3.冒険者仲間
「おい、ジェフ!起きろっ!飯だぞ」
呼び掛けられたからか、軽く足を小突かれたからか、俺は懐かしいあの頃の夢から目が覚めた。
俺は、今はジェフ・ジークという名前で冒険者をしている。
「あー・・・今起きたよ、ロイ」
まだ眠かったし、爺さんの夢を見るのは久しぶりだったので、もう一度寝たかったが、ここはそんなに
ゆっくりしていられない野営のテントだった事を思い出し、仕方なく起き上がってテントからはいずり出ていく。
テント外に出ると、現在の冒険者仲間達3人が焚火を囲んで朝食の準備をしていた。
寝ぼけ眼をこすりつつ、そこに合流する。
「お前が寝坊とか、珍しいな」
そう、軽い感じでニヤニヤしながら、クリストフが声をかけてきた。
「ちょっと昔の夢をな・・・」
クリストフは金髪で男性にしては、長い髪で革製の防具を着ている軽装の弓使いで、近接装備はダガー一本という物語だと最初に死んでく人っぽい。
趣味は、女と酒なのでとにかくチャラい。
「てことは女か!」
こいつはどこにいてもいつも通りだ。
「ちげーよ。」
少し呆れつつ、どこに行っても調子が変わらないってのも長所だと思った。
「昔という事は・・・例のお師匠様の事であるな。」
そう野太い声で、フォローをしてくれたのはガッツだ。
ガッツは、いかつい見た目のままに、金属が多いが動きをそこまで阻害しない防具を着ている。
髪は黒で短髪。ソフトモヒカン。筋トレ大好きおじさんで、大斧を使う。
「あー、子供のころジェフに剣を教えてくれて、名前もくれたっていう人か」
クリストフもどうやら理解したらしい。
こいつらと一緒に冒険者になって長いのでこういうところは助かる。
「まぁ、おかげでこうして俺たちも飯は食えるんだ。感謝しよう。」
いいながら、ロイがみんなの分のスープを器によそい、堅パンと一緒に配る。
ロイは、赤い髪でガッツ程ではないが、短髪であり革が基本だが胸あての部分が金属の防具を着ている。
基本的に槍を使い、サブで片手直剣を使っている。
「ロイってなんか、かーちゃんみたいだよな。」
クリストフが軽口を言いながらスープとパンを受け取る。
「1チームに一人はほしいであるな。」
「ありがとう、かーちゃん・・・」
試しにロイに言ってみた。
「やめろ」
ロイは短く否定すると、食べ始める。
爺さん・・・俺の師匠はもう死んでいる。老衰だったと思う。
爺さんにあの後ついていき、この世界で生きていく術をいろいろと教わった。
魔眼の使い方、魔力のコントロール、狩りの仕方、基礎的な剣技、魔法剣などだ。
魔力のコントロールをある程度覚えたことで、爺さんと同じように魔眼を使ったり、使わなかったり
切り替えられるようになった為、人里に降りても追いかけまわされる事はなくなった。
魔眼は、この人間世界だと迫害の対象だ。世界の中には人間以外にも、ドワーフ、エルフなど多くの種族が存在していて、基本的に魔眼は魔族しかもっていない。
まぁ魔族の特殊な目だから魔眼なわけで、当然なんだが。
大昔に、人間、ドワーフ、エルフの連合と魔族との間で戦争があったらしい。
その際、魔族側の戦力で最強と言われた部隊があり、その構成員全員が魔眼持ちだった。
連合の被害は甚大で、当時の魔族は戦争ということもあり、容赦がなく今でも連合側は、その力を恐れている。
「しかしなぁ、ジェフ・ジークが師匠ってな・・・しかも名前をもらうって・・・」
堅パンをかじりつつ食べながらクリストフが、言った。
「本当ならば、名誉である。」
ガッツがなにか、なにやら生暖かい目でこっちを見てくる。
「でも、伝説の英雄で剣聖様だぜ?・・・しかも何百年も前の!」
「まぁ、ありえないであるな。」
「うるせーよ」
そう、ジェフ・ジークという人物は、その大昔の戦争で魔族の最強部隊を打ち破り、なんとか終戦まで
持ち込ませた連合軍側の英雄の名前である。
それ故か、冒険者になったとき爺さんからもらった名前を口にするだけで周囲から笑われたものだ。
ジェフ・ジークという名前が人間世界で独り歩きしているのもあるが、ようするにイエス・キリストとは、誰も名乗らないのと同じで、英雄・剣聖としてある意味で神格化していまっているので、自分の子供に名づける事などなく、名乗る人物はよほどの馬鹿か、詐欺師くらいのものだ。
「爺さんは、世間の事はあんまり教えてくれなかったの!」
「まぁ、金の使い方も知らなかったしな。」
遠い目をしたロイは思い出したのか、少し笑っていた。
「いいだろ、別に・・・山の中にいたら使わなかったんだから。」
「ふーん・・・そんなもんかね・・・」
クリストフはどこか納得いかなかったようだ。めんどくさい。
「じゃぁ、ジェフはどうして冒険者になろうと思ったんだよ、山の中にいる分には生活に困らなかったんだろ?」
「・・・遺言っていうのかな。そんなもん。」
「遺言であるか?」
爺さんは、死ぬ前に言っていた。
「わしが死んだら、人里におりて冒険者になれ・・・」
「・・・なんで?」
「人は一人では生きられない・・・」
「・・・。」
「そうじゃな・・・小僧にも名前が必要じゃの・・・」
「名前・・・」
「思い出せんのだろ・・・・」
いまだにそうだが、俺は前世での名前を思い出せていない。
そのため俺から名乗る事も出来ず、爺さんは俺を小僧と呼んでいた。
「こう名乗れ・・・ジェフ・ジークと」
「ジェフ・ジーク?」
「そう、それがわしの名であり・・・お前の名前じゃ」
そう言い終わったときに、爺さんは亡くなってしまった。
「・・・わしの名ねぇ・・・」
俺の話を黙って聞いていたものの、クリストフはまだ疑っている。
「名前なんて、なんでもいいじゃないか。」
ロイは、言いながら食べ終わった食器をかたずけていた。
「ジェフは強い、俺たちは冒険者、おかげで飯も食えている。」
「ロイに強いとか言われると照れるな。」
「・・・間違ってはないのである。」
「まぁ、それもそっか。」
他のみんなも食べ終わったので、一斉に野営のかたずけを始める。
テントを小さくまとめ、火を消し食器など小物類と一緒に大きなカバンに詰めていく。
大きいカバンは基本的にガッツが背負い、入りきらない食料などは、俺とロイで分担して、中くらいのカバンに入れて背負っている。
クリストフは、偵察などをしなければいけないので、最低限の物が入る小さいカバンを背負っている。
「さて、出発だ」
ロイがみんなに声をかける。
「今回は、大物狙いだからね。」
クリストフも準備はできたらしい。
「油断は禁物である。」
ガッツも、準備ができたようだ。
「さて、今日も生き残りますか・・・」
そういって、俺は荷物と剣を持ち、立ち上がった。




