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無刀の剣聖  作者: ところてん
37/72

37.迷惑な来訪者

「蛇ってやっぱりお前か・・・」


変なエルフの女の次は、まためんどくさい大蛇が来たものだと、呆れていた。


「イヤーーーー!」


エルフはダガーを放り出してしまい、大蛇から逃げるように俺の後ろに隠れた。


「ムリッ!・・あんなでかい蛇ムリッ!!!」

「むぅ・・・お主、意外とモテるの・・・」

「明らかにお前を嫌がってるだけだろうが。」


知らない女にやたらと近づかれるのも、あまりいい気分ではない。

俺は、後ろを向きつつただ、思った事を口にした。


「・・・離れてくれないか?」

「イヤよ!!」

「・・・はぁ・・・めんどくさっ・・・」


とりあえず、このままと言うのも非情にうるさいので黙らせる事にする。

まだ持っていた残りの肉を、騒いでいるエルフの口に無理やり突っ込んだ。


「まっず!!」


大蛇よりも直接感覚を刺激したことが効いたのか、ゲェゲェ吐きながらも、静かになってくれた。

また近づかれて、腕をつかまれるのも嫌なので、歩いて距離を取った。


「しかし、久々に人を見た後に、エルフまで見れるとははのう・・・」

「かつては神と呼ばれても、エルフとはあまり会った事がないのか?」

「神に縋らなければいけないほど、生きる事に苦労しなければ、神など必要ないのだよ。」


自身の力では、どうしようもない事があれば、神というよくわからない物にも頼りたくなる。

前世が日本人である自分にとっては、全てのモノに宿る神という奴も、よくわからないモノだ。

このガンドと名乗る蛇はまだ、その巨大な身体がある分いくらかましなのかもしれない。


「・・・エルフは、魔法もあって苦労はなさそうに見えるからな・・・」


魔力の無い人間と違って魔法を使えるエルフは、他人に頼らなければいけない程、苦労しないのだろうか。


「・・・エルフだって、苦労くらいするわよ!」


口を手の甲で拭きながら、エルフはこちらに意見してきた。


「・・・少しは落ち着いたみたいだな。」

「魔法が使えたって、万能じゃない・・・魔族ならそのくらいわかるんじゃない?」


少し言い返したくなったが、エルフの苦労と言うのも聞いてみたいものだ。

俺から見れば、自由に魔法を使えて楽そうにしか見えない。


「だいたい・・・人間の冒険者って、同胞への仲間意識ばかり強くて、エルフやドワーフは道具のようにしか見ないじゃない。」

「・・・ふぅむ。」

「魔法が便利なのは認めるけど、だからって魔法にしか興味がない人間が多すぎるのよ!」

「・・・ふぅむ。」


エルフの言葉に大蛇が聞き入っている。


「てかこの蛇、貴方の知り合い?」

「・・・最近会ってな。」

「魔族ってこういうのとも仲いいのね。」

「ワシは争いが好きではないのでな。」


大蛇であるガンドが、争いを好まないというのも不思議な感覚だ。


蛇といえば、争いを好みそうなものだが・・・。


「話せる程の知性があれば、普通の蛇とは別じゃろうなぁ。」

「・・・そういうもんかね。」


ガンドは、当然のように俺が思っただけの疑問に答えた。


「しかしエルフよ・・・ワシは、この者と話した仲ではあるが、特別良好というわけでもないのぉ。」

「今の俺では斬れそうにないってだけだ。」

「・・・なにそれ?」

「こいつ、硬いんだよ・・・しかも心を読んでくる。」

「怖っ・・・」


俺の説明を聞いたエルフは、両腕で自身を抱えるように、震えるようなジェスチャーをした。


「ワシはガンド、かつては神と呼ばれた蛇じゃ。」

「神?・・・怖いし、胡散臭いわね。」

「だよなぁ・・・。」

「ひどいのぅ・・・本当の事なんじゃが・・・。」


しばらく訝しい目で、大蛇を見上げていたエルフだが、ハッとした顔をして、こちらに向き直った。


「いけないっ・・・忘れるところだった。私は魔族を捕まえに来たのよ!」

「グゥワッガッガ!」


エルフの言葉を聞いて、ガンドが笑いだした。


相変わらず怖い顔で笑うな・・・。


「うるさいのぅ・・・こういう顔なのじゃ、仕方なかろう。」

「本当に心が読めるのね・・・」


エルフも大体同じ事を考えていたのか、心を読まれたのだろう。


「まぁ、お主達はお互いの事をもっと知ってから、行動した方が良いのぅ。」

「・・・どういう事だ?」

「このエルフは、魔族と言うのも飽きてきているようだからのぅ。」

「・・・魔力のある私達から見れば、魔族なんて人間と同じにしか見えないもの。」


エルフは肩をすくめた。


・・・本当に飽きているんだな。いや、呆れているのか。


「まぁおかげで、私に指名依頼が来て、めんどくさい事になっているのだけど。」

「ふーん・・・で、俺を捕まえてこいと?」

「そういう事!だからおとなしく捕まってくれない?」


俺は右手を後ろに回して、柄を握り、魔力を纏めながら抜いた。


「武器もない奴が、俺に勝てるとでも?」


今更気が付いたのか、自分の武器が地面に転がっているのを見て、エルフは青ざめる。


「エルフの魔力が高いとは聞いているが、この蛇程でなければ斬れる・・・。」

「ぐぅ・・・。」


ドゴンッ!


と大きな音を立て、俺とエルフの間に蛇の大きな尾が現れた。


「だから、ワシは争いが嫌いだと言っておろぅ。」


・・・後々めんどくさくなるのが嫌なんだが・・・。


「ああああ!!!私の武器!!!」

「むぅ・・・これはすまんのぅ・・・。」


蛇の尾がどくと、粉々に壊れたダガーが姿を現した。


「・・・。」

「粉々だな・・・。」

「貴方が弁償しなさい!!!」


良くも悪くも予想通りな反応で、俺はじっと大蛇を見てしまった。


・・・お前のせいで、更にめんどくさいんだが?


「むぅ・・・まぁ、これで少しは話をする気になったかね?」

「どんだけ話好きなんだよ・・・お前・・・。」

「会話はいい・・・命のやり取りなく、分かり合う唯一の手段とも言える。」


・・・こいつもこいつで、厄介だよな・・・。


「まぁ、友も殺してしまうお主には、ぬるいように思うのかもしれんがのぉ。」

「友?・・・なに貴方、友達斬ったの?・・・怖っ!!」

「・・・状況がそうさせた。」


また、震えるようなジェスチャーをしていたエルフだが、俺の顔を覗き込み、不思議そうな顔をしている。


「・・・後悔してるの?・・・それとも自戒?」

「そんな風に見えるか?」

「ええ・・・」

「・・・どうなんだろうな・・・考えてもよくわからん。」

「なら、やらなきゃよかったのに。」

「こっちも、向こうも曲がらない、曲げられない状態だった・・・そして俺の方が生き残ったってだけだ。」


・・・俺はなんでこいつに、こんな話をしているんだろう。


「・・・なんだか、やるせなくなるわね。」


大蛇と違い、心を読めないはずのエルフは、俺の中まで覗き込むような、不思議な目をしていた。

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