24.魅了
ちょっとエロイので苦手な方は、読まない方がいいかもしれません。
風呂からあがった俺は、いつもの部屋に戻ると1日で歩いた疲れたこともあり、ベットに横になると、眠ってしまった。
目を覚ますと、何やら重いような、柔らかい物が俺の上にあるのがわかる。
視線を下げると、見慣れた深い紫の髪の女性が俺に覆いかぶさるように寝ていた。
どうやらあちらも気が付いたようで、目をゆっくりと開き状態を起き上がらせる。
部屋の中は薄暗かったが、俺はなぜか魔眼を使ったままのようで、彼女の様子ははっきりと視る事が出来た。
「あら?起きちゃったの?」
「・・・そのようだ。」
ちょっとまて、俺は返事をしていない・・・今の状況に混乱している。
「もう、まだ足りなかった?さっきまであんなにしてたのに。」
「・・・どうやらそのようだな。」
妖艶という言葉は、彼女の為に存在するようだ。
彼女のやわらかさと、その美貌にあてられたのか、俺の身体は正直に反応している。
・・・違う!そうじゃない。・・・なんで思った通りに身体が動かないんだ。
意識ははっきりしているが、身体の自由が利かない。
まるで、鎖で全身を動けないように縛られているのか。
だが、現実として俺の身体は求めるがまま、目の前の女を貪る。
「あぁっ・・・私、悪い女でしょ?」
「いや・・・最高だ。」
「そう?・・・よかった。」
俺は自身の意思で身体を動かせないが、身体は勝手に動くのだ。
話す言葉も、行動も別の誰かが操っているかのようで、ただ俺はその光景を延々と見せられる。
「君は、私の物よね・・・」
「そうだな。」
「なら、私のお願いを聞いてくれる?」
「ああ。」
自分の声だが酷く冷たい。
感情が表に出ない声。
・・・このまま何もできないのか。
力いっぱい動かそうとしても身体は言う事を聞いてくれない。
「なら・・・みんなで私達の先祖の敵討ちをしに行きましょう。」
「みんな?」
「ええ・・・君は私にとって特別だけど、他にも仲間を用意したわ。後で紹介してあげる。」
「わかった。」
「ねぇ、今は・・・続きをしましょう。」
彼女の呼びかけに、ただ俺の身体は応えていく。
俺はどうやら、もう見ている事しかできないらしい。
その世界は黄色味を帯びていて、懐かしさを覚えるが、自分が捕らえられたのだと自覚する事は、そんなに難しくなかった。
行為も終わり、一息つくと俺の身体は、まだ新しい武具を身に付ける。
それを眺めていた女が言った。
「あら?その剣・・・まだ使うの?」
「ああ、予備としてはあった方がいい。」
「・・・予備なら、ここにあるわ。」
彼女はベットから起き上り、部屋の奥に移動する。
その一糸纏わぬ後ろ姿ですら、俺の身体を魅了するようだ。
持って来たのは、武器屋で受け取った魔法剣の柄と同じもの。
渡されて、手に取るとしっかりと身体になじむのがわかる。
「君の金色の目には、こっちの方があってるもの・・・」
「・・・しかし、これは・・・」
・・・駄目だ!それは、爺さんの剣だ!俺が持っていなければいけないものなんだ!!
「どうしても、捨てられないの?」
「・・・そのようだ。」
「なら・・・私がその剣を持っているわ。」
「・・・」
「君を近くで感じられそうだもの、大切に持つから。」
「・・・わかった。」
そう同意して、俺の身体は彼女に爺さんの剣を渡してしまった。
やめろ!!!!
