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無刀の剣聖  作者: ところてん
41/72

41.道中

その高音は、聞くものに終わりを告げる鐘のように、森に響き渡っていた。

遠くの方で鳴り響いていたその音も、今は聞こえない。


自身の魔力の大半を失ってしまい、満足に魔法を使えない状況では、その変化が自身にとって朗報となるのか、彼女には判別できていなかった。


ここまで、準備は怠ってこなかった。

しかし、結果としてエルフを舐めていた。

いや、自身の魔法に自惚れていた。


いくら後悔したところで、状況は変わらない。

今はただ、自身を守る為に戦っている仲間を裏切る事なく、最大限生きる方法を探す事が先決だと、彼女は理解している。


だからこそ、周囲の魔素の濃さはわかっていても、山脈側に逃げるしかない。

そうしなければ、エルフの兵士は迫ってきてしまう。


危険の度合いを天秤にかけても、その場所へ踏み込んでいく以外に道はなかった。





「こいつっ!!」

「・・・また魔眼持ちか!!」

「さっきと同じだ!・・・遠距離から攻め立てろ!!」


エルフ達は、立ちはだかる黒いローブから覗く紅い光を見て、警戒を強める。

そして、また弦の張られていない、大きな弓を取り出した。


「・・・弓には、いい思い出がありませんね。」


紅く光る眼をした標的は、後ろ手に何かを取り出した。

しかし、手に何を持とうが長距離からの狙撃ならば関係がない。


エルフ達の持つ弓は、次々と光輝き、高音を立てる光を放った。

光の射線は、次第に抉られ、木々もいくつか倒れる。


自身の攻撃によって砂埃が立ち、標的を見失ってしまったエルフ達は、結果が出るまで待つしかなかった。

少し経つと、砂埃が収まり、先ほどまで標的が立っていた場所も、だんだんと確認できる。


標的は、静かにそこに立っていた。

黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っているので表情までは覗えない。

しかし、その両目はしっかりと紅く、妖艶な光を放っていた。


「・・・魔弓ですか・・・厄介ですね。」


男は静かに言った。


「・・・しかし、その程度であれば問題ないでしょう。」


言いながら男は、ただゆっくりと歩き出した。


「当たってないのか!!」

「次だ!・・撃て!!」


一人のエルフの号令とともに、再度高音と光が、男を襲う。


「・・・これだけですかね?」


男は、その歩みを止めるつもりもないらしい。


「もっとだ!!・・撃て!」


光の矢は、何度も放たれる。

しかし、標的の男は、静かに歩いて向かってきた。


複数人で射線をずらして撃っても、同時に3方向から撃っても、真正面から撃ち抜いても、男の歩みは止まらなかった。


ついには、数メートル先という近距離まで迫ってきた。


「距離をとるんだ!!!」


男への恐怖からか、今さら我に返ったのか、慌てて一人のエルフが言う。


「・・・遅い!」


聞こえた瞬間、標的の男の姿は見えなかった。


「うわぁあああ!」


指示を出していたエルフの声が響く。

その後、幾度か同じような悲鳴が聞こえてくる。


周辺の木々は、矢によってところどころ倒壊し、障害物はなくなっていたが、立ち込める砂埃は、エルフの長所である視界を奪っていた。

悲鳴は聞こえるが、だいたいの方向と距離くらいしかわからない。


「うわぁあああ!」


すぐに近くで悲鳴が聞こえた。

距離が近い。

何かの影が、真横を通った。


そのエルフの最後に見た物は、自身の服を着た、首から上のない真っ赤に染まった胴体だった。



しばらくすると、立ち込めていた砂埃も収まる。

その場所には、一人の男が立っていた。


黒いローブに身を包み、フードを目深に被った男の目は、すでに光を納めていた。


「・・・ウィルは、苦戦しそうですね。」

「いたぞっ!!魔族だ!!」


呟いた男に、またエルフの兵士達が弓を構えていた。





俺は、まだ山脈を超えられていなかった。

ちょうどよく谷になっている場所が見当たらず、適当に上り始めてしまったおかげで、辺りは一面雪景色だった。

遠方を見れば、ずいぶん上ってはいるものの、上っている山の頂上を見れば、まだ続いている。


目的の人物の場所は、便利な魔法を使えるエルフがついて来たので問題ないが、山道をろくに装備も整えずに上っているので、とにかく寒い。

目的は、頂上ではなく向こう側へ行く事なので、山の切れ目を探しつつ、移動している。


・・・そろそろ飯が必要か・・。


そう考えていた時、後ろから声が聞こえた。


「寒い!!それにおなか減った!!!」


振り返ると完全に立ち止まり、アーネットが弱音を吐いていた。


「・・・我儘かっ!・・・まぁ腹が減った事は認めるが・・・。」


こちらも同じような事を考えていたので、立ち止まる。


「貴方、食料持ってないの?」

「あったら魔物なんか食わねぇよ・・・。」


・・・まさか好きで食べてるとでも?


また俺が表情に出してしまっていたのか、アーネットは、困ったような顔をした。


「・・・わけてあげるから少し休憩しない?」

「・・・いいのか?」

「まぁ、貴方に魔物の相手をしてもらうのだし。」

「・・・なら頂こう。」


これも対価と考えれば、まだ納得できるだろう。


・・・まぁ、以前に食料を貰った時は、大量に魔物を倒した後だったが。


休憩するにも、雪だらけで休めるところもなく、動かないとさらに凍えてしまいそうだったので、ゆっくり歩いて移動しながら堅パンを食べることにした。


「お水はあるの?」


硬すぎる堅パンをむっしゃむっしゃ食べていると、アーネットが聞いて来た。


「水はある・・・冷たすぎるが・・・。」

「お湯にするにもねぇ・・・。」


魔法で火をつける事はできるが、温めるという行為は、コントロールが難しく、失敗すると水を入れている袋が燃えてしまう。

今の状況でやってみるのは、自殺行為だ。


「流し込むなら何とかなる。・・・悠長にもしてられないしな。」


今は、とりあえず急いで向かう事が先決だ。

エルフと交渉してくると言っていたやつが、次に迎えに来ることもできず、こっちに来いというのだ。

向こうも相当厄介な状況だろう。


今の俺には、焦る気持ちもありつつも、食事しながら移動するくらいしかできなかった。

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