5.ココット村
ココット村は、クゥエラ山脈というこの大陸を横断する山脈の中央付近、ココ山の麓の森から少し離れた場所にありる。
大きな森の中にぽかりと、そこだけ魔素が薄く、ある程度の広さもあり、少数であれば人間が住むことができる。
山から流れる川が水源となっていて、付近は少し開けた草原となっている。
川からの恩恵を十分に受けた畑、小さい牧場があり主食となる小麦と少量の肉が生産されている。
その村では30人に満たない村人が生活しており、ほとんどが自給自足に近い暮らしをしている。
こういった小さな規模の村は、ほとんどが自給自足の生活なのだが、冒険者ギルドからかならず1建は、酒場兼ギルド支部として、最低でも一人は冒険者ギルドに所属する職員が派遣されている。
冒険者という職の性質上、一つの地域、国に所属し続けることはあまりなく、高名な冒険者ともなるとギルドからの要請で年中大陸中を駆け回っている。
ほとんどの場合で根無し草となる冒険者の支援を行うため、小さな村でも適切に補給などを行えるよう、冒険者ギルドが人員と金を出し、小さな支部を運営している。
ミフィーは、この村で生まれた娘だ。年は16歳、赤茶色の長い髪を後ろで一つに縛っている。
前にこの村を訪れた、冒険者が父親だと母親に聞いる。
当時、村の周辺の魔素が妙に濃くなっていた時期があり、魔物が村に出す被害が大きくなってしまった為、慌てた村長が冒険者ギルドに依頼したところ、何組かの冒険者のチームが派遣され、魔物の討伐が行われた。
彼女の母親と父親はその時に出会ったらしい。
魔物の大部分が討伐されると、濃くなっていた魔素も落ち着き、ゆったりとした村の生活が戻ると父親はまた、別の地域に旅立ってしまったのだ。
そういった縁からか、ミフィーは冒険者ギルドが経営している酒場で、店主兼ギルド職員として働いている。
村でとれた食料を買い、冒険者ギルド本部からたまに輸送されてくる酒類を売って支部を維持する。
彼女を気に入り、やたらと酒を買ってくれる冒険者も何人かいて、クリストフはその内の一人であった。
普段なら、田舎なので水もよく標高が高い位置にある為、景色もいい。
少なくとも、俺が前回訪れたときは、ゆったりとした雰囲気の良い村だった。
俺達4人がココット村にたどり着いた頃には、そんな以前の面影は見られなかった。
家屋は燃えつき、崩れ、柱が炭となり、畑は無残に荒らされ、牧場の家畜は殺され、何か大きな生物に食いちぎったような跡が残り、ほとんどが内蔵の多い腹のあたりを食べられて、そのまま放置されたようだ。
村人の物と思われる、腕や足など、一部だけが残された遺体などが散乱しており、中には冒険者の物と思われる装備と一緒になった遺体も見つかった。
「魔物は、どこかに行ってしまったようだな・・・」
ロイは、右手を固く握ったまま立ち尽くしていた。
「一部でも弔ってやるべきであるな。」
ガッツは、こういう時も常識的な事を言う。
その提案も最もなので4人で見つかった遺体は土に埋め、簡単に弔った。
クリストフは、ミフィーと思われる遺体が見当たらなかったので、少し安堵したようなそれでも悔しいような顔をしていた。
「そんなに気に入っていたのか・・・」
呆れてクリストフに言ってしまった。
「なんだよ!悪いのかよ!・・・死体がなくて安心してるよ!」
「だが・・・それは・・・」
続きを言いかけて、やめた。
魔物に襲われて、遺体が見つからないということは、たいていの場合胃袋の中におさまっているか、その予備として連れ去られてしまったかの2択である。
攫われた場合、大抵女性か子供の事が多く、魔物たちも生かしたまま食料として持ち去るには、その方が楽である事を学習していることもある。
「生きてるかもしれないだろ!・・・行こうぜ!」
いつになくクリストフが必死だった。
「・・・だめだ・・・全員死ぬぞ」
ロイは、俺達チームのまとめ役でもあり、こういったことにも冷静な事が多い。
「これから検索するにしても、だいたいの方角すらわからん・・・」
魔物も、巣を作りそこに食料となるものを集める習性があるため、こういった場合探すなら魔物が引き上げていった方角がわかると、巣を見つけやすくなる。
「食料の問題もまだ解決していないであるな。」
「それなら、酒場の倉庫がなんとか焼けずに残っていたぞ。」
俺は親指で、後ろを差し酒場の倉庫の方を示すが、クリストフの提案に乗るわけにはいかない。ここで生き残るためには、冷静に状況を判断する事も大切だ。
「食料があったところでな・・・」
俺が、クリストフにあきらめるように諭す。
「食料があるなら、検索できるだろ!・・・俺達なら見つけられる!」
「クリストフ、どうしたんだ・・・らしくないぞ」
そう、クリストフらしくない。
彼はこれまで、一晩だけの関係を好む方だった。
「手を出してもその日限り、なにせ俺達根無し草・・・だろ?」
彼が日頃言っていたことだ。
俺はそれを繰り返した。
すると、クリストフはまだ食い下がろうとした。
「ロイ!・・・頼む・・・」
「・・・だが・・・この規模の村が襲われ、全滅だ。俺達だけでは対処しきれない数がいるってことだ。」
ロイの意見は正しい。
自分達がまず生き残れなければ、冒険者なんてやっている意味がない。
グギャーーー!!!
森の方向から魔物の雄たけびがした。近い。
4人とも音のした方向を見ると、声の主はすぐに姿を現した。
赤い体表、大きい体躯、人型で鋭い犬歯がむき出しになっている。
太い腕には、以前に冒険者から奪った物だろうか。使い古され刃こぼれし放題の大剣をつかんでいた。
その周りには、多数のゴブリンがおり、見ずらいが奥に村人らしきものを担いだままの個体もいた。
「・・・っち・・・逃げよう!」
俺はロイにそう伝えた。しかしその瞬間に、クリストフは持っていた弓で先制攻撃してしまっていた。
相当頭に血が上っているらしい。
ゴブリンの集団のうち1体の頭に矢が命中し、絶命するとオーガは俺達の方を指さしなにやら支持をだしているようだ。
ロイが俺の方をつかんで来たので、そちらを見るとすっかり覚悟を決めたような顔になっていた。
「こうなったら、仕方ないな。」
ロイが少し笑っていた。
いつもは冷静なロイだが、強敵を見つけるとテンションが上がってしまうという悪癖がある。
「はぁ・・・」
半ば予想していた事もあり、俺は呆れてしまう。
「ロイは、強敵が好きなのである。」
ガッツも笑っているが、目は敵を捕らえたままで真剣だ。
よっこらせといいそうな大斧を担ぎなおし、ゆっくりと魔物に向かって歩き出した。
「よっしゃー!!さっすがロイだぜ!わかってるぅ!」
クリストフはなんだか変なテンションになっている。
このお調子者が!
「ジェフ!やるぞ!」
ロイから一括される。
「しかたねぇか・・・」
「見えている村人だけでも、助けるのである。」
全員が自分の武器を持ち、戦闘態勢にはいる。