4.クゥエラ山脈付近にて
今回の俺たち冒険者チームの獲物は、クゥエラ山脈の麓一帯の森に生息している。
オーガと呼ばれる種類の魔物だ。
体表は、赤黒く大柄な人型で時に人里に降りてしまい、畑を荒らすならまだしも、肉食の為家畜や、人を襲ってしまうので、村などの集落が襲われると、冒険者ギルドに生き残りが依頼をする。
オーガはほとんどの場合で単独で行動しているが、中には他種の小型の魔物と集団を作っている事もあり、その場合は危険度が高く、集団どおしでの戦闘が必須となる為、集団戦の得意な騎士団に依頼される事が多い。
というより、冒険者とは気の合う少数がまとまってチームを組み、少数の魔物や害獣の駆除を行うくらいがほとんどで、大規模な集団での戦闘などほとんど経験しない為、自分たちで処理できないレベルの魔物の集団を見つけると、逃げる事が多い。
依頼が失敗したところで、報奨金が出ない程度、敵前逃亡で死刑になったりするわけでは無い為、危険すぎると判断した場合は、一目散に逃げるのだ。
その為、こういった山の麓にある森の中では、クリストフのような偵察が得意な冒険者は貴重である。
クリストフが偵察し、魔物を見つけると自分たちで処理できる規模かを判断する。
「西に30・・・ゴブリン5体・・・いけるな。」
クリストフが偵察で見つけた魔物の種類と、把握した数、方向、距離を伝えに戻ってくる。
西に30なので、俺達のいる場所から西の方角に大体30メートルくらいだ。
「近いな、いつもどおりのパターンで。」
「であるな。」
ロイとガッツも同意する。
「よし・・・」
クリストフは、再度見つけた魔物の方向へと向かい、弓に矢をつがえて準備をしてロイからの合図を待つ。
ロイが全員の体制が整った事を見計らい、クリストフにハンドシグナルで合図する。
クリストフはそれを見てから、矢を放つと見事に手前にいたゴブリン1体の後頭部に突き刺さった。
「ギャーー・・・ガァグア」
「ガガギデ」
ゴブリンの言葉なのだろうか、仲間が突然射られた為、周囲を警戒している。
ゴブリン種の体表は、薄い緑がかっていて、小さく身長140cmほどだろうか。
よくゲームなどで出てくる小鬼のような見た目で、口が大きく、歯が全体的に鋭い。
ガッツが大斧を担ぎ猛ダッシュしながら手前のゴブリンとの距離を詰め、そのまま獲物めがけて振り下ろす。
グシャッという音とともに、ゴブリンは脳天から一気に叩き潰され絶命した。
「ウォォォオオオオーーー!!!」
すぐさまガッツが雄たけびを上げると、周囲のゴブリンは一瞬怯んだ。
すかさず、クリストフが一番奥のゴブリンを射る。
外しやがった。いやよけられたのか・・・。
ロイが小盾を構えて、前進し盾でガッツに反撃しようと近づいたゴブリンを押しのける。
押されてよろけたゴブリンの首を冷静に狙い、槍で一突きし仕留めてしまった。
残りは2体
俺は剣を抜きつつ、走りだし奥にいたゴブリンとの距離を一気に詰める。
そいつはゴブリンのくせに剣を持っていた。
ゴブリンは、低能なので剣で切る事があまり理解できていない。ただのこん棒と同じようにたたきつけるのが、精いっぱいだろう。
俺に向かってただ、力を込めて剣をたたきつけようとしてくる。
俺からすると、遅すぎるので剣を持っている腕ごと首を落としてしまう。
振り向くと最後の1体となったゴブリンが怯えた目でこちらを見てきた。
容赦はしない。情けなど掛けない。俺は冒険者なのだから。
怯えるゴブリンとの距離を確認しつつ、歩いて近づいてその首を一撃で落とした。
「こんなもんか・・・」
俺は剣についた血を払いってさやに収めた。
「余裕であるな。」
大斧を地面に突き刺し、ガッツは腕を組んでうなずいている。
切れ味とかあまり関係なく粉砕する武器なので扱いが雑だ。
「まぁ、ゴブリンだしな。」
槍を少し振り、ついた血を払いながらロイが答えた。
「いつものパターンで余裕っしょ」
クリストフは自分の撃った矢を回収している。
「その割には、外してたな。」
俺は小型のナイフを使って、討伐した印になるゴブリンの耳をちぎり、腰につけているポーチにしまった。
