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無刀の剣聖  作者: ところてん
42/72

42.裏切り

濃い魔素の中、チェシーには、それ以外に取れる選択肢など無く、その場所にたどり着いた。


そこは深い森の中、少しだけ開けた場所。

中央には、大きな岩があり、周囲は所狭しと、魔物だったものの肉塊が転がっている。


おびただしい血と、死骸を見下ろすかのように、見覚えのある黒いローブを着た人物は、中央の岩の上で座っていた。


「・・・ニール、何故君がここにいるの?」


岩の上に座った人物にチェシーは疑問を投げかけた。


「おー・・お嬢、ずいぶん時間が掛かったな。」

「え、なになに?お嬢来たのー?」


岩の影に座っていたのだろうか、もう一人、また見覚えのあるローブを着た女性が立ち上がり、姿を見せた。


「・・・ジェニス・・君は、向こうに置いてきたつもりだけど?」

「えーー迎えに来たのに!」

「ヒャハハハハッ!・・・迎えにね、そうお迎えに来たのよ、俺達。」


ニールは、いつものくだらない話をしている時のように笑いながら言う。


「・・・私の指示に従わなかった、という事はわかったわ。」

「指示ねーでも、いっつも魔物狩ってばかり・・・人間も弱すぎてね。」

「ヒャハハハハッ!ジェニス!お前、魔力を持った相手なら逃げるだろっ!」

「そりゃー人数いたら向こうの方が有利だし?」

「ただ死ぬわけにはいかないかっ!」

「お金にならないしねー。」


チェシーは困惑していた。

曲がりなりにも、自分で探して集めた魔眼持ち達だ。

これまで彼らには、自分のやりたい事も説明してきたつもりだったし、ジェフを除けば長い時間を過ごした仲でもある。


「ま、・・・こうなったのもねぇー。」

「お嬢的に言うと、君次第ってやつっ?!」

「・・・お前達、そろそろ真意位言ったらどうだ?・・・お嬢様はどうせ死ぬんだ。」


軽い口調で話しているニールとジェニスとは、別の男の声が、岩の奥から聞こえて来た。

すぐに、その人物は姿を見せる。


赤味の強い茶色い短髪、同じ色をした目。

隠そうともせず、むしろ見せつけようとでもいうのだろうか、その姿は、チェシーが見送った人物であることは明白だった。


しかし、彼は殿として、エルフの相手をしていたはずだ。

戦闘の音が遠くで聞こえていたのは、少し前のことだ。


「ウィル・・・どうして?」

「お嬢様、私には、とても都合がよくなりまして。」

「・・・都合?」

「ええ、魔族が人間の国を奇襲し、潰してしまった・・・」


ウィルは、落ち着いた声で、さも当然のように話し始める。


「そして、エルフが主体となる共和国との交渉も決裂、となると・・・。」


その声は、自身の意思でこうしている事を、チェシーに理解させるには十分だった。


「・・・私が、剣聖になる。」

「ヒュー、かっこいいぜウィル!」


ニールは、普段通りといった感じで、茶々を入れる。

ジェニスも彼の考えに賛同しているらしい。


「剣聖って伝説だしー、私達がいたら、そっちも勝ち目ないでしょ?」


「ウィル・・・君が剣を使えるなんて、知らなかったわね。」


今の彼女にとっては、精いっぱいの去勢だったのかもしれない。


「魔法使いならば、魔法剣程度使えて当然では?・・・それとも剣の手並みの心配ですかね?」

「ヒャハハッ!ウィル!お前が魔眼を使ったら、まず負けないっしょ!」

「お嬢が、試してみればいいんじゃないー?」


魔眼の本来の力は、すべて同じようで全く違う。

ジェフの眼が、動作予測と見切りに特化しているのであれば、ベールは自身の魔法をより強力にする。


ウィルの場合は、確か・・・。


答えはニールが教えてくれた。


「動作予測ってだけで無茶苦茶なのによっ!事象改変ってのがなっ!」


そう彼の魔眼は、動作を予測し、彼の魔力の許す範囲であれば、起こってしまった事象を改変できる。

例えば、致命傷を受けたという事実を、受けなかった事にできる。


しかし、すでに起こってしまった事象への改変は、相応に魔力を使う。

そして、その事象を魔眼を使った状態で見ていなければいけない。


「・・・そう・・・裏切るのね・・・一応確認だけど、他の2人はどうしたの?」

「ルニはー、できれば協力してほしかったけどぉー・・・ちょっとねぇ・・・性格的にあれっていうかー。」


ジェニスは、もったいぶっていた。


「ヒャハハッ!ジェニスが真っ先にルニを殺したくせによっ!」

「えー、だって、あの子めんどくさいし。」

「あ、ツヴァイ殺ったの俺ね!あいつ根暗だし、お嬢にぞっこんだったしな!」


それぞれが、それぞれに近くにいた仲間を殺していた。


「・・・予想はしたけど、やっぱりね。・・・で、ジェニスはどうやってこっちに?」

「それ、お嬢が知っても意味ないでしょ?」

「・・・それもそうかもね。ベールは?まだなんじゃない?」


ベールは最後までチェシーの傍にいた。

時間もそこまで経っているわけでは無い。

