45.エルフの国と魔法使い
「おぉ・・・共和国からの支援か・・・ありがたい。」
「残念ながら、正式な支援ではないからな、物資が少ないが。」
共和国の騎士団から離反する形となった人間の兵士達は、少ない物資を持ち、王国領へと到着していた。
「ここに来るまでも、いくつか村を回ったが、かなり酷いな。」
「ああ・・・魔族の奴らは、人間を根絶やしにする気らしい。」
王国の首都は、完全に崩壊し、その周辺の大きな街から次々と落とされてしまった。
小さな村でも容赦なく、魔族に襲われ、殆どがやられてしまっている。
「生き残りもいるが・・・魔物が多い地域が多すぎる。」
「・・・少しでも回って助けよう。」
「・・・協力感謝する。」
王国の兵士だった者が、生き残りをある程度纏めて、王国領内、東側の集まり守っている。
ちょうど、自由区との境目辺りで、ロゥトの町が近く、冒険者ギルド職員であるミフィーも、その支援に参加していた。
時折ロゥトの町からは、冒険者達を集め、王国首都ベイーズの街へ向けて、状況の調査を試みている。
しかし、首都の周辺の魔素が濃い事が原因となり、魔物の襲撃に会ってしまい、容量を得ていなかった。
共和国から来た人間の兵士達は、持って来た物資を王国兵士に引き渡すと、そのまま魔物の討伐の為、王国領内を回る。
装備も一通りそろっている者が多かったのもあり、2次被害を抑える為、魔物の討伐を優先していく。
「・・・ロイさん達も、無事だといいけど。」
ミフィーは、忙しく働きつつも、共和国から来た兵士達に、あちらでも魔族が現れたという噂を聞き、襲撃前に共和国へと旅立った、冒険者達を思い出していた。
「無能な人間達は!!同胞を助けるなどと言い!我が国の資産を強奪した!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
共和国内、エルフばかりの集まる広場で、その演説は行われていた。
「我が国民を守る兵士が!!その任務を放棄した!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
その議員が声を張り上げ、主張する度、周りのエルフは同意するように、手を挙げて答える。
「ならば!!我々も!!行動を起こさねばならない!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「怠惰にも、魔力を持つ者を魔族と呼び!弱い事を主張し続ける人間達に鉄槌を!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「共和国は!!ここにエルフの国を取り戻す事を宣言する!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
広場に集まったエルフ達は、歓喜の雄たけびを上げた。
これまで共に過ごして来た他種族を排除し、再度自分達の種族による国を取り戻す。
彼らにとっては、その道がより良い道に見えるのだろう。
「そして!!私たちは、魔力を持つ者と手を結ぶこととした!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
そこに、一人の人間が姿を現した。
赤味の強い茶色い短髪、同じ色をした目。
エルフの議員に招かれて、そこに立った男は、手を上げエルフの民衆に応える。
「私は、人間だ!!しかし!!魔力を持つ!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「かつて我々は、魔法使いと呼ばれた!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「しかし、その恩恵を受けた魔力のない人間は!我々を魔族と蔑んだ!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「だが、どうだろう!・・・魔力を持つ、諸君から見れば、言い訳をして怠惰に過ごす人間に意味があるだろうか!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「彼らには、示さなければならない!!人間も魔力を持つのだと!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「そして、その怠惰な精神を正すべきなのだと!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「ここに!!魔力を持つ者での同盟は、真になった!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
演説が終わると、ウィルは、エルフの議員に連れだって壇上から去る。
それに入れ替わり、エルフの兵士だろうか、軽装な装備を着て、弦のない弓を持った一人が登壇する。
「まずは!!怠惰な魔力のない人間達を!粛清しなければならない!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「我が国から、物資を持ち去り!離反した者達に!鉄槌を下す必要がある!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「武器を取れ!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
「行くぞ!!!」
「オオォォォォオオオオオ!!!」
ひと際大きい歓声と共に、エルフの兵士が壇上から降りると、先頭を切って王国へ向かった。
「怠惰な人間ね・・・。」
動かない右腕を持ちつつ、俺はチェシーから寝ていた間にあった事を聞いていた。
今は、すでに宿から移動して、クェラ山脈に程近い森の中で、野営をしている。
向こうの大陸の屋敷ではなく、魔法でここに来たので、気になったこともあり、いろいろと聞いていた。
「・・・そう・・・エルフ達は、人間に相当飽きていたのね。」
「まぁ・・・人間でも魔力を持った者が生まれたら、魔族だからな。」
・・・しかし、あいつらがエルフにつくのか・・更に厄介になった気がするが・・・。
「で・・・これからどうするんだ?」
「んー・・・考え中ね。」
チェシーも頬に手を当て、どうしたものかと思っているらしい。
「向こうに戻らないのか?」
「・・・それはやめた方がいいわね。」
「彼らも、私が育てた精鋭です・・・屋敷にもそれなりの準備をしていると見た方がいいでしょう。」
変わってベールが俺の問に答えた。
「準備?」
「ええ・・・例えば、お嬢様が戻った瞬間に死ぬ結界魔法などですかね。」
「・・・厄介な。」
「向こうの国も、一枚岩と言うわけでは、無いわ・・・彼らに協力している者もいるでしょうし。」
「・・・なるほど・・・戻るのも無理だし、補給もままならないと・・・。」
「状況は最悪ね・・・」
「・・・帝国に行けば?」
アーネットが口をはさんできた。
「あそこなら、まだ顔も割れてないでしょうし、考えながら普通に過ごすには問題ないんじゃない?」
「・・・アーネットは、それでいいかもしれないが・・・俺はな。」
「どうせ私の探索の魔法頼みで、ジェフを探してたんだし、大丈夫でしょっ。」
「このまま野営を続けるよりはましね・・・まだ私も全快じゃないし・・・。」
そういって、チェシーは立ち上がった。
「・・・裏切ってまでエルフの味方をした、彼らのその後を見守りましょうか。」
「・・・手の出しようがないだけじゃね?」
「うるわいわね・・・殴られたいの?」
「やめろ・・今やられると洒落にならん・・・。」
笑顔で拳を向けてくる彼女は、少しだけ笑ったように見えた。
「しかし・・・アーネットはいつまで一緒にいるんだ?」
「え?・・・。」
不思議そうな顔をして、アーネットがこちらを向いた。
「武器も調達したようだし・・一緒にいてもいい事ないだろ。」
「あーそれね・・・チェシーとも仲良くなれたし?・・・冒険者も、もういいかなって。」
その答えを聞いて、俺は他の2人を見てしまった。
「私としても、恩人だし無下にする気はないわよ?」
「ジェフ殿も、アーネット殿がいなければ、死んでいました。」
「・・・それもそうか。」
俺がつぶやくと、アーネットが目を輝かせて、こっちを見て来た。
「そうだ!ジェフがこの間みたいに、竜種を狩って、私が売りに行けばいいのよ!!」
「・・・はぁ?」
「そうすればお金も入るし!お酒も飲み放題ね!!」
「・・・暇な時だけな。」
命を助けられたこともあり、俺はその提案を拒否できなかった。
このエルフは、俺達が何者かなんてもう、気にしていないのだろうか。
「・・・エルフも魔族には拘っているんじゃないのか?」
「そんなに拘ってたら、君達を裏切った人も、共和国に受け入れられていないんじゃない?」
「・・・それもそうか。」
アーネットも立ち上がり、宣言した。
「さぁ!お酒飲みに行くわよ!!」
見た目の割に、たくましい考え方をしたエルフを見て、チェシーもベールも少し笑っていた。