だが、俺の声など誰にも届かない。
意識があっても、身体は動かない。
彼女が服を着ると、部屋の外に待機させていたのだろうか、呼びかける。
「入りなさい。」
「はっ」
入ってきたのは6人。
全員が黒で統一された装備を身に纏い、黒いローブのような外套を羽織っている。
1人を除いて黒いフードを目深に被り、影ができて顔が確認できなかった。
しかし、暗闇の奥にはそれぞれの眼が怪しく光っている。
「全員魔眼持ちか。」
「ええ、そうよ。私の為に集まってくれたの。」
フードを脱いでいる男は、見たことのある男だった。
白髪で全身が厚い筋肉の鎧を着ているかのようなその男は、変身の魔法の使い手だ。
その男の両目は、紅く魔眼が光っている。
「あんたもそうだったんだな。」
「ええ、ですが隠していたわけではありません・・・聞かれませんでしたから。」
「確かにな・・・」
俺の身体は、彼女と買った白っぽい外套ではなく、渡されるまま、黒を基調として白のラインが淵に入った外套を着た。
「揃ったところで、行きましょうか。・・・私達の先祖、魔法使いを魔族と呼び、蔑む愚かな人間どもを一掃しに・・・」
彼女がそういうと、辺りが青白い光に包まれた。
光が終わると、どうやら見たことのある場所に着いた。
そこは、王国の繁栄の象徴ともいえる街、ベイーズの門の前。
「さぁ、行きなさい・・・全員無事で還ってくるのよ。」
俺以外の全員が、街に向かって散開しつつ移動していく。
その様子を見ていたのか、彼女が惜しげもなくその身体を俺の身体に預けてくる。
「ねぇ、少しは感慨深い?・・・」
「・・・いや。」
「そう・・・君をくだらない事で追い詰めた人間は、死んで当然よね。」
「・・・そうだな。」
目の前の街から、衛兵が出てきた。
どうやらこちらに向かってくるようだ。
「君は、私を守ってくれるわよね。」
「当然だ・・・。」
俺の身体は、後ろ手に剣を抜き、近寄ってきた衛兵を容赦なく切り裂いた。
そのまま、彼女に連れられ街へと進み、真直ぐと城に向かっていく。
見覚えのあるやつが、部下を連れて目の前に現れた。
「魔族風情が・・・調子に乗って戻ってきたか!!!」
「・・・ヴィン、人間程度に俺を止められるとでも?」
「なにを・・・」
彼が、俺の隣の女を見て驚いているようだ。
「・・・貴様は!・・・どういうことだ!我々は、協力していたではないか!!」
「あら・・・なんのこと?」
「とぼけるな!貴様の用意した魔術の道具を、魔術ギルドに流していたのは私だぞ!!」
「・・・俺の女が、お前如きを相手にするわけがないだろう。」
言い放ち、俺の身体は、ヴィンの取り巻きの一人を斬る。
その剣は黄金に輝き無慈悲にも、金属など意味をなさないように、その手に持った盾も無視するかのように、鎧ごと兵士の身体を真っ二つに斬り分けた。
「ぐ・・・ジェフ!貴様!!!」
「人間に俺の名を呼んで欲しくないな。」
一方的だった。10人はいた取り巻きも、これまで散々嫌がらせをしてきた男も、一瞬でただの肉塊となる。
その光景を俺は、自身の身体の中からただ・・・見ている事しかできなかった。
「怪我はないか?」
「大丈夫・・・だって私には君がいてくれるもの。」
いつの間にか、街には火が放たれ、夜の空を煌々と照らしていた。
人々は魔族、魔族と騒ぎたてるだけで、抵抗など意味をなさず、ただの肉へと変わっていく。
散乱した血と肉、すでに濃くなっていた魔素がさらに濃くなり、どこから現れたのか魔物が出てきた。
「・・・飼い主はいないようだな。」
「大方、コロシアムで使ってたんじゃない?本当に野蛮ね・・・こんなに魔素を濃くするなんて。」
「今の俺には好都合だ。」
「そうね・・・やっぱり君がいないと駄目。」
俺の身体は、魔眼の力を開放した。
周囲の魔素が、俺に向かって集まってくる。
自然と魔物も寄ってきたが、集まった魔素は次々に俺の身体にとりこまれ、その魔力を高めていく。
先程よりも輝きを増した剣は、集まった魔物を簡単に切り裂いていく。
周囲には魔物の血と、臓物がまき散らされた。
少し、彼女の服の裾を汚してしまった。
「すまない、汚れが・・・」
「いいわ、君が私を守ってくれた証拠だもの。」
繰り返される惨劇を俺は、自分の身体の中から、ただ見ているしかできなかった。




