25.新大陸の発見
唐突に起こった魔族による襲撃は、遠方との通信を可能にした魔術の道具によって、残った2大国や自由区でも大きな町にある冒険者ギルドに伝えられた。
ロイ、ガッツ、クリストフの3人は、帝国へ向かう途中、共和国の領内にあるクリムトの町でその情報を耳にする。
この町の冒険者ギルドは、1階は大きな酒場で、2階にあがると依頼などを受注する為のスペースとなっていた。
3人は、とりあえずの補給と旅の疲れを癒す為、酒場を訪れた時だった。
「王国が魔族に襲われた?!」
「ああ、どうやらそうらしい。」
「・・・!」
ロイがギルド職員から聞いた情報を2人に話すと、クリストフは驚き、ガッツは同様の色を隠せない。
「しかも、襲った魔族の中に、青黒い髪のやつもいたらしい・・・」
「それって・・・」
クリストフは、ロイの言葉に目を見開いた。
ガンッ!とガッツがテーブルに拳を叩きつける。
「・・・信じたくはないのである。」
「いや、女と一緒にいたらしい。・・・ほぼ間違いないだろう。」
魔族の強さが、人間とは別次元だとしても、少数に襲われた為、生き残りが死ぬ間際に外部に伝えた情報だった。
ほぼ同時期、アーネットもその情報を耳にする。
「そう・・・王国は残念だけど、私の依頼主もきっと死んでるだろうし、依頼は無かったってことでいいわよね?」
「それは・・・」
「なんで?!もう見つかってるようなものだし、良いじゃない!」
「ですが、王国の情報もまだ調査が終わったわけではないので、なんとも・・・」
「・・・なら、その調査が終わるまでは、ここで飲んでるから!」
「・・・。」
アーネットに詰め寄られたギルド職員も、自分の事しか考えていない冒険者にここまで言われてしまう。
しかし、冒険者という職業の特性上、こういった事もないわけではない。
通常なら「はい、そうですね」で終わる話だ。
情報の信憑性を確認する事は必要となる為、ギルド職員はただアーネットをじっと見るしかできなかった。
「あらかた片づけたし・・・これくらいでいいでしょう。」
戦い・・・いや虐殺が終わり、俺の身体はまた彼女に連れられ、屋敷に戻った。
暗く、魂の牢獄ともいえる場所に、膝立ちで全身を鎖につながれ、身動きも取れない。
俺にとって、今のはただ俺の身体が見ている光景を見せられている。
まるで延々とつづくテレビ番組を眺めているように。
「さぁ、お風呂にはいって、一緒に寝ましょう。」
「ああ・・・」
俺の身体は、特に抵抗するでもなく、人形のように彼女の言葉に同意する。
そして、言われるがままに行動し、考える事もなく彼女を貪る。
彼女と俺の身体に繋がりができたとき、今までなかった事が俺の前で起こった。
カツン、カツンと誰かが正面からこちらに向かって歩いてくる。
「ふふっ・・・君の身体は、私の事が大好きみたいね。」
いつもの黒いローブを着たチェシーは、歩いて俺に近づくと、目の前で立ち止まる。
「やはりお前か・・・」
「ええ、君をそこに閉じ込めたのは私・・・居心地はどう?」
「最低だ。」
「そう・・・やっぱり君のままでは、駄目だったみたいね・・・よかった。」
チェシーは、自身の行動の正当性を確認したようだった。
「なんで俺なんだ?・・・魔眼持ちは他にも侍らせていたようだが・・・」
「だって、君があの裏切り者の名を継いでいるのだもの。」
「・・・裏切り?」
・・・何のことだ?・・・爺さんがそういう事をするとは思えない。
「ええ・・・一番の理由はそれ。」
「一番の理由が俺の名か・・・」
「・・・それに、私の為でもあるわ。」
「お前の?・・・」
「ええ・・・でも、君には教えてあげない。」
目の前の女の考えている事がわからない。
「まぁ・・・いい。裏切りって何のことだ?」
「・・・気になる?」
「俺がこうなってる理由なんだろ?」
「なら、昔話をしましょう・・・」
そう言って、チェシーは俺に語り始めた。
昔々、今から300年以上も昔・・・今なお語り継がれる戦争よりも少し前。
人々は皆、平和に暮らしていました。
人間の中には、時折、強い魔力を持った子が生まれる事がありました。
魔力を持った子は、成長するとやがて魔法使いと呼ばれるようになりました。
強い魔物を倒し、人々に安寧を与え、人には毒となる魔素をその身に吸収し、さらに魔力を高めていきます。
人々と魔法使い達は協力して、街を発展させ、土地を開発し、その文明を少しずつ繁栄させていきます。
ある時、自分達の住む大陸から海に出て新天地を目指した人がいました。
彼は、大陸一の魔法使いでした。
このままでは、皆を支える食料を作れなくなってしまうから。
彼は懸命に皆へ呼びかけました。
すると、人間、エルフ、ドワーフ、獣人・・・多くの人が我こそは、と立ち上がります。
彼は、船を出し、新しい土地を探しに行きました。
彼は、自分達の住めそうな大陸を発見すると、さっそく仲間と協力して未開の地を切り開いて行きました。
これが、新大陸の発見です。
ここまで、話したところでチェシーが言う。
「あら・・・君の身体は、よほど私がお気に入りみたいね・・・」
映し出された光景を見上げると、どうやらその行為にも終わりが近いようだ。
「まぁ・・・続きは今度にしましょう。我慢できなくてこうしてしまったけど・・・私は君にも協力して欲しいもの。」
応えずにいると、チェシーは俺の前から姿を消した。
そして、俺の身体の興奮が冷めていくのがわかった。
「ふふっ・・・頑張り屋さん・・・」
「・・・そうかな。」
「今日は疲れたでしょう?寝ましょ・・・」
「・・・ああ。」
俺の身体の瞳は閉じられ、辺りは真っ暗になった。
・・・剣聖の裏切り?・・・ただ、昔話をしたかったのか。
俺には答えがわからないが、このまま待つことしかできなかった。
「王国へ向かうのである・・・」
「でも・・・本当かどうかも、わかんないじゃん!」
「本当だったら?・・・ジェフは・・・もう・・・」
覚悟を決めた顔のガッツ。
クリストフは、急な情報でまだ試案も必要だと思っている。
ロイは、女に連れていかれた仲間の行動が、最悪の物である事を考慮する。
「・・・本当なら・・・俺達が斬るしかない。」
「ロイ!ちょっと待てよ・・・」
それがいつもの悪癖からなのか・・・そうでないのは表情の真剣さが物語る。
「・・・せめて某達でやるのである。」
「ガッツ!・・・考え直せって!!」
クリストフの胸倉をロイがつかみ引き寄せる。
「いいかげんにしろ!・・・本当なら・・・ジェフはもう、俺達の仲間には戻れない!そうでなくても・・・」
「だけど!・・・ジェフとは一緒に旅した仲間じゃないか!!」
クリストフの肩に、手が置かれた。
ガッツだった。普段なら頼りになる大きな手が、小刻みに震えている。
「クリストフ・・・仲間だからこそ、けじめをつけるのである。」




