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無刀の剣聖  作者: ところてん
30/72

30.混血の子供

「ほら、あの人・・・」

「魔族を助けたって・・・」

「よく歩いていられるわ・・・」


ガレイが帝国の首都、ジェニムを歩くと、噂の好きな人間が周囲でひそひそやっていた。

聞こえないとでも思っているのだろうか。

彼は、自然と厳しい表情になったが、歩くのをやめなかった。


「パパっ!」


歩いていると、一人の少年が呼びかけながら、ガレイに寄って来た。

まだ幼く、金髪で綺麗な目をしたその少年の耳は、少しだけ尖っている。


「おぉー、ジェイムズ!迎えに来てくれたか・・・」

「うん!」


ガレイは、目の前まで来た少年を抱き上げ、笑顔になった。


「ママはどうした?」

「お家でご飯作ってるって!迎えにいってって頼まれたの!」

「・・・そうか。なら帰ろう。」

「うん!」


ガレイは少年を抱えたまま、また歩き始めた。

調査の為、南側へ赴いていたが、こちらに帰ってきて、報告するとそのまま捕まっていたので、久しぶりの我が家になる。


「ママ!ただいま!」

「帰ったぞ・・・こら、手を洗え!」


家に着いたので、抱えていたジェイムズを下ろしたのだが、元気に走りだしてしまい、どうやらキッチンへ向かっているので、注意する。

しかし、元気がいい子供だ、先に母親の元に到着した。


「ママ!パパお迎えにいってきたよ!」

「ありがとう、ジェイムズ・・・でも手は洗わなきゃ。」

「うん!」


ジェイムズは、元気よく手を洗いに行った。

その様子を見つつ、ガレイもキッチンへ入る。


「・・・戻ったぞ。」

「おかえりなさい・・・よかった。」


ガレイの妻は、エルフだ。金髪で長い髪、エメラルドの目、子供を産んだとは思えない、美しい容姿。

自身の夫が帰ってきて、安心からか少し涙を浮かべている。


「エィス、すまない・・・心配をかけたな。」

「・・・戻ってきてくれて、よかったわ。」


夫婦は抱き合い、その存在が確かにいる事を確認しあう。


「さぁ、ご飯にしましょう。」

「そうだな・・・。」


緊張が解けた為か、ガレイの腹は大きな音を出した。


「ふふっ・・・よほどお腹がすいているのね。」

「・・・すまんな。」


ガレイは、少し恥ずかしそうだ。

トタトタと子供が走る音が聞こえ、その発生源はすぐに姿を現した。


「ジェイムズ!手は洗ったか?」

「うん!洗ったよ!」


両手を広げで、まだ濡れた手をガレイに見せる。


「よし、ならご飯にしよう・・・パパは腹ペコだ。」

「うん!」


母親に手を拭かれ、食卓に着くと、久々に家族がそろった一家は、顔を合わせて料理を食べる。

ガレイは、死を覚悟していたが、思い残すことはたくさんあった。

暖かい料理を食べながら、自身の生を喜んでいた。





俺は、帝国と共和国の間、自由区の中にある森へ来ている。


「戦争の準備をしているようだったら、それで伝えて。」


そう言って、チェシーが渡して来たのは、首に掛けられるように紐のついた、金属の輪で、内側には何やら模様が描かれていた。


「魔力を通すと、こっちに繋がるわ。」


言いながら、彼女も同じようなものを持っていて、俺に見せた。


「ふーん・・・」


輪を軽く握った状態で、魔力を集めてみる。

手に収まる程度の大きさなので、やりやすかった。


『そう、それで頭の中で考えれば会話ができる。』

『便利なもんがあるな・・・』

『魔術ギルドに流した物と同じよ?・・・見たことなかった?』

「ああ、見たことはない。」


あ、普通にしゃべってしまった。


「案外、難しいでしょ?・・・周りに聞かれてもフォローしないから、そのつもりで。」

「・・・わかったよ。」


確かに、魔力のない人間達の中で、突然しゃべり始めたら、魔法を疑われるか、頭でもおかしい奴と思われるだろう。


