33.偵察
パチパチと音を立てながら燃える火をただ、眺めていたが、そろそろ集めた薪もない。
・・・自分の目標がない、か・・・それに人形ね。
なんにしろ、このままここに居るわけにもいかないか。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、荷物を持って池の水を使って火を消した。
水はどうやら確保できそうだが、食料は魔物でも狩る必要がある。
下手に、木の実などに手をだして、毒で死ぬのも阿保らしい。
ある程度は、食べれる木の実なども知っているが、下手に手を出すと、腹を壊すか最悪死んでしまう。
「・・・行くか。」
小さくつぶやき、もう一度池を見てから、食料となる魔物と魔素の濃い場所を探して歩きまわった。
バルト共和国領内、クリムトの町、普段は長閑な町だが、今は様子が違っている。
自由区との境も近く、王国側に近いこの場所は、共和国領内でも人間が多く集まる町でもある。
「これは!人道的な支援である!!」
「オォォオオーー!」
救援を強く望んでいた騎士は、その直属である人間の兵と食料を集め、その士気を高めている。
兵士達もどうやら彼の意見に賛同しているようで、いやいや参加している者はいない。
人間の議員から聞いた情報では、どうやら共和国は救出に前向きではなく、正式な救援の為の派遣では無い為、参加したところで、罰はあっても報酬はない。
「魔族など!我々には怖くない!!!」
「オォォオオーー!」
それがわかっていても参加する人間の兵士は、自身の同胞を救う為、共和国を後にする。
その様子を窺う黒いローブを目深に被った男が一人、路地裏に立っていた。
『そう・・・今は手を出さなくていいわ・・・ありがとうツヴァイ。』
『承知しました。・・・では。』
ツヴァイと呼ばれた黒いローブを着た男は、胸元から手を外す。
・・・しかし、人間だけで救援とは、エルフかドワーフがいなければ、救援も時間を要するな。
しばらく、町で様子を見るか・・・。
ベールと同じく、偵察に出た魔眼持ちである彼は、共和国での偵察を行っている。
「おやおや・・・こんなところにいらしたとは・・・。」
ツヴァイに声をかける人物がいた。
振り向くと、深い緑の外套を着て、あちらも目深にフードを被り顔を隠している。
「なにかな?・・・知り合いは少ないんだが・・・。」
「急に声をおかけしたのは、貴殿が魔族ではないかと思ったからでして・・・。」
「・・・。」
「不思議ですかね?・・・魔法を使えれば、相手の魔力がわかるのも道理かと。」
「・・・厄介ごとは避けたいんだがな。」
・・・今は偵察中だ。連絡は気取られずに取れるが、自分が見つかったなどと報告したら、お嬢様に嫌われてしまう。
ツヴァイは、警戒心を強め、何をされても動けるよう身構えた。
「いえいえ、ただね・・・我々も協力させていただきたいのですよ・・・。」
「協力とは?」
「・・・我々は、人間を減らしたい。」
「俺を魔族と言っておきながら、人間を減らすとは・・・エルフか?」
聞き返しながら、ツヴァイは胸元に手を置いた。
「・・・ええ、お察しが早くて助かる。」
「エルフは、魔力のない人間達と協調していると思っていたがな。」
「我々にもいろいろと、事情がありましてね・・・」
「・・・だが我々もただで、使われる気はないのでな。」
「もちろんですよ、魔法使い。」
「貴様、どこまで知っている?」
「我々も、魔法が使えるのでね。・・・その辺りの調査は早いですよ?」
「まぁいい・・・ここで騒がれても困る・・・返答は後日とさせてもらうよ。」
「ええ、かまいませんとも・・・くれぐれもお願いしますよ。」
言い終わると、緑の外套の男は、路地を抜け立ち去っていく。
『申し訳ありません、見つかりました。』
『気にしなくていいわ・・・それも見越して、あなた達に偵察をお願いしているのだもの。』
『しかし、エルフが人間を・・・』
『まぁ、彼らもいい加減、魔族と言うのも飽きて来たんじゃない?・・・魔力を持った人間もいる事を知っているのでしょうし。』
今は、数が少ないだろうが、人間にも時折魔力を持って生まれる者がいないわけでは無い。
エルフも魔力があるので、見る者が見れば、人間にも魔法を使える可能性がある事がわかってもおかしくない。
『ベールもいるし、一度戻りなさい。・・・近くの森へ迎えに行くわ。』
『・・・承知しました。』
ツヴァイは、胸から手を放し、町の近くの森へ向かうため、歩き始めた。
自室で報告を聞いたチェシーは、考えていた。
・・・それにしてもツヴァイが見つかるなんて、エルフも本気ね。
ツヴァイの魔法は、偵察に向いている。
仮に使っていなかったとしても、彼はベールに指導を受け、偵察兵としては、一端だ。
戦闘も優れたものを持っているし、手持ちの魔眼持ちの中でもバランスがいい。
・・・まぁ、見つかったものは仕方ないわね。
「誰か・・・見つかりましたか?」
「ええ、ツヴァイよ。・・・予想してなかったわ。」
「・・・なんと。」
ベールに見つかった者の名前を言うと、彼もまた驚いた様子で、片方の眉を上げていた。
「見つけたのはエルフよ・・・魔法を使って探したのかしらね?」
「魔法で探すにも、少々情報が必要かと。」
「方法は、いいわ・・・置いておきましょう。それよりも交渉ね。」
「交渉ですか?」
「ええ、どうやらエルフも人間が嫌になったみたい。」
「・・・それは、悲しい事ですね。」
「ええ、本当にね。」
過去、人間、エルフ、ドワーフは連合を組み、魔族と戦争をした。
だが、魔大陸と呼ばれたこの大陸にもエルフはいる。
こちらと、向こうでやり取りをしていたとしても不思議ではない。
それでも向こうの大陸に残ったエルフは、魔力のない人間に協力し、今はその存在を疎ましく思っている。
協生していた人間とエルフは、長い歴史の中、いつの間にか互いを良く思わなくなってしまったのだろうか。
「まぁ、ただ使われるのは面白くないし、交渉は私がするわ。」
「御供させていただきます。」
「ええ、お願いね。」
魔力のない人間達の将来を、魔力のある者が決める。
これも、人間の業なのだろうか。
チェシーは、胸に提げた金属の輪を少し触れながら考えていた。




