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無刀の剣聖  作者: ところてん
36/72

36.交渉

チェシーは、護衛にベールとウィルを連れ、共和国へと着いていた。

彼女はフードを脱いで素顔をさらしているが、ベールとウィルは相変わらずフードで顔を隠している。


ツヴァイがエルフに見つかってしまった、クリムトの町に到着すると、交渉相手はどうやら待っていたらしく、すぐに接触してきた。


「お待ちしておりました。」


声を掛けて来たのは、一人、あちらも緑の外套を着ていて、フードを目深に被っている為、顔は確認できない。


3人を連れ、町の中でもエルフの居住区だろうか、人間の少ない場所に案内される。


「こちらです。」


案内をしていた男が、そう言って立ち止まったのは、大通りから少し入った場所にある、普通の民家だった。

中に入ると、部屋もごく一般的な家屋のようで、出入り口すぐに広めの部屋があり、どうやらリビングのようだった。


部屋の中央には、大きめのテーブルが1つと、それを囲むように椅子がいくつか置いてあり、出入り口の扉から机を挟んで奥の方に4人のエルフが、すでに座っていた。


4人は、案内されて入って来たチェシー達を確認すると、全員が椅子から立ち上がり、礼をする。


「これは、これは・・・よくぞお越しくださいました。」

「・・・ずいぶん準備がいいのね。」

「こちらにも、移動できる者もおりますから。」

「そう・・・。」

「まぁ、立ち話もなんですから・・さ、こちらにどうぞ。」


椅子を指示され、チェシーだけがそれに座る。

残りの2人は立ったまま、彼女の後ろに付いた。


「そちらの方々も、どうぞ・・」

「彼らはいいわ・・・護衛だから。」

「そうでしたか。」


2人にも座るように言ったエルフも納得したのか、そのまま自身の椅子に腰を下ろした。


「早速で、申し訳ないですが・・・」

「ええ、貴方方も忙しいでしょうし、簡潔に行きましょう。・・・どうやら思っていたよりも、議会の有名人が集まっているようだし。」

「こちらの事も、良くご存じのようだ。」

「・・・さすがの調査力ですな。」


チェシーの答えに、黙っていた別のエルフも口を出し始めた。


「おほんっ・・・本題に入っても?」


どうやら、チェシーと対面しているエルフが、交渉を取り仕切るらしく、他のエルフ達は黙った。

チェシーはどうぞ、とジェスチャーをして続きを促す。


「では・・・王国の件、貴方が首謀したという認識でよろしですか?」

「ええ、そうよ。」

「理由を聞かせていただいても?」

「今は教えられないわ。・・・私は、貴方方を信用していないもの。」

「・・・そうですか。」


ズバリと教えない理由までつけてしまう辺り、普段通りの彼女のようだった。

ベールは内心でほっとしていたが、ウィルは少々驚いた。


「・・・我が国でも人間達が多く、騎士団に所属する人間の兵士がほとんど、王国の同胞の救援に向かってしまいました。」

「・・・それで?」

「戦争からこれまで、我々は、人間、ドワーフをを受け入れ、国も発展してきたのですが・・・」

「その辺りは、こちらでも理解しているつもりよ?」


チェシーは、甘く見られていると思ったのか、少し苛ついていた。


「これは、失礼を・・・では端的に、今回指示を受けずに離反した、人間の兵士達の討伐に、ご協力いただきたい。」

「あら?・・・貴国は、王国の人間達を見捨てるの?」

「見捨てるとは、人聞きが悪い・・・先程も言ったように、彼らは命令の無いまま、行動を起こした・・・つまりは離反したのです。」

「自国の不始末の処理を我々に依頼すると?」

「いえいえ・・・ご協力していただきたいのです。」


チェシーと対面しているエルフは、冷や汗をかいていた。


「離反した人間の兵士の数は多く、残りは精鋭と言えど・・・」

「我々は、8人で王国を潰したわ・・・」


それほど魔法を使えるかどうかは、戦力に大きく関わる。

エルフも魔法を使えるのだ。