「同じねぇ・・魔力がない人間が使えるとは思えないが・・・」

「少し工夫して、使ってるみたいね。」

「工夫?」

「ええ、魔素の濃い場所でとれる金属を使うと、魔力が無くても使えるみたいね。」

「金属に魔素が混ざってるからか?」

「私もやったことがないから、よくわからないのだけど、どうやら繋がりっぱなしになるみたいよ。」

「・・・逆に不便そうだな・・・」


要するに、携帯電話が通話の状態で、ずっと動いているのだ。

遠くに一瞬で情報が伝わるが、逆に必要ない事も一瞬で伝わってしまいそうだ。


「ま、これなら魔力がないと使えないから・・・なにかあったら使いなさい。」

「わかった、そうするよ。」


じゃ、といって彼女は青白い光と共に消えた。


彼女から、受けている命令は、魔物の狩り、そして重要なのは、魔眼を使って魔素を吸収する事のようだ。

魔素だまりと呼ばれる、魔素の特に濃い場所を探して、吸収してしまえという事らしい。


剣聖がやっていた人助けとあまり変わりがないようにも思うが、今は自身の魔力を高める事も重要なので素直に従う事にした。


森は、大きく山脈の麓あたりまで続いているようで、昼でも影ができ、過ごしやすい気候だった。

とりあえず、魔素の集まりを探そうと、魔物を探しながら山脈側へ向かって歩き始める。


「あ、そういえば食料・・・」


ふと、思い出して自分の背負っている小さいカバンを下ろし、中を確認した。


・・・ですよねぇ。


このところチェシーについていたので、補給などしていない。

お金も持っていないし、こういう結果になっても仕方がない。


カバンの中には、堅パンが一つ入っているだけで、それ以外の食料は、入っていなかった。

水袋もあったが、中身は無いに等しい程度。


・・・久しぶりに魔物でも食べるしかないな・・・水はどうするか・・・


このまま魔素だまりを探してもいいが、水が無いのは危険だ。

俺は先に水場を探し、この大きな森をさまようことになった。


さまよっている途中で、猪に近い形をしたボーアという魔物を見つけたので、とりあえず狩っておいた。

今は、血抜きをしつつ肩に担いでいる。


着ている外套はよごれてしまうが、ゆっくり血が抜けきるまでやっていると、日が暮れてしまうし、なによりそんなことを気にしている余裕はない。

水が無ければ死んでしまう。


今日の食料となる魔物を肩に担いで歩いていると、大きな池が目の前に現れた。


・・・魔素は濃くないな・・・人がいてもおかしくはなさそうだが・・・


魔素の薄い場所で、水場があれば村を作るはずだ。

それがされていないという事は、そもそも発見されていないか、何らかの理由がある。


池に近づき、手で水を掬う。

そのまま一口だけ飲んでみた。


・・・大丈夫そうだな。


問題なさそうな事を確認し、今度はカバンから水袋を取り出して、沈めて中に水を入れた。

ふと、対岸側が光った気がした。


見ると、黄色い大きな光の玉みたいなものが、少し暗い森を照らしている。


・・・なんだあれ・・・見たことがないな。

まぁ、襲ってこなければ気にしないことだな。


今日はそこで野営の準備をすることにした。

大した荷物も持っていないので、そんなにやる事があるわけではないが、担いでいた魔物を置き、火を起こす為、薪を探した。


・・・こういうの、久々だな。


一通り、準備ができ魔法で火をつける。

皮をはぎ取り、簡単にさばいた魔物の肉を拾ってきた細い木の枝に突き刺して、火のそばに置いて焼き始めた。


・・・見た目は、普通にうまそうなんだよなぁ。


魔物の肉も、いくら不味いとはいえ、肉である事には変わりがない。

これから味わうであろう不味さを考えながら、火の前で座り、肉が焼けていくのを見ていた。


焼き終わり、久々に一人で食べた魔物の肉は、ゴムのようで、なかなか噛み切れず、鉄臭い味がして、これまで食べたどの魔物よりも、不味かった。

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