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無刀の剣聖  作者: ところてん
25/72

25.新大陸の発見

唐突に起こった魔族による襲撃は、遠方との通信を可能にした魔術の道具によって、残った2大国や自由区でも大きな町にある冒険者ギルドに伝えられた。


ロイ、ガッツ、クリストフの3人は、帝国へ向かう途中、共和国の領内にあるクリムトの町でその情報を耳にする。

この町の冒険者ギルドは、1階は大きな酒場で、2階にあがると依頼などを受注する為のスペースとなっていた。

3人は、とりあえずの補給と旅の疲れを癒す為、酒場を訪れた時だった。


「王国が魔族に襲われた?!」

「ああ、どうやらそうらしい。」

「・・・!」


ロイがギルド職員から聞いた情報を2人に話すと、クリストフは驚き、ガッツは同様の色を隠せない。


「しかも、襲った魔族の中に、青黒い髪のやつもいたらしい・・・」

「それって・・・」


クリストフは、ロイの言葉に目を見開いた。

ガンッ!とガッツがテーブルに拳を叩きつける。


「・・・信じたくはないのである。」

「いや、女と一緒にいたらしい。・・・ほぼ間違いないだろう。」


魔族の強さが、人間とは別次元だとしても、少数に襲われた為、生き残りが死ぬ間際に外部に伝えた情報だった。





ほぼ同時期、アーネットもその情報を耳にする。


「そう・・・王国は残念だけど、私の依頼主もきっと死んでるだろうし、依頼は無かったってことでいいわよね?」

「それは・・・」

「なんで?!もう見つかってるようなものだし、良いじゃない!」

「ですが、王国の情報もまだ調査が終わったわけではないので、なんとも・・・」

「・・・なら、その調査が終わるまでは、ここで飲んでるから!」

「・・・。」


アーネットに詰め寄られたギルド職員も、自分の事しか考えていない冒険者にここまで言われてしまう。

しかし、冒険者という職業の特性上、こういった事もないわけではない。

通常なら「はい、そうですね」で終わる話だ。

情報の信憑性を確認する事は必要となる為、ギルド職員はただアーネットをじっと見るしかできなかった。





「あらかた片づけたし・・・これくらいでいいでしょう。」


戦い・・・いや虐殺が終わり、俺の身体はまた彼女に連れられ、屋敷に戻った。

暗く、魂の牢獄ともいえる場所に、膝立ちで全身を鎖につながれ、身動きも取れない。

俺にとって、今のはただ俺の身体が見ている光景を見せられている。

まるで延々とつづくテレビ番組を眺めているように。


「さぁ、お風呂にはいって、一緒に寝ましょう。」

「ああ・・・」


俺の身体は、特に抵抗するでもなく、人形のように彼女の言葉に同意する。

そして、言われるがままに行動し、考える事もなく彼女を貪る。


彼女と俺の身体に繋がりができたとき、今までなかった事が俺の前で起こった。

カツン、カツンと誰かが正面からこちらに向かって歩いてくる。


「ふふっ・・・君の身体は、私の事が大好きみたいね。」


いつもの黒いローブを着たチェシーは、歩いて俺に近づくと、目の前で立ち止まる。


「やはりお前か・・・」

「ええ、君をそこに閉じ込めたのは私・・・居心地はどう?」

「最低だ。」

「そう・・・やっぱり君のままでは、駄目だったみたいね・・・よかった。」


チェシーは、自身の行動の正当性を確認したようだった。


「なんで俺なんだ?・・・魔眼持ちは他にも侍らせていたようだが・・・」

「だって、君があの裏切り者の名を継いでいるのだもの。」

「・・・裏切り?」


・・・何のことだ?・・・爺さんがそういう事をするとは思えない。


「ええ・・・一番の理由はそれ。」

「一番の理由が俺の名か・・・」

「・・・それに、私の為でもあるわ。」

「お前の?・・・」

「ええ・・・でも、君には教えてあげない。」


目の前の女の考えている事がわからない。


「まぁ・・・いい。裏切りって何のことだ?」

「・・・気になる?」

「俺がこうなってる理由なんだろ?」

「なら、昔話をしましょう・・・」


そう言って、チェシーは俺に語り始めた。


昔々、今から300年以上も昔・・・今なお語り継がれる戦争よりも少し前。

人々は皆、平和に暮らしていました。


人間の中には、時折、強い魔力を持った子が生まれる事がありました。

魔力を持った子は、成長するとやがて魔法使いと呼ばれるようになりました。

強い魔物を倒し、人々に安寧を与え、人には毒となる魔素をその身に吸収し、さらに魔力を高めていきます。

人々と魔法使い達は協力して、街を発展させ、土地を開発し、その文明を少しずつ繁栄させていきます。


ある時、自分達の住む大陸から海に出て新天地を目指した人がいました。

彼は、大陸一の魔法使いでした。


このままでは、皆を支える食料を作れなくなってしまうから。

彼は懸命に皆へ呼びかけました。


すると、人間、エルフ、ドワーフ、獣人・・・多くの人が我こそは、と立ち上がります。

彼は、船を出し、新しい土地を探しに行きました。


彼は、自分達の住めそうな大陸を発見すると、さっそく仲間と協力して未開の地を切り開いて行きました。

これが、新大陸の発見です。


ここまで、話したところでチェシーが言う。


「あら・・・君の身体は、よほど私がお気に入りみたいね・・・」


映し出された光景を見上げると、どうやらその行為にも終わりが近いようだ。


「まぁ・・・続きは今度にしましょう。我慢できなくてこうしてしまったけど・・・私は君にも協力して欲しいもの。」


応えずにいると、チェシーは俺の前から姿を消した。

そして、俺の身体の興奮が冷めていくのがわかった。


「ふふっ・・・頑張り屋さん・・・」

「・・・そうかな。」

「今日は疲れたでしょう?寝ましょ・・・」

「・・・ああ。」


俺の身体の瞳は閉じられ、辺りは真っ暗になった。


・・・剣聖の裏切り?・・・ただ、昔話をしたかったのか。


俺には答えがわからないが、このまま待つことしかできなかった。





「王国へ向かうのである・・・」

「でも・・・本当かどうかも、わかんないじゃん!」

「本当だったら?・・・ジェフは・・・もう・・・」


覚悟を決めた顔のガッツ。

クリストフは、急な情報でまだ試案も必要だと思っている。

ロイは、女に連れていかれた仲間の行動が、最悪の物である事を考慮する。


「・・・本当なら・・・俺達が斬るしかない。」

「ロイ!ちょっと待てよ・・・」


それがいつもの悪癖からなのか・・・そうでないのは表情の真剣さが物語る。


「・・・せめて某達でやるのである。」

「ガッツ!・・・考え直せって!!」


クリストフの胸倉をロイがつかみ引き寄せる。


「いいかげんにしろ!・・・本当なら・・・ジェフはもう、俺達の仲間には戻れない!そうでなくても・・・」

「だけど!・・・ジェフとは一緒に旅した仲間じゃないか!!」


クリストフの肩に、手が置かれた。

ガッツだった。普段なら頼りになる大きな手が、小刻みに震えている。


「クリストフ・・・仲間だからこそ、けじめをつけるのである。」

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