数の差など、自身でやらない理由にはならない。


「貴方方は、離反者の討伐にエルフの部隊を投入すればよろしいのでは?」

「・・・。」


チェシーの言葉が的を得ていたのか、対面していたエルフは黙ってしまった。

それを見て別のエルフが話始める。


「この御仁には、建前など抜きにした方がよいでしょう。」

「・・・話が早くて助かるわね。」


話始めたエルフにチェシーは応える。


「では、私の方から・・・要するに我々は、エルフの国を取り戻したいのです。」

「・・・。」


チェシーが口を挟まない事を見て、さらに続けた。


「戦争の経緯からか、人間達は、皆魔力を持たないと思い込んでいる・・・そして才能ある者さえ、碌に使えず、数を増やすばかり・・・」

「・・・。」


エルフの男は、チェシーをちらりと見るが、特に応えない。


「我々エルフから見れば、人間達の言う魔族という定義が、そもそも間違っている・・・不毛なのですよ。」

「・・・。」


チェシーは、応えずただ彼の話を聞いていた。


「彼らが、魔力を持っている事を自覚してくれれば、どんなに楽か・・・おっと、これ以上は愚痴になりますね。」


聞いていたチェシーが、ゆっくりと話し始める。


「・・・つまりは、いい加減、魔族と言うのも飽きたし、人間は利用できないから殺してしまおう・・・と?」

「はははっ、それはいささか過激ですな・・・しかし、遠くはない。」

「貴方方から見れば、私達はいい口実ってことね。」

「ズバリと来ますね・・・ええ、まさに・・・ここで協力していただければ、そちらにとっても効率が良いかと。」

「・・・つまりは、過去の戦争は水に流して、今度は人間狩りをしましょうってこと?」

「お嬢様・・・」


あまりの過激さに、ベールが口をはさんでしまった。


「ベール・・・いいのよ、私は冷静だわ。」

「・・・。」


チェシー以外、周りの人間は黙ってしまう。

エルフは、対面する者の様子を窺っているのだろうか。


「・・・言っておきますが、私達は人間よ・・・そして人間の味方。」

「王国を襲った貴方が、それを言いますか?・・・」

「ええ、確かに王国を襲ったのも、私達・・・理由は教える気にはなれないけどね。」


話していたエルフも何かを考え始めたのか、黙ってしまう。


「私達には目的があり、今回の行動を起こしたわ・・・だからこそ、貴方方の為に人間を襲う事は出来ない。」

「ははははっ・・・これは面白い事を言う・・・ここがどこだかお分かりで?」

「・・・無駄よ、忘れたの?・・私達がいったい、何人で大国一つを潰したのか。」

「我々を魔法の使えない愚民どもと、同じにされては困る・・・」


すっと、黙っていた2人のエルフが立ち上がる。

ベールとウィルも少し身構えた。


「人間をすべからく弱いと決めつけている貴方方では、話にならないでしょうね。」

「・・・いいでしょう。では・・・」

「・・・交渉は決裂ね。」


話していたエルフの男は、座ったまま合図を出した。


「・・・やれ!」


その瞬間、立ち上がっていた二人のエルフが、各々武器を取り出す。

片方は、ダガーを2本、もう一方は腰に差していた直剣を抜いた。


それとほぼ同時に、ベールとウィルは魔眼を発動する。

ベールは紅く、ウィルは蒼く両目を光らせる。


「止まりなさい!!」


チェシーが2人に命じ、自ら立ち上がった。

武器を持ったエルフは、容赦せず彼女に向かって、手に持った武器を振りかぶる。


振り下ろそうとした瞬間、目の前の3人を囲むように青白い光が発生する。


カンッ!と音を鳴らし、直剣が床に突き刺さっていた。


「逃げられたか・・・」


物音を聞いたのか、外に待機していた武装したエルフの兵士達が、室内に踏み込んできた。


「・・・だが、そこまで遠くへは飛べないはずだ!!町と森を探せ!!」

「「「「はっ!」」」」


4人のエルフを残し、武装したエルフは勢いよく外へ駆け出した。

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