転させる。
今出せる精いっぱいの力で、後方に向かって投げた。
・・・おっもっ!!
立ち止まってしまった俺は、すでに呼吸が荒く、肩で息をしている。
ゴブリンは、少しだけ離れたものの、まだまだ元気なようで、すぐに立ち上がると、飛び跳ねながら俺を威嚇していた。
・・・まぁ・・・そうなるよな。
俺は、振り返り、ゴブリンに背を向けると魔素の濃くなった場所へ、また走り出した。
後ろから、ドッシドッシとゴブリンが駆け寄ってくる音がする。
魔素が濃い場所には、何とか俺の方が早くたどり着き、そのまま魔素を吸収した。
・・・少ないっ!
タンッ!と言う音が後方からして、急いで振り返る。
ゴブリンはすでに、目の前に迫っており、空中にいた。
・・・間に合えっ!!
吸収した魔素を魔力に変え、剣を作る。
右手に持ったそれは、あまりにも小さな魔力で作った為か、頼りなく、長さもいいとこ包丁くらいだった。
ドスッ!
空中にいたゴブリンの首へ、何とか短すぎる剣を突き立てる。
短いとはいえ、魔法剣は、ゴブリンの頸椎を破壊し、その命を絶つには十分だった。
絶命したゴブリンが、白い床に転がる。
辺りをどす黒い血で汚し、微量ながら魔素をまき散らした。
「ハァ・・ハァ・・ハァ・・・なんとかなったか。」
ゴブリンの死体から出た魔素も吸収しておいた。
・・・何が起こるかわからん。
身体中から汗が吹き出し、運動不足の身体には堪える。
・・・剣よりも、肉体の強化だな。
微量ではあるが、今吸収したばかりの魔力を身体の強化に使った。
その時、また前方の方で魔力の濃さを感じる。
先程よりも少し濃いその場所には、今度は、4匹のゴブリンがいた。
・・・休みはなしだな。
俺はまた、疲れ切っている身体に鞭を打ち、再度魔素の濃い場所に走り出した。
身体を取り戻す・・・今は、それ以外考えていなかった。
「アーネット・・・ありがとう。 もう大丈夫よ。」
ベットの上で体を起こし、心配そうに見るアーネットにチェシーはそう告げる。
「チェシー! よかった・・・。」
不意を突かれて、抱き疲れてしまい、チェシーは、アーネットの背中をトントンと優しくさすった。
「本当に私は大丈夫だから・・・。」
「・・・でも! ジェフはいないし!・・・ベールも消えちゃうしっ!」
「ベールなら・・・私の中で話したわ。」
「・・・え?」
驚いたのか、アーネットは、チェシーの身体から少し離れ、顔を覗き込んだ。
チェシーの目は、紅く光を放っていた。
まるであの時に見た、ベールのように。
「・・・チェシー・・・それって・・・。」
「ええ・・・ベールの魔眼ね・・・。」
チェシーは少し俯きながら言った。
「私は、助けられてばかりね・・・でも・・・託された。」
言い終わると、更に一層、チェシーの目が輝く、そして目の前のアーネットをしっかりと見ていた。
その目は、自身の目的もやるべきことも解っていると、訴えているようだった。
「・・・まったく、手間のかかる子よね。」
チェシーは、そう言って小さく笑った。
「あの子は・・・私にとって特別・・・。」
笑いながら、チェシーは続ける。
「だから・・・迎えに行かなきゃ。」
「・・・迎えにって・・・ジェフを?」
「ええ・・・協力してくれる?」
そう言われて、アーネットは、少し戸惑っていた。
「でも・・・チェシーを斬ったのは、ジェフなんじゃないの?」
「・・・そうね。」
「じゃぁ・・・ジェフを迎えに行くって・・・。」
「・・・大丈夫・・・あの子は、絶対に戻ってくる。」
その言葉に、更にアーネットは解らなくなる。
「・・・戻ってくるって・・・チェシーをそうしたのは、あいつなんでしょ?」
「・・・そうね。」
「ならっ!・・・裏切ったって事じゃない!」
「それは少し違うわ・・・あの子は、また・・・捕まっただけ。」
チェシーの答えに、アーネットはさらなる疑問を投げかける。
「捕まった?・・・誰に?」
「・・・剣聖、ジェフ・ジーク。」
チェシーの落ち着いた声は、狭い宿の部屋に響き、エルフの女性をさらに困惑させた。




