43.魔眼使いの剣術
「ヒュー!カッコイイー!!物語の英雄みたいだぁ!」
ニールは俺の行動を見て、そう囃し立てた。
それを無視して、首だけで振り返ると、連れて来たエルフに聞く。
「アーネット、そいつの治療できるか?」
「ええ?!・・・できない事は無いけど、苦手なのよね。」
「・・・死ななければいい・・・頼む。」
「わかったわ・・・。」
俺の声から焦りを感じたのか、探していた人物である事が分かった為か、アーネットは、座り込んでしまっているチェシーを抱えるようにして、魔法での治療を始めてくれた。
「英雄気どりか?・・・魔族にも人間にも成れない半端者が!」
突き飛ばされていたウィルは、体制を立て直すと罵声を浴びせて来た。
「・・・遅くなったようだな・・急ぎはしたが。」
「ええ・・そうね、でも十分よ。」
完全に無視された、3人は怒り始めた。
「ちょっと!こっち見もしないって・・舐めてるの?!」
「おいおいおい!新人君は、先輩に冷たくしちゃ駄目だよ?」
「・・・どうやら、半端者には状況が理解できていないらしいな!」
なにやら喚いているが、あっちよりもこっちの方が重要だ。
「動けそうなら、少し離れててくれ。」
「・・・ええ、わかったわ。」
「私が観とくから!」
俺の頼みというか、注意にチェシーとアーネットは素直に従ってくれた。
「おいおい、完全に無視か?!先輩、怒っちゃうよ?」
「君は、カッコいいから囲ってあげようかと思ったけど・・・いらないわね。」
「・・・私の前に立ったんだ・・覚悟はしてもらう!」
ニールとジェニスは、口調の割には、動かない様子だった。
口だけだして、ここはウィルに任せる事にでもしているのだろうか。
ウィルは、戦意を増し力強く魔法剣の柄を握ると、中段に構えた。
怒りは、あっても油断はしていない。
「お前らが、どうしてこうしたのかなんて、興味ないが・・・」
俺は、3人に向けるつもりで向き直って宣言する。
「・・・俺を敵にして生き残れると思わないことだ。」
「ヒャハハハ!この新人!やっぱ面白っ!」
「君が、ウィルに勝てるはずないわよ!」
俺の言葉に、奥で見ている2人が笑っている。
「・・・冗談でも、面白くは無いな・・・魔眼も満足に使えないお前に、いったい何ができる?」
ウィルは、構えた姿勢を崩さずに、俺に問いかけた。
ガキィィィイイイイン!!!
金色の刀身と、碧い刀身が再び衝突し、金属音を響かせる。
「・・・くっ、卑怯者がっ!」
ウィルは、不意を突かれた為か、金色の一閃をただ受けるしかできなかった。
「・・・。」
ウィルの言葉には答えず、隙だらけの構えを視て、警戒していないであろう角度から、斬りかかる。
金色の刀身は、その攻撃の速さを示すように、空中に光の線を描いていた。
連撃となった金色の線は、周囲の者には、漂い消える、芸術にも見えた。
金色の刀身が、ウィルに迫る度、碧い刀身が間に出現し、その進行を阻む。
連撃すべてを、ウィルは適切な角度で受けている。
・・・おかしい・・・隙だらけなのにあたらない。
ここまで連続して急所を狙い、生きている魔物以外の生物は始めてだった。
これ以上繰り出しても同じかと思い、バックステップして距離を取った。
「はぁっ・・はぁっ・・・」
ウィルは肩で息をしていた。
どうやら今の連撃で、少し消耗したらしい。
・・・剣が特別上手いとも思えないこいつが、なんで防げる?・・・魔法か?。
「ずいぶん、便利な魔法が使えるんだな・・・。」
「・・・くっ・・魔眼も使えない半端者と思っていたが・・・やるようだ。」
「・・・冗談なら寒いぞ?」
ウィルにとっては、太々しくも見えるその態度は、彼の怒りをさらに買ったようだ。
「口の減らない小僧がっ!!」
「歳は、そんなに変わらないだろっ・・・」
再度、光を放つ魔法剣は、互いをぶつけ合った。
衝突する度、互いに光が増していき、火花が散っていく。
しかし、先程は俺が一方的に攻めていたが、今回はウィルも果敢に攻めてくる。
金と碧の光線は、せめぎあい、相手を翻弄するかのように広がっていく。
・・・隙だらけだし・・・首が良いか。
ウィルが、上段に掲げた碧い剣が振り下ろされる。
その一撃を狙い、カウンターを狙った金の一閃は、確かにウィルの首を捕らえていた。
確かにとらえていた剣筋に、彼の首は無く、耳を掠める程度となった。
俺は、何が起こったのか一瞬理解できずにいた。
その間に、迫った碧い切っ先が、俺の空いた胴目掛けて飛んできた。
ザシュッウ!
