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無刀の剣聖  作者: ところてん
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47.騎士崩れの兵士

ズルズルと音を立てながら、俺は倒した竜種の死骸の尾を担ぎ、見えている町の方向へ何とか歩いていた。

魔族として追われるようになってから、町に近づくときは、フードで顔を隠す癖がついていたが、暑さで脱いでいた。


ポタポタと流れた汗が、地面につきそのまましみこんでいく。

少し吹いた風が、冷たく心地いい。


前を向くと、町を囲む壁がそびえたっていた。

外形が見えるが、まだ距離はある。

見えている距離が、重労働がまだ続くのだと俺に伝えていた。


・・・これ、思ったより辛い。


魔力を使って力を強化しているが、倒した竜種の重さは見た目以上にあるようで、思ったより重労働だった。

また下を向いて、竜種の死骸を引っ張りながら歩く。


・・・壁は見えてもまだまだ遠いってね・・・。


そんなことを考えながら、歩いているとガラガラと音を立てて何かが、俺の方に近づいてきた。

顔を上げると、どうやら町にいる兵士が荷台を持ってこっちに来たらしい。


・・・迎えに来たのか?・・・チェシーが呼んだとも思えないが。


一緒に来ていた3人は、ベールを除いて特に重い物を持っていたわけでは無く、スタスタと歩いて先にいってしまって、すでにここに居ない。

アーネットがはしゃいでいたから、買い取りの為に呼んだのだろうか。


「若いの・・・ここに来るとはな・・・」


兵士達が、俺の前に止まると、その内一人が声を掛けて来た。

壮年と言った風貌だが、身体には厚みがあり、よく鍛えられた兵士であることがわかる男がそこにいた。


「・・・すまないが、どこかで会ったか?」

「はっはっはっ、まぁ装備も変わっているしな!以前にあっているよ、魔物の集団と戦っている君に加勢した者だよ。」


・・・加勢?。


「ああ!あの時のか・・そういえば帝国領だったな。」


言われて思い出した、確かに思いっきり魔法剣で戦っていたところに、加勢に来てくれた兵士だ。


・・・てことは・・・まずいな。


俺は少し身構えた。


「まぁ・・・運が悪かったな。」

「・・・まぁ、すぐに捕まえようとしない辺り、まだましだな。」


向こうは、俺を魔族だと思っている。

つまりはそういう事だ。


・・・ここで戦闘になると、厄介なんだがな・・・。


「魔族からとなると・・・買い取りは出来んぞ。」

「・・・そうかよっ!」


俺は、肩に担いでいた竜種の尾を放り投げる。

ドスン!と音を立てて硬い尾が地面を叩いた。


その様子を見ながら、目の前の男が何かを思いついたような顔をして、なにやらにやけ始めた。


「・・・しかしなぁ・・・帝国も人材不足でな。」

「・・・はぁ?」

「なにせ、魔族を助けた事を認める男を処刑しないほどだ・・・。」


目の前の男は、大げさに困ったとジェスチャーをする。

すぐに近くの兵士を使って、捕らえようとしない辺りが不可解だ。


「竜種を狩れる冒険者を、そのまま追い返したとなれば、団長にどやされる・・・」


一瞬、目の前の壮年の男が何を言っているのか理解できなかった。


「お前は、普通の冒険者ってことにしよう!」

「はぁ?・・・おっさんまじで死ぬぞ?」


・・・このおっさん、頭おかしいのか?


怪訝な表情を浮かべる俺を見て、壮年の兵士は笑い声をあげた。


「はっはっはっ、俺はガレイだ、ガレイ・ディー、お前さんは?」

「・・・ジェフ。」

「ジェフか!・・よし、若いの!それは買い取ってやるから修練場に付き合え!」


良い物を拾った顔で、ガレイと名乗ったおっさんが俺を見て来た。


「・・・意味が解らん!」

「まぁ、ここで俺に意見するやつなんか、そういないさ!」


俺の問に、笑顔を向けてくるガレイに困惑しながら考えていた。


・・・こんな感じのおっさん、前世でもよくいたなぁ・・・。


お偉いさんが、白と言えば黒でも白になる、そんな事は企業で働いていれば、そこそこ目にする。


「・・・周りの若いのは、怯えてるようだが?」


俺は、ガレイの近くにいた青年の兵士が引きつった顔で見ているのを指摘した。


「はっはっはっ・・まぁ、戸惑ってるだけだろう、お前さんの強さが分かれば、納得する!」

「・・・だから修練場か。」

「そういうことだ!・・・よし、いくぞ!」


ガレイは、言い終わると、若い兵士達に指示を出し、竜種の死骸を荷台に積んだ。


・・・とりあえず、チェシーには連絡しとくか。


竜種を運んでいく兵士の後ろをついていきながら、胸にさがった金属の輪を掴んだ。





ザッザッザッザッザッ!


音を立てて、装備を着た兵士達が歩いていく。

エルフの特徴的な耳と、動きやすい軽装が目立つが、中にはフルプレートを着たドワーフや人間もいる。


共和国の騎士団、その色は黄緑色で統一されたインナーと、軽装の兵士は同じ色の外套。

そして、大きな弓を持っている。

中には、弦の張られていない大弓を持った一団もおり、これが共和国の現在の主兵力と言っても過言はないだろう。


大集団での行動は、魔法の使えるエルフと言えど、そこまで早くはない。

兵糧などの物資は、魔法である程度纏めて移動させているが、大量の人間を魔法で移動させるのは難しい。

運ぶ量が増えれば、それだけ使用する魔力も多くなることが原因となる。


エルフは魔力量が多い為、やろうと思えばできるのだが、魔力を使い切って緊急時に移動できないというのは、情けない話だ。

こういった行軍の際には、特殊な事情でもなければ徒歩と馬を使う。


先頭には、馬に乗り話しながら進む2人がいた。

その後ろには、同様に馬に乗った騎馬隊が続いている。


「ウィル殿・・・魔法使いの力、存分に発揮していただきたい。」

「ええ・・ギウル殿、受け入れていただいた恩もあります、我々も大いに働かせていただきましょう。」


ギウルと呼ばれた、エルフはその返答に満足といった顔をした。


「ヒャハハッ!・・・うちの剣聖様は、カッコいいね!」

「そうねー、実際いい男だしっ!」


そんな軽口を叩く二人も、馬に乗り、ウィルの後に続いている。


「お前達、あまりはしゃぐなよ?」

「相手は、魔力もないただの人間でしょ?」

「よゆーだっての。」

「・・・そうじゃない・・・我々は、エルフに認められ、正式にこの派兵に参加しているんだ。」


いいながら、いまだ顔をフードで隠している二人を睨みつけた。


「今回は、ただ襲撃するわけじゃない。」

「はいはい、わかってるよー。」

「はぁーい。」


ウィルの厳しい言葉にも2人は、軽い感じで返した。

その声から反省の色は見えない。


「正規軍と帯同しているんだ、少しはしゃんとしろっ!」


ウィルは、まだ空気の緩い2人に一喝した。

その表情までは、伺えないが2人のボディーアクションを見る限り、反省などしていないだろう。

それを見て、ウィルは呆れつつも正面に向き直った。


その目は、蒼く怪しく光っている。

この先で起こる惨劇を、見通したかのような澄んだ色だった。

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