「うるせーやい。あれはゴブリンが避けたんだ!」
「あんなのに避けられるのか・・・」
「はいはい、終わったんだからとるものとって、獲物探すよ」
クリストフと少し言い合いになりそうだったが、ロイが声をかけてきたのでやめた。
「今回の獲物はオーガだ。ゴブリンじゃない。」
「であるな。」
ロイと、ガッツは落ち着いている。
「はいはーい、じゃ偵察再開するよ。」
こういうやり取りもいつものことなので、俺もクリストフも特に気にしていない。
「頼むぞ。」
ロイは短く返し、クリストフはうなずいて偵察に出た。
「次は獲物だといいのである。」
「そんな簡単に見つかったら苦労しねぇよ。」
ガッツは少し能天気だ。
「ロイ、オーガも同じパターンで行くのか?」
「そうだな。同じでいいだろう。」
俺達のパターンは、いくつかあるが基本形は1つだ。
クリストフが偵察し、ロイの合図で牽制込みの弓矢を射る。
こちらの存在を相手に知らせる事が目的なので当たろうが、当たるまいがあまり関係がない。
射ったらすぐに戻ってくる。
魔物の行動パターンは大体、その場で周囲を警戒し始めるか、騒ぐか、こっちに気が付いて反撃してくる。
そこをガッツが潰し、ロイが止める。
俺は、2撃目で数を減らしに行くのが役割なので、剣で一気に切り込んでいく。
クリストフは、狙えそうだったら後方から弓矢で射る。
このパターンでこれまでも数々の戦闘をこなしてきたし、それなりに経験を積んできた。
最も自信のある形だし、慣れている。
「わかった。」
俺はロイにそう返した。
そこからは、森の中を検索しつつクリストフの偵察に引っかかった魔物の群れを狩り、夜になった。
適当な広さの平地を見つけたので、そこでテントを張り、野営の準備をする。
「水と食料は?」
ロイが確認の為、聞いてきた。
「あと2日分ってところかな。」
「明日は、獲物が出なくても昼になったら一旦山を下りよう。」
「そうであるな。」
「やっぱロイはかーちゃんだな。俺たちの」
「クリストフは、飯抜きな・・・」
「ちょ、ロイ!そりゃないぜー」
クリストフがあまりにも情けない表情になるので、俺達は笑っていた。
「ここらで降りるなら、あの村に戻るんだよな」
「そうなるな、1日あったら着くだろう。」
「ココット村であるか。冒険者ギルド支部の代わりに酒屋があるのである。」
「ミフィーちゃんがいるのであーる」
クリストフは、村の酒場にいた娘の名前を言いながらガッツの真似をしていた。
そうして普段通りの馬鹿な話をしつつ、見張り番を交代しながらテントで休んで朝を待った。
翌朝、いつも通り朝食を食べ、出発の準備をしていると、山の麓の方で煙が上がっているのをクリストフが見つけてきた。
さすがに目がいいらしい。
「やっばいよ、あっちココット村の方だって!」
クリストフは焦った様子でみんなに報告していた。
焦るのも無理はない、俺達はココット村で今回の依頼を受けて、獲物を探していたのである。
その村から煙が上がっているのは、何か問題があった証拠でもあるわけだ。
「予定変更だ!急ごう!」
ロイが山を下りる事を選択する。
というよりも、それしかない。
俺たちの持っている食料は残り1.5日分程度で、他の村まで行くには少ないし、冒険者とはいえど食材の現地調達はあまり良くない。
魔物の肉は食えない事はないが、恐ろしくまずいうえに魔物がいる森では、飲める水などほとんどない。
普通の人間には、魔物が集まるような場所に漂っている魔素と呼ばれるものが、水にとけだし毒になってしまうからで、小川の水なども飲むと腹をこわす。
一部は飲める湧き水があるところもあるが、俺達はその場所を発見できていない。
人間が飲めるような水場は、たいてい魔素が薄く魔物も出にくい。
そういった事情もあり、俺達のような冒険者は人の生活している村などで、食料を補給しつつ山を探索して獲物を探すのだが、その補給地である村に何かあったのであれば大変だ。
俺達は、半ば強制的に村に戻る事を余儀なくされた。