音を立てながら、左肩口から防具を容赦なく切り裂いていく。
「くっ!!・・・。」
幸い切っ先だけが皮を切り裂いたようで、何とか胴体は繋がっていた。
危険を察知し、すぐに距離を取ったが、着地の際に足が縺れ、膝をつく。
・・・何が起こった??・・・確かに首を落としたはずだ。
「ヒュー!さっすがウィルだぜ!」
「・・・いいわぁ、ゾクゾクする・・・。」
ニールとジェニスが、俺が斬られた事を見て、盛り上がっていた。
・・・一瞬だけやたらと早いのか?
「どうだ?小僧!!・・・これが魔眼の力の差だ!!」
今度は構えを解き、俺を見下ろしながら、勝ち誇ったようにウィルが吠えた。
「お前程度!俺の敵ではない!!」
「・・・相性の問題だけでは?」
続けて吠えるウィルに、木々の茂っている場所から、聞き覚えのある声がした。
その落ち着いた声の主は、すぐに姿を現した。
肉厚な身体、白髪にナイスミドルという形容が良く似合う。
その目は深紅に染まり、怪しい光を放っていた。
「・・・まさか、こんなものに私が騙されるとは・・・不覚です。」
ベールが手に持っていた、何かを俺とウィルの間に放り投げた。
ドサリと音を立てて転がったそれは、ウィルによく似た人間の頭部のようだった。
「ニール君の作品ですね・・・よくできている。」
少しすると、人間の頭部の形をしたそれは、サラサラと崩れていく。
「ヒャハハッ!今回のは傑作だったと自負してるぜ?!」
ニールは、崩れたそれとベールの方向を見ながら、立ち上がった。
同時にジェニスも身構えている。
「さて・・・ウィル君、君の天敵である私がここに居るわけだが・・・まだやるかね?」
「・・・くっ・・・。」
よほどウィルとベールの相性が悪いのか、勝ち誇っていた表情は一転し、苦虫を噛みつぶしたような顔になった。
「いいでしょう・・・ここは引きます・・・ベール殿を相手にするには、ここではもったいない。」
言いながら、ウィルは剣をしまった。
その瞬間を狙い、動こうとした俺だったが、足が言う事を聞かない。
しかも、目の前にベールの手の平が出て来た。
敵対した3人が集まると、足元に黒い水のような、粘り気のある液体が広がっていく。
「では・・・決着は、次の機会にしましょう。」
ウィルはそう言い残し、地面に広がるその黒い水の中に足からゆっくりと沈んでいく。
少しすると、頭まですっぽりと入ってしまった。
残りの2人も彼の後に続き、同じように沈んでいった。
目の前の敵がいなくなり、警戒が解けてしまった為か、俺の目の前は、急に暗転した。
倒れそうになったところを、近くにいたベールが支える。
「ジェフ殿!・・・いかん・・・傷が深いようだ。」
ベールの言葉を聞いたからか、治療を受けていたチェシーがエルフに言う。
「私は、もう大丈夫そうだから・・・彼をお願い。」
「・・・わかったわ。」
アーネットは、頷くとチェシーの身体から離れ、ジェフの身体に駆け寄った。




