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無刀の剣聖  作者: ところてん
35/72

35.交渉の準備

「申し訳ありません、お嬢様。」


チェシーの屋敷、ジェフとの最初の会話にも利用した応接室で、黒いローブを着た男が謝罪する。


黒いローブの男から1歩後ろには、4人、同じような服装の男女が横1列に並んでる。

並んだ4人は、目深にフードを被り表情を見せていない。


「ツヴァイ、それは良いって言ったでしょ?貴方が見つかっても問題ないって。」

「・・・はい。」


ツヴァイは、フードを脱いでおりその容姿が窺える。


薄い茶色の短髪で、目も同系色。

端整な顔立ちだが、左目の斜め下にある黒子が、この男の優しさをにじみ出している。


「しかし、一番最初に見つかったのが、ツヴァイとはねー。」


ツヴァイの後ろに並んでいた内の右端にいた女性が、手を頭の後ろで組みながら言った。


「ジェニス・・・よさないか。」


今度は、右から2番目に立っていた男が、諫めるように言う。


「・・・いずれ誰かが見つかってた。皆同じ・・・。」


その隣、左から2番目に立っていた女性が、冷たい口調で言った。


「ヒャハハハッ!そりゃそうだ!なにせツヴァイは、俺達の中じゃ一番偵察がうまい!」


左端の男性は笑いながら応えた。


「貴方達は、静かにしてれば良い子なのになぁ・・・」


チェシーは、奥に立っている4人を少し睨む。

その声は、少しだけ低く、怒気を放っていた。


「ごめん!お嬢!」


察したジェニスは素早く、謝った。


「・・・。」


他の3人は、うんうんと首を縦に振りながら、黙っている。

崩していた姿勢を少し正した。


「全ては、私の不甲斐なさ故・・・。」

「ツヴァイ、貴方は真面目だけど、過ぎるのもよくないわよ?」


またツヴァイが申し訳なさそうな顔をしたので、チェシーが注意した。


「さて、久々に彼以外は、集まってもらったけど・・・これからエルフと交渉になります!」

「「「「「はっ!」」」」」


ベール以外の5人は、姿勢を正しチェシーの言葉に答えた。


「ウィル、ベールと一緒に私についてきて。」

「はっ!」


名前を呼ばれ、右から2番目に立っていた男性が返事をした。


「偵察は、帝国側だけ行うわ・・・ニール、ツヴァイと一緒に行って。」


「「はっ!」」


チェシーの正面に立つツヴァイと、右端に立つ男性が応える。


「ナルは、ここの守備、ジェニスは、こっちで魔物の討伐をよろしく!」


「「はっ!」」


残った2人の女性が応える。


「では・・・行きましょうか。」


チェシーは立ち上がる。

それを合図に、全員が各々の行動を開始した。





「うぇ・・・まっず・・・」


俺は、思わず声を漏らしながら、焼いた魔物の肉を食べている。


直に地面に座り、片膝を立て、右肘をその上に置き、串にしている細い木を持って食べていた。

およそ行儀が良いとは言えないので、チェシーの前でやったら拳が飛んでくるだろう。


目の前には、パチパチと音を立てながら、焚火が燃えている。

あの大蛇に会い、チェシーがエルフと交渉をする聞いてから、まだそんなに時間は経っていない。


魔素の濃い場所を探していたのだが、大蛇はよほど広範囲の魔素を吸収しているようで、全く濃くなる気配がなかった。


歩くのにも飽き、腹も減ってきた頃に、またボーアを見つけたので、今日の獲物として頂いていた。


・・・しかし、あの大蛇・・・ガンドとか言ったか?人が悪いというか、蛇が悪いというか・・・


自身の心を勝手に読んだ挙句、魔素の濃い場所は教えない大蛇を思い出す。


・・・諦めている・・か・・・


物事への見切りの速さと言えば聞こえはいいだろうが、前世の頃からなにかと断念してきた事もあり、大蛇の言葉は心に引っかっていた。


考えながら魔物の肉を食べていると、パチンッ!と目の前の薪が爆ぜた。

その瞬間、背中の方から声が聞こえた。


「いたーーーー!!!」


驚きもあり、聞いた瞬間に振り返る。

左手を後ろに回し、魔法剣の柄を抜いておいた。


薄暗い森の中、立ち並ぶ木々の間を、一人の女がこちらに向かって駆けてくる。


「みぃーーーつけたぁぁああ!!」


先程と同じ声で、数メートル先まで迫った頃、その女は叫んだ。

そして、俺の手前で転んだ。


見事に顔から地面に突っ込んでいる。


「・・・大丈夫・・か?」


あまりに不憫だったので、とりあえず声を掛けてしまった。

その声に反応したのか、素早く起き上がり、まだ肉を持っている俺の右腕をがっちり掴んできた。


「大丈夫!お酒は背中にしまってるから!!」

「・・・聞いていないんだが。」


パチンッ!と焚火がまた爆ぜた。


「とりあえず、貴方を冒険者ギルドに連れてくわ!」

「断る。」


焚火の光に照らされて、特徴的な耳が見えた。

見知らぬエルフの女は、断っても俺の腕を放そうとしなかった。


「これは・・・私の為なの!」

「知るかっ!!」


掴まれている右腕に力を入れ、振りほどこうとする。


「わっ!ちょっ・・・危ない!!」


腕を掴んだままの為、俺の動きに合わせて右往左往しながら、怒っていた。

俺は魔法剣の柄を一度しまい、右手の肉を左手に持ち直す。


「・・・だったら離せばいいだろう。」

「いやよ!貴方のせいで、私がどんなくろっ・・・ちょっ!」


見知らぬエルフが焚火に足を突っ込みそうになり、よろけた。

その瞬間、開いた口に持っていた魔物の肉を突っ込んだ。


「まっず!!!・・・あんたこんなもん食ってんの?!」


不味さのせいか、やっと俺の腕から手を放し、肉を吐いている。


「・・・。」


俺はいち早く立ち去ろうと、黙って焚火に足で砂をかけ、消し始めた。

そんな俺を見たのか、見知らぬエルフは声を掛けてくる。


「ちょっと!女の子なんだから少しは優しくしたら?」


・・・どこかの学級委員長ですか?こいつは!


「知らない人には、ついていくなって言われてるんで。」

「貴方は知らなくても私は知ってるの!」


また、俺の腕でも掴もうと思っているのだろうか、捕まえようと両手を開いて向かってくる。

軽く避けながら、距離を取る。


・・・なにこいつ、めんどくさい。


バランスが崩れたのか、足がもつれたのか、見知らぬエルフはまた、地面に顔から突っ込んでいた。

そして、座り込んで顔を上げる。


「貴方でしょっ!!王国を襲った魔族って!!」

「・・・魔族?なんのことだ?」

「とぼけるな!」


ここまで来るのに、よほど苦労したのか彼女の目には、涙が溜まっていた。


「・・ったく、ここに来る前も、変な蛇に追いかけられるし・・やっと見つけたら、とぼけるし・・・」


ぶつぶつと言いながら立つと、手を後ろに回しダガーを2本抜いた。

慣れているようで、両方とも逆手で持っている。


「ぜぇったい!!捕まえる!!」


涙目のまま、彼女が意気込んだ瞬間だった。

後ろから、見たことのある巨体が、木々をかき分けヌッと出て来た。


「変な蛇とは・・・ワシかね?」

「イヤーーーー!!!」


振り返りると、近くに迫った大蛇を見て叫んでいた。

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