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無刀の剣聖  作者: ところてん
44/72

44.封印

「起きろ!小僧!」


耳元に懐かしい声が響き、身体を揺すられた。

大きく斬られた割には、身体に痛みもなかった。


「・・・起きんかっ!!」


ベシッっと音がし、頭が痛くなった。

衝撃を受けて俺は目を覚ました。


ゆっくりと瞼を開く。

俺のすぐそばには、爺さんがいた。


驚いて辺りを見回した。

ただ、真っ白な広大な空間がそこにはあった。


空も地面も白く、平坦で色は、爺さん以外に色のついたモノは無かった。


「・・・爺さんか?・・・ここは?」

「小僧の中じゃな。」

「・・・俺の?」

「お主のこれまで獲得してきた世界であり、失ってきた世界でもある。」


爺さんは、そう言うと片手をあげ、俺の後ろを指さした。


そこには、一人の男が立っていた。


黒い髪に、分厚い眼鏡。

スーツを着ていて、ネクタイは曲がっている。


「・・・俺?」


そう呟くと、スーツの男はこちらを睨んできた。

だが、何も言わなかった。


すると、昔の俺の前に子供の頃にあったおじさんがいた。

だが、すぐにいなくなってしまう。


今度は、隣にいたはずの爺さんが立っていた。


「・・・。」


爺さんも、今度は何もしゃべらなかった。


「・・・なんなんだよ・・・これ・・・」


一匹の魔物が爺さんの手前に現れた。

俺は少し身構えたが、そこにいるだけで、こちらを襲う気は無いようだった。


すぐに、別の魔物が姿を現した。

次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も、次も。


いつの間にか、夥しい数の魔物が、俺を囲んでいた。

どれもそこにいるだけだった。


そして、爺さんの声が聞こえた。


「ずいぶん、魔物を殺して来たの・・・。」

「・・・殺せなけらば、こっちが死ぬ。」

「こやつらも、そうだったかね?」


大量の魔物を従えるように、3人の男が姿を現した。

ロイ、ガッツ、クリストフ・・・かつて冒険者として旅をした仲間。


「・・・お前ら・・・」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」


誰も声を出さずに、そこにただ立っていた。

笑顔を向けるでもなく、無表情で突っ立っている。


俺は、怖くなって一歩後ろに下がった。


ガシッ!と音を立てて、右肩を掴まれた。

分厚い手があり、その先には、ベールの顔があった。


「・・・。」


彼も何も言わなかった。

ベールの方向を向くと、彼の隣にはチェシーが立っていた。


そして、その後ろにアーネットがいた。


「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」


3人も何も言わなかった。


「人は、一人では生きていけない・・・」


また、後ろから爺さんの声がした。


「・・・だが小僧・・・お前は、そうでないと思っているようだ。」


近くにいた、ベール、チェシー、アーネットが消えてしまった。


「このままでは、助かったとしても、感謝も感じぬだろう・・・」


ドゴン!!!!


大きな音がして、魔物達の最前列に、一匹の巨大な竜種が現れた。


ガァゴォォオオオオ!!!!


そいつだけは、動きこちらを見て、咆哮を上げる。

びりびりと、空気が振動するのを感じる。


竜種が身構え、地面を揺らしながら突進してきた。

俺も避けようと、足を動かそうとした。


いつの間にか、かつての仲間達が俺の身体を抑え込んでいた。

ガッツが背中から両脇を抑え、クリストフとロイが、足をしっかりと抱えていた。


「糞ッ!!!離れろっ!!」


竜種は勢いをつけて走ってくる。

依然、3人は俺の身体から離れない。


竜種が目の前まで迫り、俺は咄嗟に右手を顔の前に出した。


グシャッァアァアア!!


容赦なく、襲い掛かった竜種は、俺の右腕を食いちぎった。


「アアアアァァァァァァァアアアアアア!!」


痛みで叫び声をあげてしまった。

いつの間にか3人も竜種も消えていて、俺は肘から先がなくなった腕を抱えて、うずくまる。


「・・・利き腕を封じる・・・小僧も少しは、周りを見る事だ。」


そんな、爺さんの声が俺の頭の上に響いた。





「アアァアア!!!」


叫びながら起き上がると、そこはベットの上だった。

呼吸は荒く、視界が霞む。


斬られた胴に痛みが走り、また叫びそうになった。


バタンッ!と勢いよく、部屋のドアが開いた。


「起きたの?!」


下を向いていた頭を上げると、そこにはチェシーが立っていた。

その表情は、少し心配しているようだ。


・・・こんな顔は、初めて見るな・・・。


「・・・悪い、変な夢を見た。」


不意に右手を上げようとした。

しかし、動くはずの自分の腕から反応が無い。


慌てて左手で、自分の右手をつかむ。

温度はあるが、重いゴムのような感覚で、自分のモノではないようだった。

力が入らず、少し揺するとぐにゃぐや曲がる肘、右手は開くことも閉じる事も出来なかった。


その様子を見て、近寄って来たチェシーが、俺の右腕をつかんだ。

見ているので、触られた事がわかるが、皮膚からは触られたような感覚が無かった。


「・・・動かないの?」

「そのようだ・・・。」


辺りをよく見渡すと、いつもの部屋ではなく、どこかの町の宿のようだった。

基本的に木目がむき出しの部屋で、そんなに高いところではなさそうだった。


「まぁ・・・生きているだけましね。」

「・・・そうだな。」


チェシーは、そのまま両肩をつかみ、俺を寝かせた。

そして、そのままベットに入ってくる。


「・・・なにしてる?」

「怖い夢を見たなら、一人だと寝にくいでしょ?」


感覚の無い右腕を抱くようにして、彼女も隣で横になった。

肩の近くが、彼女の胸に埋もれているが、その感覚もない。


「・・・子供でもあるまいし。」

「あら?・・大人な事がしたいの?・・・3日も寝てたのに・・・元気ねぇ。」


いたずらっぽい顔をした彼女が耳元で囁くように言った。

しかし、身体は重く動かせそうにもない。


こんな時に耳元で、そんな事を言わないで欲しいものだ。


「・・・しない。」

「なら寝なさい・・・明日には、また移動するわ。」


そう言われ、彼女がいる事で安心したのか、再び眠りにつくまで時間は掛からなかった。

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