そう考えるチェシーに、ウィルが応えた。


「・・・ベール殿は最後です。お嬢様の骸を抱いたまま、逝ってもらいます。」

「あら・・・君にしては、趣味が良いとは言えないわね。」

「2人は、人の絶望する顔が好きなようで・・・協力してもらうための餌ですね。」

「そう・・・。」


チェシーは、返事をしながら考えていた。


・・・ベールは、まだ向こうで戦っているだろうし・・・。

ウィルが剣聖になりたいなんてね・・・。


「剣聖になりたいのは、どうして?」

「・・・俺が最強になり、魔法使いの存在を大陸に見せつける・・・そういう事です。」

「そう・・・私とは別の方法で、君達は魔法使いを認めさせたいのね。」

「この大陸には、人間にとっての希望が無い・・・なら、俺がそれになる。」

「・・・それをやろうとして、失敗したのが剣聖なんじゃないかしらね。」

「お嬢様、私は同じ轍は踏みませんよ・・・。」


ウィルは、腰の後ろに手を回し刀身のない、剣の柄を抜いた。

待つまでもなく、碧い光を放つ刀身が姿を現した。

そして、彼の眼は、蒼く澄んだ光を放つ。


チェシーには、その表情や色が、決意に満ちたものだという事が見て取れた。


「お嬢様が、悪としてこの大陸に魔法使いを思い出させるのなら・・・」


ウィルは、両手で持った魔法剣を中段で構えた。


「・・・私が、正義として思い出させます。」

「ウィル、貴方にしては傲慢な考え方ね・・・魔眼を持つものこそ、自制が必要なのでしょう?」

「大義の為であれば、私は傲慢にもなりましょう。」


会話を見ていた二人は、どうやら不満のようだ。

いつも自分達に命令していたお嬢様が、仲間に裏切られても、たいして絶望したように見えないのが、気に入らないらしい。


「ウィルっ!ちゃんと痛めつけてから殺してよね!」

「そうそうっ!ちょっとは曇った顔が見れないと、裏切った意味がないぜ!」

「・・・貴方に比べて、ずいぶん低俗ね。」


それを聞いていた、チェシーがウィルに問う。


「彼らも力を持っている・・・利用しているだけですよ、お互いに。」

「・・・あまり仲は良くないのかしら?」

「お嬢様も、同じではありませんか?」

「・・・こうなっては何も言えないわね。」

「安心して斬られてください・・・言われても私もそこまで、加虐趣味があるわけでは無い。」


ウィルは、そう言って少し腰を落とした。


「・・・死体は彼らにあげるのでしょう?」

「死んでからの心配など、無意味ですよっ!」


話の終わりと共に、ウィルが中段に構えた魔法剣を、上段に振りかぶりつつ、チェシーに迫る。


チェシーは、自身に向かってくる碧い刀身をただ、見つめていた。


シュウッ!


と音を立てながら振り下ろされたそれは、目的を達成できず、地面に突き刺さる。

チェシーは、ウィルから数メートル離れた位置に、移動していた。


「・・・素直に斬られれば、大した痛みもないはずですがね。」

「・・・っう・・・まだ・・死ねないものでね。」


移動の魔法で寸前に避けたチェシーだったが、ウィルの魔眼の能力だろうか、左肩から少し斬られ、黒いローブが血に染待っている。

長く伸びた紫の髪も、赤黒く汚れてしまった。


「ヒューー!魔力もほとんど無いのに!さっすがお嬢!」

「お嬢は、こうでなくっちゃねー!」


ニールとジェニスは、ウィルの一撃を避けた事実に驚いたようだ。

移動の魔法とはいえ、事象改変をできる男の一撃を致命傷で無くした事に素直に驚いている。

そして、チェシーが傷つく姿を喜んでいた。


「まぁ、驚きもありますが・・・次で終わりですよ。」


ウィルは、チェシーに向き直り、構える。


・・・ここまでかしらね・・・。


諦めかけているチェシーの顔を見て、ニールとジェニスは興奮したようで、前に乗り出した。

動く気はないが、よく見たいらしい。


「・・・これでっ!」


ウィルは、先程と同じように、中段に構えた剣を上段に起こし、距離を詰めながら振り下ろす。


「終わりだっ!!」


チェシーに目掛けて振り下ろされた碧い刀身は、そのまま彼女の斬れた肩口に、再度進んでいく。


ガキィィイイイイイン!!


金属がぶつかり合ったような音が響き渡った。

ウィルの振り下ろした碧い剣は、途中で金色の剣に止められていた。


ドンッ!


と腹に衝撃を受け、ウィルは後退する。


「・・・グゥハッ!」


事象改変の力を持つウィルにも、何が起こったのかわからなかった。

起こった出来事が、視認できなければ彼は、改変する事ができない。


「・・・ったく・・急いで来てみれば・・・。」


そこには、白い外套を着た男が、金色の刀身の魔法剣を持ち、立っていた。


「・・・俺も大概だが・・・よくやるな。」


短髪の青黒い髪に、金色に見える両目、呆れた顔のようにも見えるが、その表情は少し悲しさが出ていた。


「・・・君が、来るとはね・・・」

「まぁ・・・呼ばれたからな。」

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